いずれなくなる絶景。北海道・野付半島、冬の「氷平線」を歩く

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エゾジカの雄

真冬の野付半島はほとんど人気もなく、遠く広がる海の上を歩くのは野生のエゾジカや白鳥など野鳥をはじめとした動物たち。

そんな彼らの足跡に混ざるよう自分も真っ白な雪の上に足跡を残しながらの氷上散歩は、真っ白な世界に眩しく反射する太陽の光に照らされるせいか、この世ではないどこか別の世界へ続く道のよう。

こんなにも美しい氷上の野生動物たちの楽園が、沢をのぼり崖をくだり道なき道を何キロも歩いて辿り着くのではなく、いともあっさりと目の前にひらけることにも驚きです。

半島の途中にある「野付半島ネイチャーセンター」では、野付半島の自然や生態系について展示があり詳しく学ぶことができるので、ぜひ立ち寄ってみてください。一見の価値ありです(しかも、入場無料)。

氷結した野付湾を歩く人たち

ここでスノーシューをレンタルし、ゆっくりと氷結した海上へ散歩に繰り出すのがおすすめです。

野付半島には、エゾシカ、キタキツネ、オコジョ、イイズナ、ヤチネズミなどが通年生息し、多くの鳥たちがやって来るので、ふらりとドライブで訪れるだけでもたくさんの動物たちに出会うことができます。

エゾジカの群れ

私が訪れたときは200頭は超える野生のエゾジカの群れを間近で見ることができ、あまりにも気軽に現れる彼らの姿に、ここは人間に侵されていない動物たちの場所なのだということを痛感させられました。

また、半島周辺の海域にはゴマフアザラシ、ネズミイルカ、カマイルカ、ミンククジラなどが現れオホーツクの海の豊かさを教えてくれます。水・陸・空のすべてに本来地球があるがままの自然の姿をいまだに留める、数少ない残された自然の聖域のような場所なのです。

国後島をのぞむ

さらに、ここから眺める美しい景色として目の前に見える国後島の姿も忘れてはなりません。野付半島から眺める国後島は想像よりもずっと大きく、ダイナミックな断崖絶壁と連なる山の稜線が美しい島でした。

その距離、わずか16km。天気がよければ向こうの島に建つ建物まで見える距離ですが、残念ながら野付半島と国後島との間には目に見えない“国境”という線が存在するので人間は自由に行き来ができません。

北方領土の碑

空を飛ぶ鳥たちや、クジラやイルカは自由に行ったり来たりしているというのに(そもそも、彼らに行き来という概念はないと思いますが)。ここが“世界の果て”と呼ばれるのには、さまざまな角度からの意味がこめられているのかもしれません。

雄大なオホーツクの大自然を眺め、大自然のミラクルに感動と驚きと発見を体験しながらも、人間の歴史や生き物としての人間についても考えざるを得ない……いろいろな意味で、特別な場所であることは間違いありません。

知床連山をのぞむ

そんな“世界の果て”なので、ここに人間が入りこむようになったのは蝦夷地開拓ころのことかと思いきや、この地における人間の歴史は想像していたよりもずっと古く、江戸時代には「キラク」と呼ばれる幻の町があり、武家屋敷や遊郭もあるほど栄えていたと伝わります。

「キラク」の町に関してはあくまで伝説の域を出ませんが、豊かな漁場である野付半島は人が暮らす場所であり、またロシアとの貿易の中継地としても人の往来があったことは事実。興味がある人は、ぜひそんな角度からも探ってみると面白いと思います。

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ちなみに、真冬に訪れると完璧に真っ白な世界に閉ざされた野付半島ですが、5月から10月までは次々に花々が咲く花の名所として知られます。

半島をまっすぐに伸びる一本道は別名「フラワーロード」と呼ばれるほどで、道の両側は花畑となり、にぎやかに動物や人間を迎えてくれるのです。

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また、「ドドワラ・ナラワラ」と呼ばれる枯れた森があることでも有名です。海水に浸食された森が立ち枯れ、トドマツがそのまま残るスポットが「トドワラ」で、風化したミズナラが立ち枯れたまま残るのが「ナラワラ」です。

骨のような白い枯れ木が立ち並ぶ光景はなんとも不思議で、度々ミュージックビデオのロケ地としても使用されているそう。

なお、野付半島は、実は全体が地盤沈下を起こしていて、やがてはなくなってしまう土地といわれています。

「トドワラ・ナナワラ」をはじめとする半島の景観も目に見える速さで変わってきているそうなので、この豊かな大自然を生む半島が消えてなくなってしまう前に、いまの瞬間のその姿を目に焼き付けておきたいと思うのです。

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