日光といえば、国内はもちろんのこと、海外からも観光客が訪れる日本屈指の観光スポット。しかし、近年は観光客数の低迷に悩んでいるそうです。起業家養成、ビジネス英語や経営者勉強会などの多様なプログラムを運営するビジネススクールの『大前研一/ビジネス・ブレークスルー』が、その戦略について説明しています。
日光市への観光客数が伸びない理由とは?
QUESTION:あなたが日光市の市長ならば、増え続ける外国人観光客へ向けどのような街づくりを行うか?
今回のケースは、かつては国内外から高い人気を集めた観光地であり、「東京近郊の世界遺産」という強みを持ちながらも、観光客数の低迷に悩む日光市の戦略についてです。
# 日本への外国人観光客は急増しているにもかかわらず、日光市への観光客数が伸びない理由とは?
# 日光の観光資源を活かして街を盛り上げていくには、どのような戦略が必要でしょうか?
#日光市概要
読み進める前に…
以下からはBBT大学学長・大前研一による「課題と戦略」案が続きます。経営に正解はありません。読み進める前に、あなたが経営者であったならどうするか、一度考えてみてください。
※本解説は2015/08/30 BBT放送のRTOCS®を基に編集・収録しています。
BBT-ANALYZE:大前研一はこう考える~もしも私が日光市の市長だったら~
●大前の考える今回のケースにおける課題とは
豊富な観光資源を抱え、東京から2時間圏内と立地にも恵まれた日光市は、かつて国内外から多くの観光客を集めた。しかし競合相手の増加や効果的マーケティングの不足により、訪日外国人観光客の増加や東照宮の世界遺産登録という追い風を受けながらも、近年は低迷が続いている。また、1993年のピーク時には年間340万人以上の宿泊客で賑わった鬼怒川温泉は宿泊客の減少が続き、廃業した旅館やホテルなどが廃墟化しさらに客足が遠のくという悪循環に陥っている。国内の外国人宿泊客の3割が東京に集中する状況において、好立地と観光資源を活かし、いかに東京からの周遊ルートに組み込ませて活性化を図るかが、同市の課題となっている。
◆資源と立地に恵まれるも、近年は観光の低迷が続く
#温泉や社寺を中心とした、江戸時代からの一大観光地
日光市は栃木県北西部に位置する、関東地方で最大面積を有する自治体で、2006年3月、かつての藤原町、栗山村、日光市、今市市、足尾町が合併して誕生しました(図-1)。観光資源に恵まれた地域で、17世紀初頭に東照宮が建立され、同世紀末には鬼怒川温泉が発見されて保養地として発展しました。旧日光市は東照宮、輪王寺、二荒山神社の門前町として栄え、旧今市市は日光街道や会津西街道の結節点の宿場町として発展、また16世紀には旧足尾町で銅の採掘が開始され、現在では観光地化しています。日光市はこれらの歴史・文化遺産、温泉、自然環境などを基盤に発展を遂げ、長い間、観光地として国内外から高い人気を集めてきました。
#日本への外国人旅行者が急増するも、日光市には恩恵なし
しかし近年は人気が低迷し、とくに温泉地では観光客が大幅に減少しています。1999年には東照宮などの建造物が「日光の社寺 」として世界遺産に登録されたものの、状況は改善せず、2011年の東日本大震災の後はさらに大きく落ち込んでいます(図-2)。
近年、日本全体では海外からの観光客が急増しており、2015年には過去最多の1,973万人が日本を訪れましたが、日光市にはその影響はほとんどみられません。日光市内の宿泊客数のうち、外国人が占める割合は2%に満たず、年間6万人に留まっています(図-3)。
◆マーケティングと戦略が不足し、ライバルに大差をつけられている
#首都圏近郊の世界遺産を有するが、観光客数は京都の5分の1
2016年現在、日本には19件の世界遺産があり(図-4)、そのなかでも「日光の社寺」は東京近郊と非常に恵まれた場所に位置しています。東京から日光までは東武鉄道の特急が運行しており、浅草から東武日光までは、東武特急「けごん」で1時間50分、鬼怒川温泉までは東武特急「きぬ」で2時間と、首都圏から日帰り圏内にあります。
しかし、観光資源に立地条件と、これだけの強みがありながらも、それを活かしきれていません。国内の世界遺産のある各地域での入込客と宿泊者の数を比較すると、圧倒的な規模を誇るのは世界遺産「古都京都の文化財」のある京都で、2013年の入込客は5,162万人、宿泊者数は1,308万人、そのうち外国人の宿泊者数は113万人に上りました(図-5)。
それに比べると、日光市の入込客数は1,075万人、宿泊者数は324万人、外国人の宿泊者数は6万人と、入込客数は京都の約5分の1にすぎず、立地条件で劣る「紀伊の霊場」よりも下位になっています。
外国人宿泊客の少なさは、日光市だけでなく栃木県全体でも目立っています。先述のように、近年、外国人観光客は増加しており、国内全体での延べ宿泊客数は2014年には4,482万人に上りました。そのうち30%にあたる1,320万人が東京に集中しており、栃木は県全体で16万人に過ぎません(図-6)。