埋まらない1ミリの距離。私はこれから、元恋人と「最後のデート」へ行く

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「どうしたん?」

立ち止まった私に気付き、彼が声をかけた。いまだ。いましかない。いますぐ走り出そう。そう思っていたはずなのに、私は結局、動かなかった。

「あ、スマホなくしたかと思ってんけど、あったわ。ごめんごめん」

笑えていただろうか?彼と別々に乗った電車。手を繋いで、1ミリの隙間を埋めて、恋人の距離で話すカップルを見て私は小さく泣いた。

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思い返すと、あのときの決断は正しかったのだとおもう。私が前へ進むために必要だったのは、“寂しさ”を埋めてくれる人ではなく、未来を信じて自分の意志を貫く“強さ”だったのだろう。それこそ、愛した彼の強さのように。

あのゲートを出る直前に求めていたのは、彼自身ではなく、彼と過ごした甘い時間そのものだった。自分を肯定してくれる恋人という存在を手放すのが惜しかった。

優しい彼と恋人関係を再開していたら、さらに傷つけることもわかっていた。それでも手を伸ばそうとした。そんな私のなかの小賢しい部分が、寂しさだったのかもしれない。

男の恋は別名保存、女の恋は上書き保存。そんなもの関係ない。私は苦くてちょっと甘くてずるくて綺麗なこの恋の記憶を、ずっとずっと大切にしていきたいと思っている。

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  • ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
  • ※掲載時の情報です。内容は変更になる可能性があります。
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