梅雨も明け、ますますビールが美味しくなる季節が到来!!グラスにシュワ―っと注いだ時のあの香り、ゴクリと飲んだ時に広がる爽やかな苦味。それらを形作っているのがホップ(写真の右下にご注目!)という植物だとご存じでしたか?
日本では北海道や東北など北日本で多く栽培されていますが、天橋立から車で10分ほど内陸に行った与謝野町でも約6年前から栽培され、今やその「与謝野ホップ」を使い、京都与謝野醸造所でオリジナルビールも造られているのです。
どうして与謝野町でホップを作ることになったのか、ホップはどのように栽培されるのか、などなど与謝野町のホップ畑をおじゃまして、お話を伺いました。
「与謝野ホップ」の仕掛け人は
「与謝野町でホップを作っている人がいるそうだよ。しかもはじめたのは世界のビアシーンを取材しているビアジャーナリストの藤原ヒロユキさんという方なんだって」という話が耳に入ってきたのは今から数年前。
面白いことをされるかただな~と思っていたら、あれよ、あれよという間に与謝野町で栽培される「与謝野ホップ」はクラフトビールの醸造家やビール愛好者の間で有名な存在となりました。
この与謝野ホップの仕掛け人ともいえる藤原ヒロユキさんは大阪府出身。雑誌「ホットドッグ・プレス」や「ビギン」などでも連載を持っていた人気イラストレーターで、1995年からはご自身が好きだったビールにフォーカスを当てたイラストと執筆活動を開始。
2010年に日本ビアジャーナリスト協会を立ち上げて会長となり、欧米のビアコンテストにジャッジとして招かれたほどのかたなのです。
世界に通用する日本発祥のビールを
そのようなかたがなぜ与謝野町でホップの栽培をはじめることになったのでしょうか。
「世界のビールコンテストに行って海外の審査員や評論家、醸造家らと交流する時、必ず日本のビール事情について聞かれるのですが……聞かれるたびに日本オリジンのビールがないことにずっと疑問をいだいてたんです」。
というのも現在、日本で人気のIPAビール(※)はアメリカの西海岸で流行っているスタイルのものですし、ピルスナー(※)はチェコのピルゼン地方で誕生したビール。
「これらはその土地の原料を使った、その土地の風土の中で生まれたビール。ですから日本でどんなに品質の良い、IPAやピルスナーなどを造ってもそれはコピーでしかないんですよね。」
※IPA:ホップを大量に使って造るビール。香りと苦味が一般のビールより強め
※ピルスナー:日本人にも馴染み深い黄金色のビールで、爽やかでスッキリとした喉越しが特徴
ビールの原料はモルト(麦芽)、ホップ、酵母、水の4つ。中でも「ビールの魂」と呼ばれるホップはビールの苦味や香りのもととなる原料です。数あるホップの中からどの種類のホップをブレンドし、どれだけ使うかで味わいが大きく変化します。
しかし現在、国内生産ビールの90%以上を輸入に頼っていますし、北日本で作られているホップも大手ビール会社との契約で作られているので一般に流通はしていません。そこで世界に通用する日本発祥のビール、ジャパニーズビールという新ジャンルを作るために、まずホップを栽培しはじめたのです。
さらに今まで栽培されていなかった地で採れたホップを使いたいと、奥さんの実家がある与謝野町で「まず少しだけ…」と、ホップを植えたのが2013年のこと。それを見ていた地元の農家のかたの中で「面白そう!」という人が出てきて、2015年から一緒にホップの栽培をはじめるようになりました。
ホップは一般的に冷涼で乾燥した地で育つといわれているので、栽培当初は周囲から成功するのに数年かかるだろうといわれていました。
しかし、藤原さんがそれまで得てきたホップの知識や情報を農家の人に伝え、さらにホップ博士といわれる専門家などからレクチャーを受けたところ、初年度の秋に100kgの収穫に成功。
「これは専門家からのアドバイスをすぐに具現化できる地元農家のかたのスキルの高さあってのこと。本当に私ひとりでは農業として全く成立はさせられませんでした」。
そして町のプロジェクトとなり、「与謝野ホップ」とブランド名がつけられ「京都与謝野ホップ生産者組合」が誕生。2020年には約2トンもの収穫量を上げ、全国でも屈指の生産地になります。
与謝野ホップは大手との契約栽培ではなく、フリーラスでのホップ栽培と販売を行った日本での魁(さきがけ)的存在になりました。