爆竹の音がすごい。長崎の「精霊流し」が想像を超えてる華々しさ

精霊流し」といえば、さだまさしさんの美しい楽曲が有名な、お盆らしいしっとりした年中行事…をイメージされる方も多いと思いますが、本当はこの精霊流し、本場・長崎では大変派手で賑やかなイベントとして知られているのです。一体どれくらいド派手なのか、精霊流しの驚きの姿を、長崎出身の今道剛さんが語ってくださいました。

精霊流しは意外に知られていない謎の伝統行事だった

長崎のお盆の伝統行事として定番の「精霊流し(しょうろうながし)」は、他県と文化が異なる長崎らしい特徴のある風習ですが、仕事の都合や親族が住んでいないとワザワザお盆に長崎を訪れる事が無い他県の方からすると謎の伝統行事かも知れません。

長崎市民には当たり前、他県からすると意外な、長崎のお盆行事「精霊流し」についてご紹介したいと思います。

私が幼少の頃、我が家には祖母が同居していた事もありお盆になると親族が集まり、食事会をする慣わしがありました。そして食後は親戚達と精霊流しを観に行くのがセットで、子供心に「早く精霊流しを観に行きたい!」というのが正直な気持ちでした。子供がお盆の行事を早く観に行きたいと思わせる長崎の「精霊流し」その理由は何故なのでしょうか?

そもそも「精霊流し」は、初盆の故人の御霊を「精霊船(しょうろうぶね)」と呼ばれる船に乗せて極楽浄土へ送り出す行事。初盆でない場合は藁を束ねて作った菰(こも)という物にお供え物を包みお線香をセットにして、「精霊船」の到着場所である「流し場」に持っていきます。長崎でも海沿いの地域が主に行う行事のため、長崎県全土で行われている訳ではありません。

「精霊流し」の主役でもある「精霊船」、実はビックリするくらい華やか

船の船首のみよし」と呼ばれる部分に故人の名前や家紋もしくは町の名前を書き、船の本体部分造花や光を灯した提灯で飾るのが一般的。まるで花電車のようです。また趣の変わった船になると故人の趣味や好きだった物をモチーフに船を手作りして流したり、ペットが亡くなった場合はペット用の船を流したりとバラエティ豊かな船が「流し場」へ向かう様子を観るのが楽しみの一つなのです。

出発前の精霊船 image by:今道剛

そして船を流す間は爆竹や花火を鳴らすのですが、爆竹と花火が想像を超えるくらい街中に鳴り響き、繁華街から離れている我が家にも爆竹の音が聞こえ、火薬の香りが匂ってくる程の火薬の利用量。精霊流しと共に花火と爆竹の光を観るのも楽しみ方の一つです。

そのため「精霊流し」を観る際は、耳栓無しで見物すると帰宅後も耳の奥がキーンと鳴り止まず、気がつくと体中が火薬の匂いに包まれています。


子供心にもう一つ楽しみだったのが、船を流しているご家族の人が稀に観客の子供を見つけると花火や爆竹を手渡してくれることがあり、翌日はもらった花火や爆竹で遊んだ覚えがあります。ただ気をつけないと花火を手渡した瞬間に、足元に火のついた爆竹を置いてニヤリと離れていく大人もいて、人生の厳しさを教えてくれる「精霊流し」なのです。

箱単位で火をつける爆竹の音がすごい!

故人のための行事なのですが、船の華やかさと爆竹の音の豪快さを楽しむため長崎市民は小さい頃から「精霊流し」を観に行ってしまうのです。

そんな長崎市民に身近な「精霊流し」ですが、自分の親族が亡くなると船を出す側になるのですが、故人の遺言で「あげん派手なことはせんでよか。(あんな派手なことはしないでよい)」と、言う長崎人もいて、必ず船を流すという訳ではなく基本的には故人の遺言を尊重します。

ちなみに「精霊船」を、どうやって準備するのか?というと、大工さんに依頼して作ってもらう、手先の器用な親戚の叔父さんや近所の人たちを中心に週末などを使ってコツコツ製作を行う、ホームセンターに販売している精霊船を購入する、という方法が一般的です。

もちろん船を作って流す行為は費用も準備時間も人手も必要となるので、「もやい船」と呼ばれる町単位や病院、葬儀会社などが共同の船を作って連名で流すこともあります。

そんな私も親戚が亡くなった時は実家から「戻ってこんね(戻っておいで)」と招集があり、上海から「精霊船」を流すためだけに戻った覚えがあります。ただ普段なかなか会えない親戚一同が久しぶりに顔を合わせて故人のために船を流す一体感は、故人と「精霊流し」のお陰かなと思う瞬間でもあります。

また友人の親族や会社関係者が亡くなった場合なども、船を流す場合に担ぎ手が多い方が何かと都合がよいため、参加して一緒に船を流す場合もあります。

それぞれの家族が故人に対する想いは、故人の亡くなった境遇によって違いがあると思いますが「精霊流し」で送り出す行為は、どちらかと言うと「しんみり」と言う感じより、皆でドーイドーイと掛け声を合わせ、暑いなか船を流し爆竹を鳴らし、準備していたクーラーボックスに山盛りのギンギンに冷えたビールを飲み、楽しくワイワイと送り出す事の方が多いように感じられます。

何となく長崎の「精霊流し」をご理解いただけたと思いますが、更に「精霊流しあるある」をご紹介したいと思います。

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