インフレ時代のいま、シニア世代が感じている「お年玉」文化に対する本音

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年末年始が近づくと、多くの家庭で話題になるのが「お年玉」について。物価が上がり続ける今、シニア世代はお年玉の金額をどう考えているのでしょうか。

シニアのフリーランス求人サイトを運営する株式会社モロが、お年玉をあげる予定の60代以上500名を対象に実施した調査から、驚くべき実態が明らかになりました。

調査データが語る、インフレ時代のお年玉をめぐる複雑な事情を詳しく見ていきましょう。

物価高騰でも変わらない「お年玉の相場」

8割以上が金額据え置きを選択

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2026年のお年玉について、金額を増やさないと回答した人は426名で全体の85.2%を占めました。物価上昇を感じている人が98%もいる中で、この数字は一見矛盾しているように思えます。

一方で金額を増やすと答えたのはわずか74名、全体の14.8%にとどまりました。この結果は、お年玉という習慣が、日常的な物価の変動とは異なる独自の基準で維持されていることを示しています。

据え置きを選ぶ3つの理由

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なぜ多くのシニア世代は、インフレ下にお年玉を増やすことを考えていないのでしょうか。調査では明確な理由が浮かび上がってきました。

最も多かった理由は「一般的なお年玉の基準があり、物価高は関係ない」というもので、274名が選択しています。これはお年玉が年齢や関係性によって決まる社会的な相場を持っており、その基準は物価とは別の次元で存在していることを意味します。

次いで多かったのが「兄弟姉妹や親族間で、これまでの金額の公平性を保ちたい」という回答で100名でした。親族間のバランスを重視する日本的な配慮が、ここにも表れています。

そして「自分の家計にとって、お年玉の負担が大きいから」という切実な理由を挙げた人が59名いました。これは次の項目で詳しく見る、シニア世代の経済的な実情を物語っています。


年金生活者を圧迫するお年玉支出

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お年玉の支出が家計の負担になるかという質問に対し、「とても負担」と答えた人が94名、「やや負担」が210名で、合わせて304名、全体の60.8%が負担を感じていることがわかりました。

定年退職後、年金を主な収入源として生活する人が多いシニア世代にとって、年末年始のお年玉支出は決して小さな出費ではありません。喜ぶ子どもや孫の顔を思い浮かべながらも、家計への影響を気にかける複雑な心境が見て取れます。

一方で、「あまり負担に感じない」と答えた人は167名(33.4%)、「全く負担に感じない」は29名(5.8%)でした。この約4割の人々は、比較的余裕のある経済状況にあるか、あるいはお年玉を楽しみとして前向きに捉えている層と考えられます。

この対比は、同じシニア世代の中でも経済的な状況に大きな差があることを示唆しています。

ほぼ全員が実感する物価上昇の現実

98%という圧倒的な実感率

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日常生活で物価上昇を感じているかという質問では、「強く感じる」が338名で全体の67.6%、「やや感じる」が151名で30.2%となりました。合わせると489名、実に98%もの人が物価上昇を実感しているという結果になりました。

「全く感じていない」と答えたのはわずか2名のみ。この数字は、インフレが特定の世代や地域だけの問題ではなく、日本全体に広がっている経済現象であることを如実に表しています。

インフレ実感とお年玉据え置きのギャップ

ここで重要なのは、98%がインフレを実感しながら、85%がお年玉を増やさないという事実です。このギャップは、シニア世代が経済的な圧力を感じつつも、お年玉という文化的習慣の中では従来の基準を守ろうとする姿勢を示しています。

つまり、お年玉は単なる金銭的なやり取りではなく、世代間をつなぐ文化的な営みとして、インフレとは別の価値基準で維持されているのです。


お年玉の定番は一人いくら?

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調査によると、お年玉の総額は「1〜3万円」が最も多く、次いで「3〜5万円」「5〜7万円」と続きました。中央値は約2万円という結果でした。

一方、お年玉をあげる人数は2人が最多で、次に1人、3人と続き、中央値は2人でした。総額の中央値2万円を人数の中央値2人で割ると、一人あたり1万円という計算になります。

この1万円という金額は、多くの家庭で共有されている暗黙の基準と言えるでしょう。高すぎず安すぎず、子どもにとっては特別感があり、大人にとっては何とか用意できる範囲という、絶妙なラインに位置しています。

この定番金額が長年維持されてきたことが、前述の「一般的なお年玉の基準がある」という回答の背景にあると考えられます。

目減りするお年玉の実質価値

1万円で買えるものの変化

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ここで興味深いのが、同じ1万円でも時代によって購買力が大きく異なるという事実です。

例えば少年向けの漫画雑誌を見てみましょう。30年前の1995年には1冊180円(税込)だったため、1万円あれば55冊も購入できました。しかし2025年現在、同じ雑誌は1冊300円前後まで値上がりしており、1万円で買えるのは約33冊にとどまります。

この比較が示すのは、お年玉の名目金額が据え置かれる中で、実質的な価値が大幅に目減りしているという厳しい現実です。

平成や昭和の時代に1万円のお年玉をもらった人々と、令和の子どもたちでは、同じ金額でも手に入れられるものの量が大きく異なります。インフレの影響は、大人の家計だけでなく、お年玉という形で子どもたちの世界にも及んでいるのです。

今回の調査から浮かび上がったのは、インフレという経済環境の変化と、お年玉という文化的習慣の持続性という、二つの力が綱引きをしている現代日本の姿です。

年末年始にお年玉を手渡す瞬間、そこには単なる金銭のやり取りを超えた、世代を超えた思いやりと、時代の変化への静かな抵抗が込められているのかもしれません。来たる新年、あなたの家庭ではお年玉についてどんな会話が交わされるでしょうか。

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