中国に続き、米国でも電気自動車(以下、EV)の販売が失速しているとする報道を目にすることが多くなりました。
米国内でEVの最大シェアを誇るテスラ社は昨年の販売台数がパンデミック以降初めて下落したと発表しました。在庫過剰に陥っているようで、最近は値下げが度々報じられています。アップル社が約10年前から進めていたEVの開発から撤退することも話題になっています。
その一方で、米国内のEV市場は拡大し続けているとする報道もあります。リサーチ会社『Kelley Blue Book』のレポート(*1)によると、2023年に米国内で約120万台のEVが購入され、とくに同年第4四半期は前年比52%増を記録したとのことです。つまり、EV販売は失速しているどころか、ますます伸びてきていることを示す統計です。
EVのブームは終わったのか、あるいはそうではないのか。それを判断することは、もちろん私の能力を越えています。経済の専門家や識者の意見は日本経済新聞とかウォール・ストリート・ジャーナルとかを見ていただくとして、イチ在米生活者の視点でこの話題について述べてみたいと思います。米国内、というのも大風呂敷に過ぎますので、私が住むカリフォルニア州ロサンゼルス近郊に限って話を進めます。
ハンバーガー店のドライブスルーで定点観測。100車両中EVは12台
上記『Kelley Blue Book』レポートによると、2023年に米国内の全車両のうちEVが占めるシェアは7.6%でした。2022年の5.9%から着実に伸びています。
個人的な感覚では、上の数字でもまだ低めのような気がします。高速道路を走るときや、スーパーマーケットの駐車場を見渡したとき、もはや数台に1台はEVではないかと思うこともあるからです。
感覚だけではあまりにも説得力に欠けるのではないかと思い、ささやかな調査を行ってみました。あるハンバーガー店のドライブスルー近くの席に座り、窓の外を通り過ぎる車を1台1台、EVかそうでないかを目視で識別してみたのです。
走っている車の車種を数えるのは困難ですし、駐車場では数え回っているうちに車が移動してしまうかもしれません。その点、ドライブスルーならどの車も一度は必ず停車するので、車種を確認することが容易です。何よりこちらが動く必要がありません。ドライブスルーに短時間で戻って来る人も少ないと思いますので、ダブルカウントの心配もほぼありません。
4月7日の日曜日、午前11時頃から約1時間半。カリフォルニア州アーバイン市にある人気ハンバーガー・チェーン『In-N-Out Burger(イン・アンド・アウト・バーガー)』店舗外において、ドライブスルーを通った車両100台の内訳は以下の通りでした。
- ・電気自動車(EV): 12台(そのうちテスラは7台)
- ・ハイブリッド車(HV): 10台
- ・ガソリン車:78台
EVが占める割合は12%、HVと合わせると22%。ガソリン車が依然として最も多く、その割合は78%。
非常に小さなサンプルではありますが、私が漠然と感じていた比率におおよそ合致する結果でした。
カリフォルニア州ではEVがすでに確固たるシェアを占めていると見るべきか、それとも依然としてガソリン車の人気が高いと見るべきか、解釈は人それぞれかと思います。
アーバイン市はカリフォルニア州内では比較的裕福な地域ですが、たとえばビバリーヒルズのようにスーパーリッチたちが住む超高級住宅地というわけではありません。それに日曜のランチにハンバーガーを買いに来る人たちが乗る車ですので、まずまず平均的なアメリカ人像に近いのではないでしょうか。
増え続けているEV充電ステーション
人々がガソリン車からEVへ乗り換えることを躊躇う理由はいくつかあります。EVの販売価格や修理代がガソリン車に比べて割高なことはもちろんですが、充電に関する懸念もそのひとつでしょう。
これもまた個人的な感覚になりますが、少なくともロサンゼルス近辺では充電ステーションの数はここ数年で飛躍的に多くなっています。急速充電を謳うテスラの「スーパーチャージャー」専用スポットだけではなく、ショッピングプラザや学校の駐車場にまで広がっているのです。
下はドライブスルーで車をカウントしている間にiPhoneのマップを検索した結果のスクリーンショットです。現在地周辺のEV充電ステーションとガソリンスタンドをそれぞれ検索すると、ほぼ同じだけの数が表示されました。
EVは自宅でも充電できることを考えると、エネルギー源補給はひょっとしたらガソリン車より便利になっているのかもしれません。
もっとも、長距離ドライブで遠隔地や他州に移動したときも簡単に充電場所を見つけることはできるのか、という心配は残ります。電気バッテリーとガソリンの両方を利用できるHVの人気はその不安に支えられているのでしょう。
お金持ちの意識高い系から一般社会への広がり
カリフォルニア州では環境政策の大きな柱として、州内で販売されるすべての新車を2035年までにゼロ・エミッションにすることを自動車メーカーに義務づけています。それ以降は、ガソリン車の新車販売ができなくなることを意味します。同様の規制を行う州は他にもあります。
その政策を促進するため、EVを購買すると連邦及び州から税金の控除が認められることや、車両登録料が減額されるなど、消費者には様々な優遇措置が講じられています。EV専用の駐車スポットや高速道路レーンなども多く設けられ、日々の利用に関してもメリットが増え続けています。
2024年4月1日、アーバイン市警は公式SNSですべてのパトロール車両をテスラのYモデルに切り換えると発表しました。
もちろん、これはしょうもないエイプリルフールなのですが、それくらいEVというものが身近になってきていることを表わしてはいないでしょうか。
かつて「アメ車」という言葉がありました。巨大な車体を持ち、ガソリンを大量に消費し、盛大に排気ガスを吐き出すイメージです。近い将来、この言葉は死語になるか、あるいはまったく別の意味を持つことになるでしょう。ひょっとしたら、すでにそうなっているのかもしれません。
多少の浮き沈みはあるにせよ、ガソリン車がEVに置き換わる流れ自体は今後も変わらないのではないかと、あくまで個人的には感じています。
- image by:角谷剛
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