年配の方の歴史を聞き、その方に代わって記録を残す「聴き書き」という活動をご存知でしょうか。実はこの活動をおこなっているイベントがあります。
それは全国から選ばれた100名の高校生が集結し、約3ヶ月間にわたり各地の名人を訪問し、聞き書きをするという壮大なイベント「聞き書き甲子園」です。シニアライフアドバイザーの松本すみ子さんに解説していただきます。
古きをたずねて新しきを知る
地方創生というと、新しいことや他所が始めている華々しいことに目を奪われがちですが、わが市や町・村の今までの歴史、とりわけ、そこに住む人たちがどのように生きてきたのか、どのような体験し、どのように考え行動したか、そこで得た知恵や工夫とはどんなものだったか、それらの歴史を知ることは重要な視点です。
こうした温故知新の姿勢が新しい活動のきっかけになることがあります。足元に埋まっているかもしれないお宝を発掘すること、それが地方創生の肝なのではないでしょうか。
では、どのような方法で先人の経験や知恵を発掘するのか。ひとつの手段として、「聴き書き」があります。「聴き書き」とは語り手の話に耳を傾け、語り手に代わって語られた内容を形にすることによって、「その人なりの自分史」を残すための活動のことを言います。
言葉や記憶はその人が亡くなってしまえば消えてしまいますが、誰かが文字やデータにしておけば、後の世代も、その次の世代もそれを知ることができます。
私の知人に、お年寄りの語りの中にこそ、その土地の歴史の一端が見えるはずと、定年後に「聴き書き活動」を始めた女性がいます。彼女が活動するのは高知県。ある日訪れた北川村の慰霊会館に掲げられた戦没者の遺影に目が釘付けになったと言います。
北川村は今では、「ゆずの里」として全国に知られるようになっていますが、人口は1400人ほど。しかし、小さな村の割には戦死者が多く、その結果、多くの戦争未亡人とその子供たちが取り残されました。
その中の何人かがまだ元気でいるとのことで、戦争未亡人やその子供たちの話を記録として残すことに取り組んだのです。彼女を動かしたのは、「今、聞いておかないと、誰にも知られずに消えてしまう。それでいいのか」という気持ちだったといいます。
正直言って、これらの聴き書きが、いつ、どのように役立つのかはまだ分かりません。しかし、時が経てば経つほど、貴重性を増すのではないかという気がしています。
そして、このような聴き書き活動自体が町おこしになる可能性もあるのです。
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