そろそろ桜の開花が待ち遠しい季節です。今年はどこでお花見しようかな・・と考え出した方々に、ある家族が無償で開放している素晴らしい花の名所を紹介しましょう。場所は福島県福島市です。
数えきれない花々が咲き競う
福島県福島市の「花見山公園」は、写真家の故・秋山庄太郎さんが「福島に桃源郷あり」と絶賛したことで有名です。今年も多くの観光客が、この山を訪れることは間違いありません。
私は親戚が福島にいるので、かなり前から「花見山」のことは聞いていました。「一度は行ってみらんしょ(行ってみなさい)」と勧められていたのですが、花見はどこでもそれほど変わらないと、あまり気に留めていませんでした。
しかし、2014年の春、福島でのお墓参りが終わった後、ふと親戚の言葉を思い出したのです。「そういえば、花見山とか、桜の名所とか言ってたなあ」。訪れてみて後悔しました。なぜ、もっと早く来なかったのだろう・・・と。
そこには、レンギョウ、ソメイヨシノ、トウカイザクラ、ボケ、ハナモモ、モクレンなどが一斉に咲き競い、数えきれない花々が山全体を覆っていました。サクラが満開の時期は、山全体が薄いピンク色になるそうです。
花はもちろんのこと、そのほかに驚いたことが3つあります。ひとつ目は、無償で開放されていること。山には柵も門もありません。
ふたつ目は、東北新幹線福島駅から車でたった15分のところに、このような花の名所の山があること。花に囲まれた山道を少し登れば、花や木立の間から福島市街地の風景が望めます。また、晴れた日には、遠くに吾妻小富士や安達太良山も見ることができます。
みっつ目。花見山は個人所有の山だということです。では、だれの山? それは次の章でご紹介します。まずは、花咲き乱れる花見山の風景をYouTubeで見てください。
(東北・夢の桜街道推進協議会)
じいちゃんの花の山を家族が守る
花見山の初代の所有者は阿部伊勢次郎さんです。昭和の初め頃、養蚕農家から転向した花木生産農家の伊勢次郎さんとその息子の一郎さんが、雑木林を一鍬一鍬手で開墾し、花を植えたのが始まりでした。
戦争の間もこつこつと花を植え、花の山へと育てていきました。戦後の混沌とした時代に、暑さ寒さに耐えて咲く花々の美しさが、将来の希望につながったといいます。
やがて、長い年月をかけて作り上げた美しさが評判となり、山を見せてほしいという声が上がるようになりました。そこで、昭和34年、「自分たちと同じように、ほかの人も花で心を癒してほしい」と、花見山公園として一般開放を始めたのです。阿部さん親子は、訪ねてくる人が増えても「見でってくなんしょ」と快く迎え入れたとか。
それが今まで続いて、無料解放となっているのです。今では福島市民はもとより、花の季節には全国から「花見山」目当ての観光客が訪れるようになりました。
東日本大震災の後、花見山公園は1年間の休業を余儀なくされました。しかし、ぜひ再開してほしいという、たくさんの声が寄せられ、翌年には再び開放し、美しい姿を見てもらえるようになりました。
2代目の一郎さんが2014年に亡くなった後は、「先代から花の力の大きさを教わりました」という3代目の阿部一夫さんに受け継がれています。公式ホームページに4代目、5代目となりそうな阿部さんご家族の写真が掲載されているのは嬉しいことです。
現在では、地域住民や市民団体で構成された協議会の方々が、下草刈りや除草、混雑緩和などに協力。また、依頼すれば「ふくしま花案内人」の方々が、ボランティアでガイドをしてくれます。
花々を楽しませてもらう私たちにとっても、ずっと大事にしたい花の名所です。百聞は一見に如かず。今年のお花見は福島で、というのはいかがでしょうか。
「今日もよし 明日もまたよし 花見山」(阿部伊勢次郎)
- image by:松本すみ子
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