鬼は本当に悪者だったのか? 史上最強の鬼「酒呑童子」から探る恐怖の正体

日本各地にはに関する昔話や伝説が数多く残っています。一般的に鬼のイメージと言えば頭には角が生え、口から牙、指には鋭い爪、そして虎の皮のパンツをはいて金棒を持った大男。そして「悪い物」「恐ろしい物」の代名詞。

しかしなぜ、「鬼=悪者」なのでしょうか?鬼は本当に悪いヤツばかりなのでしょうか?『鬼滅の刃』でも鬼の悲しい過去に同情し、憎めない鬼も描かれていました。本当に悪いのは実は人間のココロだったりするのでしょうか?

そこで今回は「鬼のまち」と知られ、鬼の伝説も残る京都府福知山市の大江町を探検。鬼の頭領であり、史上最強と恐れられる「酒呑童子」の伝説から鬼の起源を探ります。

史上最強の鬼として恐れられる酒呑童子

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酒呑童子と言えば、諸説様々あるが丹波国と丹後国の境にある大江山に住みついたと伝わる鬼の頭領とされます。茨木童子などの数多くの鬼を部下に持ち、しばしば京都に出現し、若い貴族の姫君を誘拐して側に仕えさせたり、刀で切って生のまま喰ったりしたという。

image by:日本の鬼の交流博物館 所蔵・福知山市教育委員会

最終的には源頼光とその配下の渡辺綱たちに倒されるが、それは毒酒で動きを封じての“だまし討ち”だった。童子は「鬼に横道はない」と頼光を激しくののしり、首を切られた後も頼光の兜に噛み付いた。そんな伝説が残っています。

この物語には様々な視点で読み解かれるが、鬼よりも実は「人間の方が悪いのでは?」といった疑問を呈してくれる点も興味深い。そんな伝説が残る大江町に行けば、この物語の真相について何か分かるかもしれない。

image by:日本の鬼の交流博物館 所蔵・福知山市教育委員会

「日本の鬼の交流博物館」へ

福知山市の大江町には、「日本の鬼の交流博物館」があります。同館は大江山の鬼伝説の紹介をはじめ、全国各地の鬼にまつわる伝統芸能、世界の鬼面などが展示され“鬼とは何者なのか”について考えることができる施設となっている。きっとココなら「酒呑童子伝説」の真相に関するヒントがありそう。

福知山市街から車で30分ほど走り、大江駅に近づくと鬼のイラストが所々で目に多く入る。ただ悪者であるはずの鬼の顏はどれも優しい。この周辺は遠い昔、鬼に苦しめられた伝説が残ると聞くが、恐ろしいイメージはどこにもない。

快調に車を走らせ、府道9号から大江山の方面へ折れる。その曲がり角には「こっちだぞ!」と言わんばかりに赤鬼像が指をさしていました。


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博物館の駐車場に到着すると、そのスグ近くには「大江山にむかう頼光たち」の像もありました。近くまで行ってみると、そこにはあの有名人の名前が…!そう、それは日本昔話のヒーローとして知られている金太郎の成人姿です。

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案内板には「源頼光は副将の藤原保昌、四天王の坂田金時、渡辺綱、碓井貞光、卜部季武をひきつれ」とある。この坂田金時は足柄山の金太郎のこと。誰もが知る「金」と書かれた腹掛け、大きなマサカリを持ち、熊と相撲で勝ったのは幼少期のお話。成人した金太郎は鬼退治などで活躍し、その痕跡は大江山の麓で見られます。

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少し歩くと、巨大な鬼瓦が見えてきます。これは「大江山平成の大鬼」と呼ばれる日本一の大鬼瓦。その高さは5m、重さは10トンもあるという。

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目の前で見上げると、まるで鬼が大きな口をあけてギロリと睨みつけられる迫力に圧倒。この大鬼瓦は全国の鬼師との交流をきっかけに平成元年に発足した「日本鬼師の会」の人々が分担して130個のパーツを造りあげ完成したという。それにしてもスゴイ。

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この巨大な鬼瓦に隣接する鬼型の建物が今回の目的地「日本の鬼の交流博物館」となります。正面から見ると角の生えた鬼が大きな口を開けているように見えるのは鬼の力強さをイメージしたRC構造の建造物となっているからだとか。

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館内は「鬼の交流ホール」を中心とした回廊に展示スペースが設けられ「鬼面」や「鬼瓦」の展示が並んでいます。また、大江山に伝わる鬼退治伝説の絵巻物を筆頭に、日本各地に伝わる「鬼」に関する資料も展示されている。その中には「鬼とは何者かをさぐる」のヒントも書かれています。

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鬼とは何か?

さて、鬼とは何者なのか…。鬼は人間から「悪い物」の代名詞として使われるようになってしまったのはナゼか。酒呑童子とは一体何者だったのか?

館長の村上さんにお話を聞くと、「それは得体の知れない目に見えないものが “鬼” と表現されたのではないだろうか」と話してくれました。

一説によると「おに」という言葉は「おぬ(隠)」が転じたもので、元来は姿の見えないもの、この世ならざるものであることを意味するとされているのだとか。

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例えば、平安時代の頃、疫病は今のように科学的に捉える事は出来ず、人がバタバタと倒れて行くのだから得体の知れないモノだったに違いない。“見えない恐怖” は相当なものだったろう。だから「見えないモノを鬼として描き“見える存在”にして恐怖に打ち勝とうとしたのではないだろうか。それが“鬼”の始まりと考えられている」というのです。

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その一方で、鬼は怖くて恐ろしい存在ばかりではない事も教えてくれました。それは日常的な言葉の使い方からも分かるという。例えば、「鬼のような人」は怖い意味となるが、「鬼が笑う」はユーモアがあり、「鬼才」は天才以上の存在、「仕事の鬼」は褒め言葉として使われている。そして「心を鬼にする」も悪い意味ではない。鬼瓦も「魔除け」や「家の守り神」として使われています。

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鬼が悪者になったのは物語がキッカケ?

日本各地に伝わる昔話の中には、一種の英雄譚として悪者の役として鬼が登場する事が多い。つまり、“鬼は悪者”といった一般的なイメージは、ここから広まったと考えられます。その物語の内容が正しいかは確かめようがないが、都合の悪いモノを「鬼」として多様化させ利用された可能性も考えられます。

これは筆者による一つの仮説ですが、時の朝廷や権力者に従わない者、法を犯す反逆者、山に棲む得体の知れぬ住人を鬼として都合よく成敗されたのではないか?

例えば、タタラ師(鉱山技術者集団)のような人里離れた山で暮らしていた人々は里人とは関わりは少なく、得体の知れないモノと考えられていた可能性があります。それに製鉄には鉱毒がつきもので、その汚水が里に流れていたとしたら命の水を汚す悪者でしかない。里人からすれば嫌悪感は尋常ではなかっただろう。しかもタタラ師たちの炎に焼けただれた表情は異様に見え、“奴らは鬼だ!追い払え”と、対立を深めたとも考えられます。

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他にも、タタラ師の技術を朝廷が恐れた。欲した。だから攻め込んで征服したとも考えられる。その一方的な侵略は「勝てば官軍」の考えと同様に物語風に創作された。ここで「勇者による鬼退治の物語が誕生した」という可能性も考えられるのではないでしょうかか。

いずれにせよ、この酒呑童子伝説が残る大江山には、河守鉱山(黄銅鉱)がある。同館には鉱山から発掘された磁硫鉄鋼や黄銅鉱なども展示されている。酒呑童子伝説の真相に関しては想像の域を出ないが、無性に色々と思い描きたくなる。

  • 日本の鬼の交流博物館
  • 京都府福知山市大江町佛性寺909
  • 0773-56-1996
  • 9:00~17:00(入館は16:30まで)
  • 330円(高校生220円/小中学生160円)
  • 公式サイト

大江山に残る鬼に関する見所

日本の鬼の交流博物館から車で20分ほど山道を進んで行くと「鬼嶽稲荷神社」がある。この付近には駐車場はないので、少し歩かないといけないが、ここは大江山の8合目(頂上まで1.2km)で秋の早朝は雲海の絶景スポットとしても知られています。

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この地点から300mほど下に歩いて行くと「鬼の洞窟」がある。ただし、道は斜面となっている部分があるので要注意。もし洞窟まで行く場合は自己責任となるが、出来るだけ一人で行くのは避けた方が良いでしょう。

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勇気を出して先へ進んだ場合“道とは言い難い”急斜面が続く。一部には滑り落ちないようにロープが設置されている。そして茂みの先に異様な雰囲気の洞窟が顔を出す。この洞窟が酒呑童子と直接関係があるかは定かではないそうだが、古くより「鬼が住んでいた」と伝わっています。

  • 鬼嶽稲荷神社・鬼の洞窟
  • 京都府福知山市大江町北原303-1
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他にも周辺には鬼伝説に関わる史跡があります。例えば、奇岩と清流が織りなす風景で知られる二瀬川渓流の新童子橋から散策道を歩けば大江山の鬼が川を飛び越えた時についたと伝わる「鬼の足跡」がある。そのすぐ近くには「頼光の腰掛岩」も見られます。

  • 鬼の足跡・頼光の腰掛け岩
  • 京都府福知山市大江町佛性寺(新童子橋の付近)
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また、日本の鬼の交流博物館から徒歩約20分の丘の上に「鬼モニュメント」も見逃し厳禁。京の都の方角を指す“最強の鬼・酒呑童子”と家来の茨木童子、星熊童子の像だ。ウルトラマンの美術総監督 故・成田亨氏の作品として知られています。

  • 鬼のモニュメント
  • 京都府福知山市大江町佛性寺951
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“酒呑童子駅”の愛称をもつ京都丹後鉄道 大江駅前にある「大江山鬼瓦公園」もおすすめスポット。この公園では、日本三大瓦を中心に全国の鬼瓦を作る鬼師による迫力満点の鬼瓦が72枚並んでいます。鬼とは怖い存在と言ったイメージがある一方で、鬼瓦のように守ってくれる存在もあります。鬼は目に見えないが、鬼瓦は形あるもの。ここも是非に立ち寄っておきたい。

  • 大江山鬼瓦公園
  • 福知山市大江町河守(大江駅前)
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大江山鬼瓦公園から7分ほど歩いた場所に「食堂 大江山」があります。ここでは名物の“鬼そば”が食べられる。注文すると”まるでお酒を飲む大盃”のような器に黒い麺のお蕎麦がやってくる。酒好きの鬼、酒呑童子に因んで大盃で蕎麦。ユニークで面白い。

アツアツ出汁の湯気の立ち方も「鬼」のイメージにピッタリ。黒い麺は、三番粉を使用した特注麺を特別配合の練り合わせたもの。山菜がたっぷりで抜群の味わいです。

  • 食堂 大江山
  • 京都府福知山市大江町河守1956
  • 0773-56-0595
  • 11:00~22:00(蕎麦が売り切れ時点で閉店)
  • 公式サイト
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鬼伝説の地を巡って

鬼は本当に存在するのか分からない。しかし、日本には古くから各地で鬼の伝説が伝わっています。物語の通り“悪者”だったのか?それとも時の権力者に都合よく利用された“被害者”だったのか?その答えを導き出す術はない。ただ、昔から伝わる話の中には後世に残すべきメッセージが隠されているように感じることがあります。酒呑童子伝説で言えば、首を切られた童子が「鬼に横道はない」と頼光を激しくののしったシーンです。本当に鬼は悪者だったのか?様々な思いに心を馳せながら旅してみるのも一興ですね。

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編集部T :