全国津々浦々、さまざまな方法で町おこしが行われています。大阪の東大阪市(ひがしおおさかし)では、なんと「カレーパン」での町おこしが盛んなのだとか。東大阪市とカレーパン、いったいどんな関係が? カレーのよい香りにつられながら、さっそく現地へとおもむきました。
なんでやねん? カレーパンのまち東大阪
東大阪市。大阪府下では大阪市、堺市に次いで第3位の人口を擁する中核市です。高い技術力を誇る中小企業が多く集まっているところが特徴で、あのNASAのマシンに使われるナットも東大阪の町工場産。また、スポーツがお好きな方には花園ラグビー場をいだく「ラグビーのまち」として知られています。
そんな東大阪市を歩いていると、確かに「カレーパンのまち」をうたう黄色いのぼりをよく目にするのです。
「なんでやねん? カレーパンのまち 東大阪」
でも、カレーパンと東大阪市って、どんな関係があるのだろう。カレーパンって、東大阪市が発祥だったかしら? そんな話、一度も聞いたことがないのだけれど。ほんま「なんでやねん???」。
カレーパンと東大阪市の意外な関係
そういうわけで、なぜ東大阪市が「カレーパンのまち」なのかを探るべく、東大阪市役所を訪問しました。
ご対応いただいたのは経営企画部企画室の岸本高延さん。東大阪カレーパン事業の発足は2011年。カレーパンによる町おこしは6年目を迎えているとのこと。
そもそもの疑問として、中核市に指定される東大阪市になぜ町おこしが必要だったのでしょう。人口が多く、交通の便もよく、高速道路も整備され、申し分ないように思うのですが。
岸本 「東大阪市は、ものづくりの街として知られ、技術力は高いのです。そこに注目してもらうために工場見学なども実施してはいるのですけれど、観光や行楽で訪れるイメージがない。交通の便がいいがために、反対に素通りされてしまうのです。若手職員たちがこの状況に危機感を抱き、『これから他都市から東大阪市へお越しいただくためのスキームづくりが必要ではないか?』ということになったのです」
なるほど、言わば未来のための町おこしなのですね。でも、それがなぜ「カレーパン」なのでしょう。
岸本 「理由はふたつあります。東大阪市は花園ラグビー場を有する『ラグビーのまち』として全国的に知られており、ラグビーボールのかたちがカレーパンに似ていること。もうひとつは、カレーでおなじみなハウス食品の本社が東大阪市にあること。そのため地元のパン屋さんとも円滑な関係を結ばれていたんです。それを合わせて、『カレーパンで町おこしをしよう』ということになり、行政と民間がともに動く『東大阪カレーパン会』が結成されたのです」
おお! 官と民がカレーパンをはさんでスクラムを組み始めたのですね。
はじめは批判もあったカレーパン事業
この「東大阪カレーパン会」、起ちあげとともに、ハウス食品と地元のパン屋さんが共同で東大阪市のオリジナルカレーフィリング「カレンちゃんのこころ」を開発したというから、本気です。現在28軒の会員店舗があり、新しいカレーパンも続々と生みだされています。
しかしながら……ラグビーボールのかたちが「カレーパンのまち」の起因理由というのは、ちょっとタックルが強引な気がするのですが……。
岸本 「正直言って、そうなんです。たとえば栃木県の宇都宮市は“餃子の街”を表明されていますが、これはそもそも餃子の消費量が日本一であるなど地元の食習慣に根づいているからです。しかし東大阪市とカレーパンは、本来はゆかりがない。それゆえ当初は『行政が率先してこじつけで町おこしをするのは違うのではないか?』というご批判も確かにいただきました。ただ地元のお祭りにパン屋さんが交代で出張出店してカレーパンを売るなど、東大阪カレーパン会の方々の尽力によって、次第に理解を得られるようになってきました。大阪市内の百貨店から催事の誘いがあるなど、ブランドイメージがつき始めたと感じています」
やはりはじめはスパイシーな批判もあったのですね。とはいえ、お祭りにカレーパン、それはこれまでありそうでなかったアイデア。カレーパンはみんな大好きですから、きっと喜ばれますよね。では具体的に数値化できる経済効果はあったのですか?
岸本 「はっきりした数字はまだ出ていないです。ただ、パンを特集した全国誌に東大阪カレーパンを5ページも割いて紹介していただいたり、全国高校ラグビー大会では東大阪カレーパンの販売が名物となってきたり、少しずつ浸透してきていると思います」
腹ぺこの高校生たちにとって、冬のラグビー場で食べるカレーパンは、なによりのご馳走でしょう。東大阪のカレーパンを全国に知らしめるのは、観光客より先に、おなかをすかせた学生たちなのかもしれません。さらに2019年にはラグビーのワールドカップの試合が東大阪市でも開催されますから、世界的なブレイクもありえる!!