2020年東京、雨の朝。テレビをつけると、いつもとは違う光景が映し出されていました。そこには故郷である九州が大雨による被害を受けている様子が報道されていたのです。
近年、九州では毎年のように洪水の被害を受けています。2016年に発生した熊本地震以降、復興が完了しないまま毎年、次の災害がやってくるという状況が続いているのです。私自身も熊本地震の激しい揺れと、その後の混乱は九州の地で実際に経験しました。
加えて今年は全世界で新型コロナウイルスが猛威を振るい、九州では観光客の誘致だけではなく、県外からの復興ボランティアの受け入れや、上京者の実家への帰省さえも見合わさざるを得ないことが多くなっています。
友人や家族に会いたいのはもちろん、できればすぐにでも現地へ行って自分にできることを探したいのは山々なのですが、それすらなかなか許されない事情というわけです。
このような現状で東京から故郷に思いを馳せ、またジモトに役立つ方法のひとつとして上京者の私がいま行っているのが、東京都内にある九州のアンテナショップめぐり。
今回は、都内に数あるアンテナショップのなかから、九州出身である筆者が、とくにおすすめしたい3店舗とその土地の魅力もあわせてご紹介します。
※本記事は新型コロナウイルス感染拡大時のお出かけを推奨するものではありません。新型コロナウィルスの国内・各都道府県情報および各施設の公式情報を必ずご確認ください。
アンテナショップは単なる「おみやげ売り場」ではない
「アンテナショップ」とは、各都道府県や市町村などの自治体が地元の特産品や食べもの、伝統工芸などを紹介して地元への観光客や移住者を増やしたり、地元の産業を日本全国そして世界に向けてPRしたりするために作られているお店のことです。
このような目的のもと、アンテナショップは東京都心部に多く存在しています。
運営するのは自治体、およびその外郭団体。また最近では、自治体が出資したり契約したりした地元の企業による運営という形も増えてきているようです。
私はこれまで長らく九州に住んでいたので、アンテナショップと聞くと恥ずかしながら「出張に行ってきたけどお土産を買い忘れたとき」、あるいは「出張に行ったフリ」のためのおみやげ物店というイメージでした。
しかし、全国各地のアンテナショップをめぐってみると、実態は異なっていました。
- ・地元の一流シェフが地元の食材を使って腕を振るう料理が楽しめるレストランをもつアンテナショップ
- ・地方に出向かなくても地元で人気のお店が期間限定で都内にやって来てくれる企画展を行うアンテナショップ
- ・資格をもったソムリエが地元のワインにあった料理をマリアージュしてくれるお店をもったアンテナショップ
- ・温泉も楽しめるアンテナショップ
などなど、各都道府県が趣向をこらして私たちを楽しませてくれています。
とくに都心の一等地は家賃も高いですので、どうしても割けるスペースが限られてきます。その限られたスペースに並んで全国の猛者と覇を競う商品やサービスは当然、厳しい競争を勝ち抜き、地元の人が「この編成ならば全国を制覇できるはずだ」と胸を張って送り出したものです。
さながら厳しい地方予選を戦い抜いて全国大会に出場してくるチームのようです。
グルメもお酒も楽しめる「かごしま遊楽館」/千代田区有楽町
九州アンテナショップめぐりの先鋒は鹿児島県。同県は本土の最南端にあります。まず全国的に有名なのは、ここ60年間、毎年噴火し続けている「桜島」。
そして年間降水量はなんと東京の2〜3倍で日本一、縄文杉でも有名な「屋久島」。さらに古においては鉄砲が伝来し、現在においては日本の技術力の粋(すい)が集い、宇宙へロケットを打ち上げる「種子島(たねがしま)」などです。
福岡県民だった私は、通っていた中学校の修学旅行の行き先も鹿児島でした。修学旅行では砂むし温泉(砂風呂)で有名な指宿(いぶすき)市や、第二次世界大戦の沖縄戦で、特攻隊が文字通り「必死」で出撃した南九州市の知覧(ちらん)町などを訪問してたくさんのことを学びました。
また大人になってからも、鹿児島出身の友人やクライアントに恵まれて何かとご縁のある地域であります。ちなみに、桜島は噴火警戒レベル3(=危険)が通常運転であるため、火山灰が降り注ぐのもまた日常です。
当然、洗車しても洗車しても車が汚れます。火山灰は鉱物の結晶や岩石の破片で、粒子が粗くクレンザーのようなもの。なので灰でフロントガラスが見えにくいからといって、いきなりワイパーでもかけようとしようものなら、鹿児島県人に「ガラスに傷が入る!」と怒られます。
さて、そんな鹿児島県のアンテナショップは、東京都千代田区有楽町1丁目4-6千代田ビル1~3階にある「かごしま遊楽館」です。
1階は鹿児島を代表する食品や観光案内所、2階は鹿児島自慢の食材を使った料理を楽しめるレストラン、3階は鹿児島の工芸品等を扱ったフロアになっています。千代田区有楽町という都心も都心で、しかも広めの3フロアという力の入れ方。自信のほどがうかがえます。
かつて将軍が、どハマりした「かごしま黒豚」
ここを訪れる際はぜひ、お腹を空かせて来ていただきたいのです。なぜなら、ここかごしま遊楽館の2階レストラン「遊食彩館いちにぃさん」で、かごしま黒豚を召し上がっていただきたいからです。
超一流のグルメな方々には到底およびませんが、私も全国津々浦々を訪問させていただいて、幸いにもいろいろなおいしいものを食べさせていただく機会に恵まれています。もちろん豚肉も好きで多様な種類をいただきましたが、「いままで食べてきた豚肉はなんだったのか」と、衝撃を受けるくらい美味しかったのが「かごしま黒豚」です。
2009(平成21)年に日本政策金融公庫の農林水産事業本部が行った調査では、味やコストパフォーマンスなどの12の項目でランキングがつけられ、全国の名だたるブランド豚のなかで、かごしま黒豚が堂々の第1位を獲得しました。
「鹿児島の黒豚?聞いたことはあるよ。美味しいらしいね」で済ませてはもったいない!なぜそれほどまでに美味しいのかを理解した上で、ぜひ味わっていただきたいのです。
かごしま黒豚は江戸時代に、中国から沖縄、沖縄から鹿児島というルートでやってきました。気象庁のデータが示す通り、全国でナンバーワンの台風上陸数である鹿児島県。そこでは災害に強く、粗食に耐えられる品種である黒豚にニーズがありました。
一方、ほぼ同時期に全く同じルートを通って「さつまいも」がやってきました。そこで、さつまいもを飼料に使った黒豚畜産という組み合わせが誕生し、高品質な豚肉を作る奇跡的なゴールデンコンビとなります。
その美味しさは遠く江戸でも評判となり、とにかく精力的な人として有名だったときの権力者、徳川斉昭に「いかにも珍味、何よりも精が付く」と評されるほどになりました。
さらに、その息子である徳川家最後の将軍、徳川慶喜も大の黒豚好きとなり、大久保利通に宛てられた手紙のなかで「慶喜様が度々『豚肉を食べたい』と仰られて肉が無くなってしまったから送ってほしい」と書かれてしまうほど、ハマってしまったそうです。
農林水産省の特別機関である「農林水産技術会議」の調査で、うまみ成分であるグルタミンが白豚の3.7倍、甘味成分であるトレオニンが白豚の6.7倍であるのにも関わらず、肉のかたさは白豚の0.45倍と、とても柔らかくて食べやすいという結果が公表されました。
実際に、ここかごしま遊楽館のレストランで、そのかごしま黒豚を味わってみるとお分かりになると思います。とにかく柔らかくて、旨味があります。
鹿児島&黒豚ビギナーへのおすすめは、ランチメニューの「黒豚の生姜焼きセット(1,180円)」か「黒豚丼セット(900円)」。
甘い醤油がスタンダードな九州でも、最も甘口の醤油である鹿児島の醤油を使った味付けがなされた絶品黒豚。豚肉の概念が変わること間違いなしです。
徳川慶喜様、申し訳ありません。だけど私、こうして東京でもこんな美味しいかごしま黒豚をお腹いっぱいに食べられる時代に産まれて本当に良かったです!