なぜ北海道には「別」という地名が多いのか?

登別、芦別、紋別など、北海道に「別」のつく地名が多いのはなぜなのでしょうか。今回の無料メルマガ『安曇野(あづみの)通信』では、数々の文献にあたりつつその謎を紐解きながら、先住民族・アイヌの人々の自然観についても詳しく紹介しています。

北海道に多い「○○別」という地名

北海道には、「○○別という地名が実に多い。地図帳を開いて見ればすぐわかるが、すなわち登別、紋別、江別、芦別、士別など。

地名好きの私、前から気になっていた。以前、といっても随分前のことだから、ネットといってもまだインターネットが普及する前のパソコン通信、PC-VAN(NEC/BIGLOBEのパソコン通信ネットワーク)に以前私が出入りしていた掲示版に、帯広の北東に位置する本別の方がいたので、その由来などを尋ねたことがあった。

結局その人からはレスは返ってこなかったが、市立図書館で『地名アイヌ語小辞典』という小さな薄い本が目に入ったことで、つまるところ自分で調べることになった。

わかったこと。北海道の○○別という地名、北海道のほかの多くの地名がそうであるように、先代アイヌ人の付けた地名から由来している。そしてこの「別」からも、アイヌ人の和人とは違う考え方発想そして時に生きざままでもがかいま見られて興味深いものが…。

」とは、アイヌ語でpet,i ぺッ(第3人称ペチ)」、川の意味である。漢字は、日本語の読みに置き換えたのだろう。川は、アイヌ人の生活には切りは離されない存在のようで、いろいろな形容をされた「川」が地名そのものになっているのである。内地にも川の名前そのものが地名になっている例もあるだろうが、それはぐっと数少ないだろう。

北海道の別という地名は市町村の地名のほか、ごく小さい地名を加えれば無数といった方がいいくらいいっぱいありそうだ。

『日本地図地名辞典』(三省堂)ほかの資料によれば登別(のぼりべつ)「ヌプルペッ」(色の濃い川、濁れる川――温泉が流れ込んで濁る川の意)であり、江別(えべつ)「エベッ」(胆汁のような川、他に諸説あり)本別(ほんべつ)「ポンペッ」(小川)、紋別「モペッ」(大いなる川)、芦別(あしべつ)「アシペッ」(灌木の中を流れる川)、陸別(りくべつ)「リクンペッ」(高い危ない川)、札幌さっぽろ元々は札幌別さっぽろべつ)「サポロペッ」と呼ばれたものが何らかの理由で省略されたとするのが有力。意味は、乾いた大きな川。

このように北海道には、○○別という地名が多いのだが、別が川という意味以上に、前代アイヌ人の川というものに対する考え方捉え方に強い興味を引かれた。


『地名アイヌ語小辞典』(知里真志保著、北海道出版企画センター刊、昭31.1.3刊、昭59.3復刻)の記述によれば、あらまし次のようなものである。

前代のアイヌ人たちは、川に対して特別な考え方をもっていた。まず、彼らは川を人間と同様な生き物としてとらえていた。だから、人でもある川は、人体と同じような体の部位名を持つのである。

水源は「川の頭」(->pet- kitay)であり、中流は「川の胸」(->pet-ramtom)、河口は「川の陰部(->pet-o)である。支流は「川の腕」(->pet-aw)であり、曲り角は「ひじ」(->sittok)であり、幾重にも曲がりくねっていところは「小腸」(->kankan;yospe)である。

人間だから「夏やせ」(->sattek)し、「死に」(->ray)もする。当然また、子を産んだり、親子連れで山野を歩く(->pon;poro;mo;onneなど)。

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