2019年の9月にラグビーのワールドカップ、2020年は東京オリンピック・パラリンピックと、国際的なイベントが日本を舞台に開催されます。
そして同じく、いままさにこの瞬間、もうひとつの国際的なイベントが日本の富山県で開催(ロシアのサンクトペテルブルグと共催)されているとご存じでしょうか?
その国際的なイベントとは、演劇の世界的な祭典、シアター・オリンピックスです。
シアター・オリンピックスって何?
そもそもシアター・オリンピックスとは何なのでしょうか?
1995年にギリシャで開催された演劇の世界的な祭典に端を発していて、数年おきに回を重ね、第9回の今回は史上初、ロシアのサンクトペテルブルグ、ならびに富山県の利賀(南砺市)および黒部(黒部市)で8月23日~9月23日の1カ月間、共同で開催されています。
どうしてエルミタージュ美術館のあるような大都市のサンクトペテルブルグと、人口522人(利賀地域)の富山県の利賀(とが)という山村で、世界的な演劇の祭典が開催されるのか、疑問に感じる人も多いと思います。
その理由は、第9回シアター・オリンピックスの芸術監督を務める鈴木忠志さんと、利賀村の関係から簡単に振り返った方がいいかもしれません。
利賀は「酷道」沿いにある山奥の集落
突然ですが、国道ならぬ「酷道」という言葉を聞いたことはありますか?国道なのに通行が極めて困難な道路を呼ぶ俗称で、一部のファンには全国区の知名度を誇る「酷道」に、国道471号線があります。
471号線のなかでも富山県から岐阜県に抜ける峠道は冬季に閉鎖されるため、「開かずの国道」とも呼ばれています。
先日も写真を撮りに車を走らせてきましたが、2017年に起きた大規模な地滑りの補修跡が生々しく山肌に残されていました。
まさにこの国道471号線沿いに広がる集落が、利賀地域(南砺市)です。過去15年間を見ても人口が913人から522人と半数近くまで減少している過疎の村で、同じ南砺市の平野部に暮らす人に「利賀に行ってくる」と伝えると、「運転に気を付けて」と真顔で注意されるような場所です。
南砺市にほかの市町村から移住してくる場合の転入奨励金が、1.5~2倍に加算される山間過疎地域であると伝えれば、その生活の困難さが伝わるかもしれません
しかしこの利賀には、世界の演劇人に知られる富山県利賀芸術公園があり、1976年から毎年、公演会や大規模な演劇祭が開催されてきました。
いまでは演劇の聖地として「Toga」は世界に知られていますし、知人の役者も利賀に何度か演じに(あるいはワークショップに参加しに)来ていたと記憶しています。
利賀が演劇の村に育った経緯は、東京で早稲田小劇場を作り、演劇運動を展開していた演出家の鈴木忠志さんの存在があります。
鈴木さんが1976年2月の冬に、合掌造りの民家5棟が寄り添う利賀合掌文化村(現在の利賀芸術公園)に訪れ、土地の厳しさと家屋のたたずまいに魅せられました。
豪雪に耐えながら急こう配のかやぶき屋根を空に突き上げる、荒っぽく男性的な住空間をそのまま劇場にしたいと、利賀村から5年契約で合掌造りの民家1棟を借り入れたところから歴史が始まります。
1976年の夏には、劇場兼けいこ場に改造した合掌造り家屋で、記念公演が行われます。それから毎年のように公演会を重ね、次第に規模が世界的な演劇祭に発展して、利賀は世界的な演劇の聖地として認知されるようになったのです。