人気低迷に悩む「日光市」、どうやったら観光客が増えるか【大前研一】
#東京近郊には競合となる寺社が多数
観光の競合相手となるのは、世界遺産を持つ自治体だけではありません。東京近郊には、明治神宮をはじめ、浅草寺や成田山新勝寺、鎌倉社寺群など、アクセスの良い神社仏閣が多数集まっています(図-7)。
とくに外国人観光客にとっては、アクセスの良さは重要なポイントですので、日光市はそれ以外の魅力もアピールしなければなりませんが、そうした姿勢はあまりみられません。努力不足といわざるを得ず、日光市の観光低迷の原因のひとつはこうした点にあるでしょう。
◆外国人観光客にターゲットを絞り、日帰り訪問客と宿泊客の増加を目指す
#東京の外国人観光客の周遊ルート化を狙う
ここまでの日光市の現状と課題をまとめます(図-8)。
日本全体では中国を中心に外国人観光客が急増しているものの、その30%は東京に滞在しており、日光市への波及効果は出ていません。日光市は都内から日帰り圏内で、かつ世界遺産がありますが、世界遺産の登録後も客足は伸びていません。日光の社寺と両輪を成す鬼怒川温泉は客離れが止まらず、廃業した施設が廃墟化している状況です。立地条件の良さという強みはあるものの、東京近郊には明治神宮や浅草寺、鎌倉社寺群など外国人に人気のあるスポットが多く、世界遺産のブランド力が活かされていません。
こうした現状において日光市が取り組むべき課題は、東京の外国人観光客に周遊ルートとしていかに日光を組み込ませるかということです。そのための戦略を考えていきましょう。
#集客力の高い浅草寺と組み合わせ、日帰り客の大幅拡大を
日光市が取るべき戦略は、まず、東京近郊という立地と世界遺産を活かした「日帰り訪問者客の向上」により集客を図ったうえで、鬼怒川温泉再開発によりリピート客を取り込み「宿泊者客の向上」へとつなげていくことです(図-9)。
まず日帰り客を増やすには、東照宮が東京から日帰り圏内の世界遺産であることをアピールし、外国人観光客から圧倒的な人気を集める浅草寺の集客力を活用して、浅草寺と日光を組み合わせた周遊ルートを提案します。具体的には、早朝の空いている時間に浅草寺を見学したあと、9時台の特急や快速で移動し日光の社寺を見学、夜間には新たな観光名所として注目されている東京スカイツリーへ行くというルートが考えられます。このように、東京近郊という立地を活かして東京観光のルートに日光を組み込み、日帰り客の大幅拡大を狙います。
#鬼怒川温泉の再開発事業を株式会社化し、統一的な街づくりを行う
もうひとつの戦略である宿泊客数の向上には、鬼怒川温泉一帯の統一的な再開発が必須です。日光には、日本一古いリゾートホテルである日光金谷ホテルがありますが、鬼怒川温泉ではバブル崩壊以降、宿泊施設の廃業が相次ぎ、それらが軒を連ねて廃墟化し景観を著しく悪化させています。鬼怒川温泉の再開発には当然ながら費用が必要ですので、当面は前述の日帰り客の拡大によって観光収入の増収を図り、それを再開発費用に充当します。
効率的かつ効果的な復興のためには、自治体、地元事業者、地権者が株主として再開発事業を株式会社化し、意思決定の一元化を図ったうえで、統一感を持って街づくりを行うことが後々に温泉地としてのブランド力向上につながります(図-10)。
こうした取り組みにより、観光客が楽しめる、活気のある観光地へ生まれ変わることができるでしょう。
日光市の観光を盛り上げていくためには、それぞれがバラバラに取り組むのではなく、世界遺産と鬼怒川温泉をうまく連携させることが重要だと思います。たとえば、観光初日は再開発された鬼怒川温泉を楽しみつつ宿泊し、翌日は中禅寺湖と男体山に行ってから、東照宮に参拝するというパッケージツアーが考えられます。こうしたルートが定着化すれば、日光市にとっても大きなメリットがあります。日光市と鬼怒川温泉はこれまであまり協力してきませんでしたが、手を取り合って立ち上がっていくという姿勢を見せることで、再開発に積極的に参加する開発業者も出てくると思います。
東照宮は日本が誇るべき世界遺産で、左甚五郎の「眠り猫」をはじめとした、世界に類を見ない極彩色の精密な彫刻が数多く存在しています。金箔も多く施されており、観光客に対する非常に強いアピールポイントを持っています。現在は効果的な戦略が取られておらず、外国人観光客の訪問数は多くありませんが、海外の方にぜひ見てもらいたい日本の歴史的・文化的建造物ですので、多くの観光客で賑わうような取り組みをぜひ進めていただきたいと思います。