銭湯は銭湯でも、海水を沸かして入る古来の銭湯、伊勢「旭湯」

伊勢神宮で有名な伊勢。古来から伊勢参宮の前には、身を清める為に海水を沸かした銭湯に入るという習慣があったそうで、現在でも地元伊勢の人達に愛されています。

今回は、伊勢神宮からほど近い銭湯「旭湯」を紹介します。伊勢神宮に参拝する前に、ぜひ足を伸ばしてみてはいかがでしょうか?

伊勢の銭湯「旭湯」へ

勢田川沿いにある旭湯

伊勢で「土地の旨いものは地元の人に聞く」という郷土グルメの法則にのっとって伊勢うどんを食し、伊勢神宮を参拝した後はリラックスを求めて、ある場所に行くことにしました。

それは銭湯。

伊勢でわざわざ銭湯!? なぜなら「近くに海水を使ったお風呂に入れるいい銭湯があるんですよ。ホテルのお風呂に入るより、こっちが絶対オススメ」と伊勢で知り合った在住者 2 人から言われたものだから、これは体験してみなくては。

その銭湯の名前は「旭湯」。

「旭湯」の外観

伊勢神宮外宮のある JR・近鉄伊勢市駅前から徒歩約 12 分。お隣の近鉄「宇治山田」駅からだったら徒歩約 9 分。勢田川沿いに立つ旭湯。

木の時計がいくつもある休憩室

入り口は 2 階。ほとんどの銭湯がそうであるように「男湯」「女湯」それぞれの入り口から中へというスタイルではなく、男女ともに同じ入り口から入り、休憩室も男女共同。なんというか地域の娯楽室のような役割を果たしていそうななごやかな空気感。

利用券は販売機で

券売機で入浴券を買い、それを番台に渡して、ようやく男女それぞれの浴室へ。


湯上り後のドリンクも充実

さすがに浴室内の写真は撮れないので、入浴体験談を。

地元の人が絶賛する潮湯は清め湯とよばれる露天風呂。伊勢市内の観光スポット夫婦岩で知られる二見浦で汲んできた海水を沸かしたものです。

湯を舐めてみたら、たしかにしょっぱい!不思議なもので、海水って海水浴時はベタつきますが、温めるとあのベタつきはなくなり、肌に馴染む感じ。肌がサラサラになるよう。ジワジワ〜とカラダがほぐれていき、ゆるむゆるむ。

清め湯のちょうど上の空間には「二見浦の夫婦岩」に見立てた岩が鎮座しています。

この夫婦岩は男岩と女岩で出来ていますが、女湯には「女岩」、男湯には「男岩」を配置。海水を使ったお風呂は清め湯だけですが、電気風呂やジェットバス、スチームサウナ、水風呂など数種のお風呂が楽しめます。
鎮座する縁起の良い夫婦岩が拝めるし、お風呂でカラダは清められるし、自然と「いいことありそう!」な気分ですわ(笑)。

旭湯 3 代目の館主に聞いた

こんな素敵な銭湯、どんな人がどんな思いで作られたのか気になる〜。入浴後、番台にいらっしゃったご主人にお話をうかがうことに。

旭湯3代目の酒徳覚三さん

「こちらの潮湯ですが、二見浦の…」

話しかけている途中で「よくぞ聞いてくださいました!」と満面の笑みで答えてくださったのは旭湯 3 代目の館主、酒徳覚三(さかとく かくぞう)さん。

「毎日、二見浦から 1 日 2 回、2 トンの海水を汲んでトラックで運搬して沸かしているんですよ。潮』という字を分解すると、(海をあらわす)サンズイに『十月十日』になりますね。十月十日といえば? そう、赤ん坊がお母さんのお腹で育つ期間ですよね。お腹の中で赤ん坊が浸っているのは羊水。こんなふうに潮は生命の誕生日から人間に関わってきているんですよ」

昔は伊勢神宮への参拝前に二見浦で潔斎する(身を浄める)ことが慣わしだったそう。その地域の伝統を受け継ぎ、酒徳さんは「清め湯」を作られたそう。

「伊勢神宮には潔斎場(けっさいじょう)があり、神職は神事を行う前に禊をするのですよ。それにならって参拝客の中には、お風呂で身を清めてから神宮に参拝することを礼儀としている人もいます。ところで、どちらからお越しになったの?」「東京です」

「あー。私は東京に行ったら必ず、一番にお参りするところがあるんです。それは伊勢与市(いせよいち)が初めて銭湯を開いたといわれる場所。伊勢与市って知ってます? 伊勢の生まれで、日本で銭湯を初めて作った男なんですよ。江戸で銭湯を開業したら、ものすごく繁盛したの」

江戸の銭湯(当時は湯屋)は天正 19(1591)年に伊勢与市が銭瓶橋(現在の千代田区大手町付近)近くで開いたことが始まり。江戸幕府開闢前に誕生した銭湯は、幕末には 1 つの町におよそ 2〜3 軒ぐらいあったそう。伊勢与市は江戸っ子のニーズに応えるべく銭湯を作ったアイデアと実行力を兼ね備えた人物だっだのでしょう。

彼のヒント源には参宮前の禊という故郷の慣習が息づいていたのかも。なお、初めて銭湯が開かれた場所には「銭瓶橋跡と風呂屋所在地跡」(千代田区大手町)の表示板が立っています。

「東京で伊勢の人が活躍したということが嬉しくてね。ぜひ、日本初の銭湯が開 かれた場所に行ってみてください。与市さんも喜ばれると思いますよ」

ご主人が手書きされる「一陽来復」の短冊も

帰りがけに旭湯の休憩室で配布されている酒徳さん手書きの短冊「一陽来復」にサインをお願いしたら「いやー、自分の名前を書くのは恥ずかしいねえ。だから…」。

いただいた一陽来復には「与市」とありました。

次回はここの清め湯に浸かった後、伊勢神宮へ参拝したいと思いました。清め湯もさることながら、愛すべきご主人にまたお会いしたいです。

汐湯おかげ風呂舘 旭湯
三重県伊勢市神久 1-1-16
Tel:0596-25-1126
営業時間 12 時〜翌 0 時 30 分(大晦日は要問合せ)
休業日 月 1・2 回不定休
入浴料 400 円(2017 年 7 月現在)

  • image by:御田けいこ
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