「クール・ランニングの意味?『旅に無事あれ』ってことさ」(映画『クール・ランニング』より)
世界中を熱くした東京オリンピック。終わってみればアメリカの39個、中国の38個に続く、27個の金メダルを獲得した日本。選手の皆さまも関係者の皆さまも本当によく頑張りました。私もテレビの前で毎日熱く応援しておりました。
しかし日ごろの努力の成果を遺憾なく発揮しているアスリートたちをテレビで観ながら、ふと「オリンピックの選手たちはこんなに頑張っているのに、俺は何をしているのだろう…」と思ってしまう自分もいたのです。
そこはやはりコロナ禍。自分が頑張りたくても頑張れない。その環境が与えられていない。と感じていた人は、決して少なくなかったのではないでしょうか。
私自身のことでいうと、旅が好きです。自分の知らない世界へ行って、いままでにないものを見て、いままでにない経験をし、ときにはトラブルもあるけど、それでも旅の終わりには必ず自分が成長している。つまり旅を通して、私たちは自分の知らない自分に会いに行っているわけです。
さらにこうして、旅に関わるコラムを書かせていただき、世の中にはこんなに素晴らしい場所があって、こんな思いが詰まっていて、それをみて私はこれほど成長できましたとシェアさせていただく機会がある。それはとても幸せな事であり、旅の醍醐味です。
しかしどうでしょう。コロナ禍では旅をすることが難しくなりました。それはシェアどころか、自分の成長を無理やり押さえ付けられているようなものと感じていました。
「成長」これは本能です。知り合いのゲームクリエイターがいっていました。
「徳永くん、儲かるゲームの作り方知ってる?それはね、キャラクターが常に成長していくゲームなんだよ」と。
曰く、ゲームで儲けるには、ユーザーに課金してもらう必要があり、課金してもらうためにはキャラクターが成長していく必要があるそうです。
成長とは、例えばゲーム内で操るキャラクターの能力はもちろん、所持金であったり、アイテムであったり、基地であったり、あるいはレアキャラのゲットやキャラ同士の親密度であったり。
とにかくゲーム内の「キャラクターの成長=ユーザー自身の成長」と錯覚するようなシステムを作れば、ユーザーは特段楽しんでくれるのだそうです。そしてそれがハマる理由は、成長したいという欲求が人間の本能だからとのこと。人気のゲームはその「成長」システムがよくできているそうです。衝撃の事実でした。
たしかにいわれてみれば私自身、過去にハマったゲーム、特に課金までしたゲームを振り返ると、そこには成長したいという欲求がありました。
ですから、東京オリンピックを観て感じた、「選手たちはこんなに頑張っているのに、俺は何をしているのだろうという」気持ちは、本能の、成長を渇望する魂の叫びだったのでしょう。
しかし「自分が頑張りたくても頑張れない。その環境が与えられていない!」などと考えてしまっていた私に「そうではないぞ」と教えてくれたのもまた、オリンピックでした。
もしみなさんが、人生の色々な場面で私と同じように感じることがあれば、ぜひ私たちの目の前で2022年2月に北京で行われる冬季オリンピックに注目していただきたいのです。
そこには決して恵まれているとはいえない環境を受け入れて、そのなかでも全力で腕を磨いてきたアスリートが多数登場するからです。
※本記事は新型コロナウイルス感染拡大時のお出かけを推奨するものではありません。新型コロナウイルスの国内・各都道府県情報および各施設の公式情報を必ずご確認ください。
「北京2022オリンピック競技大会」とは
「北京2022オリンピック競技大会」とは、2022年2月4日から2月20日までの日程で中国・北京で開催されるスポーツの祭典です。冬季オリンピックの特徴といえば、スキーやスケートなど、雪や氷の上で行われる競技が有名ですよね。
ということでやはりデータを見ると、先日行われた東京オリンピックとは異なる国々が、歴代のメダル獲得数の上位を占めます。
例えば、国際オリンピック委員会が公表している「夏季五輪・冬季五輪のメダル獲得数」によると、夏季オリンピックでの国別メダル獲得数の上位は
- 1位 アメリカ合衆国(2,524個)
- 2位 ソビエト連邦(1,010個)
- 3位 イギリス(853個)
- 4位 フランス(725個)
- 5位 ドイツ(616個)
- …
- 11位 日本(439個)
です。しかし冬季オリンピックでの国別メダル獲得数の上位は、
- 1位 ノルウェー(368個)
- 2位 アメリカ(305個)
- 3位 ドイツ(240個)
- 4位 オーストリア(232個)
- 5位 カナダ(199個)
- …
- 17位 日本(58個)
となっています。また日本代表になる選手たちも、出身地をみるとやはり北国や雪の深い地域の方が多いのではないでしょうか。
例えば前回の「2018年平昌オリンピック」の日本代表選手の出身地をみると、北海道と東北、北信越出身の選手がおよそ75%を占めています。
私のような九州出身の人間にとって、冬季五輪の競技は(ほぼ)観て楽しむものです。スケートとスキー、スノーボードくらいは経験がありますが、あとはほとんど身近ではありませんでした。
「才能」ということでいうと、若いときにその競技に出会っていれば、その環境さえ与えられれば、もしかすると私だって、世界を席巻する選手になる才能があったかもしれないのに!
そんなことを考えていたある日、私の契約している、ある動画配信サービスが「あなたへのオススメ」として1本の動画を提案してきました。その映画とは『クール・ランニング』(1993年)。
ああ、これね。観たことありますよ。当時私は、故郷である福岡県の田舎の中学3年生。記憶の奥底では、たしかジャマイカの選手たちが、氷上の F1 と呼ばれる「ボブスレー」に挑戦するために、環境や偏見を乗り越えて仲間と目標を達成するというストーリーだったと思います。
ちなみにボブスレーとは、ソリに乗って氷の張ったコースを、時速約130~140kmの猛スピードで滑り降りて、そのタイムを競う競技です。
映画では4人乗りのソリでしたが、2人乗りのソリもあります。オリンピックでは1924年の第1回冬季オリンピック大会から採用されている伝統ある競技です。
現在は、空気抵抗を抑えた流線型のソリに乗り込んで滑走しますが、そもそもスイス山岳地帯で雪山を滑り降りる遊びとして生まれたものであるため、昔のボブスレーの写真や映像を見ると、搭乗員が単にソリに乗ってものすごいスピードで滑走するという、なんともエキサイティングな競技です。
それはつまり、自分の肉体と精神の全てをかけて、チームメイトと共に、死の境界線スレスレのところを走り抜ける競技ということでもあります。
さて、映画公開当時の私は、田舎の中学3年生。ボブスレーという競技は、人生の色々なものを抱えたアスリートが極限状態に挑戦しているなんて想像もつきません。映画は軽く観られて面白かった。そんな記憶です。
この映画を観たのは、中学の卒業が近づいて、もうやる授業もないから、とりあえず教育に良さそうな映画でも観とくか、みたいな消化授業だったと思います。当時の私は、授業がなくてラッキー。そんなことより、なぜか近くに座っていた、当時好きだった女の子が気になって、映画は片目でチラ見する程度でした。
しかしなんだってこのタイミングで動画配信サービスのAIは、遡ること28年も前の映画を「あなたへのオススメ」に選んできたのか。気になった私は、28年の時を経て観てみることにしたのです。
※編集部注釈:一部、作品のネタバレを含みますので、3ページ目からもおすすめです。