何かに迷ったとき、「どちらにしようかな」と思わず声を出してしまう人も少なくないと思います。
小泉文夫編『わらべうたの研究』によると、この「どちらにしようかな(どれにしようかな)てんのかみさまの いうとおり」の歌を、わらべ歌のなかでも「唱え歌(となえうた)」と分類するそうです。
さらに、唱え歌のなかでも「数え歌」に細分化も可能みたいですが、皆さんの場合、「どちらにしようかな」「どれにしようかな」に続く言葉として何といいますか?
北海道から沖縄に至るまで、この次に続く言葉のバリエーションは地方色が実は出ていて、その幅広さに注目してみると、かなり楽しい感じになっています。
この歌そのものも、明治生まれの女性が歌っていたとの研究もありますから、それなりに古い歴史を持っていると分かります。
そこで今回は、さまざまな情報源を基に、全国の主な唱え歌の表現をまとめてみました。
ちなみに東京で生まれ、埼玉で育った筆者の場合、「(どちらにしようかな てんのかみさまの いうとおり)あべべのべ てっぽううってバンバンバン もひとつおまけにバンバンバン」でした。
目次
- 1東日本と西日本で「かみさま」が異なる?
- 2「どちらにしようかな」の構造とは?
- 3北海道・東北の「どちらにしようかな」
- 4関東の「どちらにしようかな」
- 5甲信越・北陸の「どちらにしようかな」
- 6東海の「どちらにしようかな」
- 7近畿の「どちらにしようかな」
- 8中国・四国の「どちらにしようかな」
- 9九州・沖縄の「どちらにしようかな」
東日本と西日本で「かみさま」が異なる?
都道府県別をご紹介する前に、最初はこれまでの研究で分かっている点を整理します。
『となえうたの教材化に関する基礎的検討-「どれにしようかな」の採集調査と「活動理論」をふまえて-』によると、
<多くの場合その歌いだしは「どれにしようかな かみさまのいうとおり」である>(上述の論文より引用)
とあります。
言い換えれば、「どれにしようかな かみさまのいうとおり」に続く歌詞に、全国で大きなバリエーションが見られるとの話。
とはいえ、石井聖乃『えらび歌の地域差に関する調査研究』(東京女子大学卒業論文要旨)では、この「かみさま」にも大まかな傾向が見て取れるそうで、東日本では「かみさま」、西日本では「てんのかみさま」が多いそうです。
筆者の育った埼玉の南部(東日本)では「てんのかみさま」だった気もしますが、あくまでも傾向の話。
プラスして「かみさま」の位置に「てんじんさま」「うらのかみさま」「ほとけさま」「じじばば」などが入る地域もあるようです。
「どちらにしようかな」の構造とは?
「どちらにしようかな(てんの)かみさまのいうとおり」に続く、「あべべのべ」も、共通点と相違点が整理できるみたいです。
まず、音素(語の意味を区別する音声の最小単位)の数が5つ(5モーラ)である点は共通なのだそう。
「あべべのべ」は確かに、5つの音声から成り立っていますよね。
しかし、その5つの音も、「意味を持つ」場合と「意味を持たない」場合に分けて考えられるといいます。
「かきのたね」「あぶらむし」「ごはんつぶ」のような場合と、「あべべのべ」のほかにも「なのなのな」「けけけのけ」といったケースですね。
さらに、後続する締めくくりの歌詞は「鉄砲系」の表現と「その他」に表現に分類が可能で、「その他」はさらに(数字類・ろうそく類・トンボ類・豆類・花類に)細分化も可能なのだそう。
整理すると、
- 「どちらにしようかな かみさま(てんのかみさま、など)の いうとおり」
- 「○○○○○(意味ありor意味なし)」の5音素
- 「鉄砲orその他(数字類・ろうそく類・トンボ類・豆類・花類)」
といった感じですね。
以上のように唱え歌が分類できると分かったうえで、今度は全国の例を見ていきましょう。
参照元として、図書館情報大学(現・筑波大学)の学士論文か何かで実施されたアンケート調査とネット調査の結果一覧を選びました。
ただし、この引用元は唱え歌の出だしが掲載されていないので、「どちらにしようかな てんのかみさま(かみさま)の いうとおり」を便宜上の標準としており、さらにその出だしに続く歌詞の表記を全て平仮名に変更しています。
北海道・東北の「どちらにしようかな」
まずは、北海道・東北地方のケースを見てみましょう。
- 「どちらにしようかな てんのかみさま(かみさま)の いうとおり」
- 「なのなのなすびのかきのたね」(北海道)
- 「べべべのべのべのかきのたね」(北海道)
- 「ぴーちくぱーちく ひばりのこ」(青森・岩手)
- 「ちちんぷいのぷい」(宮城)
- 「てこてんのすってんてん さらなべよ」(宮城)
- 「あかまめ しろまめ みたびまめ てっぽううってバンバンバン」(福島)
- 「てっぽううってバンバンバン もひとつおまけにバンバンバン」(山形・福島)
出だしに続く、5つの音素が、北海道・東北地方の唱え歌には見られません。
しかし、ほかの地域で見られる「意味あり」の音素「かきのたね」が含まれた表現なら、北海道の唱え歌に見られます。
「なのなのなすびのかきのたね」「べべべのべのべのかきのたね」などですね。
5つの音素を省略、あるいは吸収した形で「鉄砲」や「その他(豆類)」などの表現が続くケースも多いようです。
ちなみに、参照元によると、北海道では「なのなのなすび」がかなり多くみられたそうです。ほかの情報源を見ても北海道では目立つ表現ですね。