京都府の南部、木津川市にある海住山寺(かいじゅうせんじ)は、数多くの貴重な文化財を有する古刹です。国宝の五重塔が有名ですが、秋には紅葉の名所としても知られており、境内にはユニークなご利益スポットもたくさんあります!
今回は見どころ豊富な海住山寺を徹底解剖してご紹介します。
※記事中の情報はすべて2024年10月時点のものです。
海住山寺とはどんなお寺?
海住山寺は、奈良との県境、木津川市にある奈良時代創建の古刹で、木津川と瓶原(みかのはら)を見下ろす三上山の中腹に位置します。
山門をくぐると正面に本堂が立ち、その南に五重塔、北前方に文殊堂、文殊堂の背後に本坊があります。
お寺が創建されたのは恭仁京造設の6年前。聖武天皇の勅願により、東大寺の大仏建立の平安祈願のため、735(天平7)年に良弁(ろうべん)僧正が開創したと伝えられています。
当初は十一面観音を本尊とし「藤尾山観音寺」と呼ばれていましたが、1137(保延3)年に火災による焼失で廃絶してしまいます。しかし、1208(承元2)年に笠置寺の僧・貞慶(じょうけい)が観音寺の廃址に移り住み、寺号を「補陀落山 海住山寺」と改め復興しました。
貞慶が亡くなった後は、弟子の覚真(かくしん)が跡を継ぎ、その後も整備が続けられ、全盛期には58坊もの塔頭(たっちゅう)寺院が立ち並んでいたそうです。
現在も、境内の敷地面積は約1万坪にも及ぶ広さを誇り、総門がかなり離れた場所にあることからもその広大さを感じることができます。
本堂横の階段を少し登ると展望が開ける場所があります。ここからは奈良時代に3年余りで廃都となった幻の都「恭仁京」が置かれた瓶原を眼下に、晴れた日には平城京宮跡や朱雀門、西の京周辺を遠くに望む絶景を見ることができます。
また、瓶原の地名は百人一首にも登場することから、すでに平安時代には名所であったことがうかがえます。
紫式部の曽祖父・藤原兼輔が残した「みかの原 わきて流るる 泉川 いつ見きとてか 恋しかるらむ」という歌は、“みかの原から湧き出て、平野を二分するように流れる泉川(木津川)、一度もあったことがないのに、どうしてこんなに恋しいのだろうか”というロマンチックな恋心を、木津川と瓶原にたとえて詠まれたものなんだとか。
名建築が揃う境内と魅惑の文化財
現存する鎌倉時代唯一の五重塔(国宝)
それでは、ここからは海住山寺が誇る建築物や文化財を紹介していきましょう。
まずは、1214(建保2)年、後鳥羽上皇から下賜された仏舎利(お釈迦様の遺骨)を納めるために建立された「五重塔」(国宝)。全高17.7メートルの大きさは、屋外にある国宝・重文の五重塔の中で、奈良の室生寺に次いで2番目に小さいそうです。
初層の屋根の下には裳階(もこし)と呼ばれる庇状の飾り屋根が付けられています。このように裳階が施された塔は奈良の法隆寺や薬師寺でも見られますが、全国的にも数少ない希少な様式となっています。
内部は心柱が初層天井の上から立てられた珍しい造りになっており、五重塔でこのような造りは海住山寺が最初の現存例といわれています。また、初層内陣には四天柱があり、四方に観音開きの扉が設けられた厨子(ずし)のような構造になっているそうで、各扉の内側には建立当初に描かれた極彩色の仏画や装飾文様が残されています。※内陣は通常非公開
鎌倉時代に建立された文殊堂(重要文化財)
本堂の北側にある「文殊堂」は、五重塔と同じく鎌倉時代に建立されました。寄棟造りの屋根は現在銅板で葺かれていますが、当初は檜皮葺だったと考えられています。
もとは解脱上人貞慶の十三回忌に向けて「経蔵」として建てられ文殊菩薩が祀られていましたが、経蔵の役割を失った後も本尊はそのまま安置されていたことで文殊堂と呼ばれるようになったそうです。
秋の特別展でのみ公開される江戸時代作庭の庭園
文殊堂の裏手にある本坊の庭園は、江戸時代の作庭と伝わる借景式庭園。仏生寺山を借景とした苔庭に、飛石が緩やかな曲線を描くように配置されています。
このお庭は秋の特別展でのみ公開されるので、紅葉の見頃には白い塀の向こう側の大きなが木々が色づき、美しい紅葉の風景を楽しむことができます。※通常非公開
極彩色の四天王像(重要文化財)
鎌倉時代、慶派の仏師によって造立された「木造四天王立像」は、小さいながらも躍動感に満ちた力強いお姿をされています。金銅性の装飾や像表面の彩色も保存状態が良く、見ごたえがありますよ。
四天王立像は五重塔の厨子内に安置されていましたが、現在は奈良国立博物館へ寄託されています。写真は増長天。※通常非公開
平安時代に作られた2尊の十一面観音立像(重要文化財)
海住山寺には平安時代に作られた2尊の十一面観音像立像があり、ともに重要文化財に指定されています。
奥の院に安置されていた十一面観世音菩薩立像(写真)は、貞慶の念持仏(※個人で所有し私的に礼拝する仏像)であったと伝えられています。像高45.5センチの白檀を用いた檀像の小さな観音様ですが、秀麗な美しさを放っています。現在は奈良国立博物館へ寄託されており、秋の特別公開時にのみお戻りになります。※通常非公開
また、本堂の十一面観世音菩薩立像は榧(かや)材の一木造。像高は167.7センチあり、ふっくらした頬の穏やかな表情をされています。
海住山寺は紅葉と桜の名所!
紅葉の名所としても知られる海住山寺。本堂の裏手に続く山道や庭園など、境内のいたる所で紅葉風景を楽しむことができます。
なかでも五重塔と紅葉が重なる情景は心に染みる美しさ!塔の裏側に回ると、写真のようなフォトジェニックな一枚を撮影することができますよ。
紅葉が有名な海住山寺ですが、実は隠れた桜の名所でもあります。静かな境内で桜を愛でながらゆったりと散策を楽しむ、ちょっと贅沢なひと時を堪能できます。五重塔と桜の淡いピンクの組み合わせも、情緒があって素敵ですよ。
また、本堂の裏手に続く山道の途中には「京都の自然200選」にも選ばれている「ヤマモモ」の大木があります。枝の一部が本坊の庭に張り出すほど大きく、なんと京都府内最大のヤマモモだそうです。
海住山寺の広い敷地ではハイキング(入山料:200円 ※文化財特別公開時は別料金)も楽しめるので、行楽シーズンにはぴったりのスポットです。
境内のユニークな見どころ&授与品
貴重な文化財や四季の見どころが多いお寺ですが、まだまだ個性的なご利益スポットなどがあります!
こちらは除災開運や心願成就のご利益がある「願いを叶えるなすのこしかけ」。ナスは「成す」と語呂が同じことや、花を咲かせると必ず実を結ぶということから、なにごとも成就するという意味がある縁起物なんだそうです。
本堂の脇にある「もち上げ大師」は、仏足石(お釈迦様の足の裏)の上に立ち、お地蔵様を持ち上げて願掛けをします。見た目以上に重たいので慎重に持ち上げてくださいね。
本堂の正面脇には鎌倉時代の岩風呂があるので、こちらもお見逃しなく!
境内でご利益をいただいたら、本堂で授与品も授かりましょう。
コロンとしたフォルムが可愛い「願いを茄子守り」(500円)。「願いを叶えるなすのこしかけ」と同じく心願成就のご利益をいただけます。
交通安全を願うなら「目出しダルマ」(500円)のお守りがおすすめです。
「だるまみくじ」(500円)もありますよ。よく見るとお顔が違うので表情にも注目してくださいね。
「水琴鈴お守り」(600円)は開運厄除のご利益があります。優しい鈴の音色に心が癒されます。
2024年10月26日からは「秋の特別公開」が行われ、五重塔の内陣や奥の院の十一面観音立像などが公開されます。また、11月末には境内のライトアップが行われるほか、ジャンボタクシーで巡る(予約制)「会いに行ける美仏」ツアーも開催されているので、ぜひこの機会に海住山寺を訪れてくださいね。
【秋の特別公開】
●五重塔開扉:2024年10月26日(土)〜11月4日(月・振):五重塔《国宝》初層開扉
●文化財特別公開:2024年10月26日(土)〜12月1日(日)
※文化財によって公開期間が異なるので詳しくは海住山寺のHPをご確認ください。
※荒天時は五重塔初層開扉を見合わせる場合があります。
拝観時間:9:00~16:00(拝観受付)
開催場所:海住山寺境内
拝観料:国宝五重塔内陣特別拝観・文化財特別公開(2024年10月26日~11月4日)
・特別拝観料(境内入山料も含む):大人900円/中学生・高校生400円/小学生 特別拝観に同伴の小学生は大人1名に付1名無料(2人目からは400円)
・境内入山料・本坊拝観料(境内への入山):大人300円/中学生・高校生150円/小学生150円
文化財特別公開期間(2024年11月5日~12月1日)
・特別拝観料(境内入山料も含む 本堂内特別拝観):大人700円/中学生・高校生300円/小学生 特別拝観に同伴の小学生は大人1名に付1名無料(2人目からは300円)
・境内入山料(境内への入山):大人300円/中学生・高校生150円/小学生150円
【海住山寺ライトアップ】
2024年11月22日(金)~11月24日(日)
※詳しくはこちら
https://ochanokyoto.jp/enjoy/detail.php?en_id=96
【会いに行ける「美仏」京都 木津川古寺巡礼[浄瑠璃寺/岩船寺/海住山寺/神童子/蟹満寺]】
開催期間:2024年10月5日(土)〜11月30日(土)※土・日・祝日のみ運行(予約制/定員9名)
※詳しくはこちら
https://ochanokyoto.jp/enjoy/detail.php?en_id=92
■■INFORMATION■■
海住山寺
木津川市加茂町例幣海住山20
TEL:0774-76-2256
拝観時間:9:00~16:30
拝観料:500円(入山料を含む)
入山料:200円 ※文化財特別公開時は別料金
※海住山寺への詳しいアクセスはこちら
http://www.kaijyusenji.jp/access/index.html
- source:KYOTO SIDE
- image by:KYOTO SIDE/右上(一社)木津川市観光協会
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