JR線田端駅から徒歩6分ほどのところにある、東京・北区にある「東覚寺(とうかくじ)」。地元の人たちから親しまれている創建年1491年の古いお寺です。こちらのお寺にある仁王像は、ユニークな見た目として注目を浴びています。一体どういうことなのでしょうか?
炎に包まれた守護神が安置された寺、北区の「東覚寺」へ
古くから、仏敵の侵入を防ぐ守護神として寺院の参門に安置されている金剛力士像(通称:仁王像)。
古くは法隆寺の中門に立つ塑像が知られていると共に、近年では、ゲームやアニメのキャラクター、あるいはそのモチーフとされるなど、比較的身近な仏像の1つです。
そんな仁王像の中でも、一風変わった仁王像を安置しているお寺が、東京都の北区に存在するとの情報を得て、真相を確かめに行って参りました。その仁王像の名前は、“赤札仁王尊”。いったいどんな仁王像なのでしょう?百聞は一見に如かずです。その姿がこちら。
赤い札がたくさん貼られた仏像のお目見えです。このままでは、この像が本当に仁王像なのかという事がわからないくらいたくさんの札が貼られています。ちなみに時期によっては、さらに多くの札が貼られている事もあるようです。かなりインパクトのある仏像です。
通常の仁王像が寺院に仏敵が侵入する事を防ぐ事を目的として安置されるのに対し、この赤札仁王尊は、江戸時代に流行していた疫病を静めるために、宗海上人が願主となって建立されたものということです。
古来、病は悪魔やもののけの仕業であるとされていたそうです。そんな悪魔やもののけを祓う手段の1つとされてきたのが火(炎)でした。赤札は、そんな病(悪魔)を焼除する火の色をイメージしたものだそうです。そして、そのようなイメージを持つ赤札を仁王像における自分の患部と同じ個所に貼る事で、病気の身代わりと心身の安穏を願うそうです。
患部と同じ個所に札を貼るという習わしを調べてみると、他にも、岐阜県の華厳寺に水地蔵という仏像があるそうです。しかしながらこちらの仏像は白い呪符を貼るようなので、赤い札を貼りつけるという東覚寺の仁王像は、大変めずらしい仏像なのだと思います。
金剛力士は、サンスクリット語では、金剛杵(こんごうしょ:仏敵を退散させる法具)を持つ者を意味する“ヴァジュラダラ”と言うそうなので、悪魔やもののけなど、厄をもたらすものを滅してもらうという意味では、赤札の習わしというものは、本来の金剛力士の理に適っているのかもしれませんね。
さて、実際の赤札ですが、これは紙ではなく、手触りはビニールっぽい素材で出来ています。もしかしたら、昔は紙製だったのかもしれませんが、風雨にさらされる事で札が飛散したりする事を防いでいるのかもしれませんね。
仁王像に貼りつける赤札は、お寺の敷地内にある寺務所(お寺の事務所は寺務所、神社の事務所は社務所というそう)で入手する事ができます。なお、お参りする際は、阿像、吽像の順番に行うそうです。
仁王像の脇には、これまた一風変わった奉納棚が設けられています。なんと沢山の草履が奉納されているのです。
草履を奉納する理由は、仁王様は、日夜、祈願を行った人や、病気の人を見舞うために歩きまわられているため、多くの草履を消費するであろうという事から。
このため祈願者は、満願(願いが叶うこと)のあかつきに草履を奉納するという習わしがあるそうです。これだけ多くの草履が奉納されているという事は、祈願された多くの方々が快方に向かわれたという事なのでしょうね。