通称「横須賀の虎」こと、ギタリストとして活動する渋谷虎太郎さんを紹介します。「ソロギター屋」として活動する渋谷さんは、ある企画で津軽三味線を習いに青森県へ。
ギタリストだから、三味線なんて、簡単にできるのでは?と思うかもしれませんが、プロのギタリストといえども、四苦八苦したそうで、同じ弦楽器でも様々な違いがあるそうです。渋谷さんの体験レポを通じて、ディープな津軽三味線の世界を紹介します。
ソロギタリストが津軽三味線に挑戦するため青森へ
1986年生まれ、神奈川県横須賀出身の渋谷虎太郎さんは、ソロギター屋として活動するギタリストです。ご存じかとは思いますが、ソロギターとは、”一本のギターで伴奏と主旋律の両方を演奏する演奏スタイルのこと”。弾き語りなどの歌などはなく、楽器の演奏だけの器楽曲(インストゥルメンタル)のみで勝負します。
そんな渋谷さん、「ギタリストが三味線を弾いたらどうなるのか」というテーマを掲げ、先日青森県へ津軽三味線を体験しに行きました。
プロの津軽三味線奏者の先生に津軽三味線を教えてもらう企画なのですが、教えてもらったのは、工藤まんじ先生。津軽三味線業界の中でも名の知れた人だそうで、津軽に3人いるといわれる津軽三味線の名人のひとり。
1970年に芸能界入りしてから、国内外での演奏はもちろん、多数のテレビコマーシャルにも出演しているそうです。青森県の観光PRに加えて、津軽三味線を次世代に伝えるべく、青森を拠点に幅広く活動されています。
そんな工藤先生に渋谷さんが教えてもらったのは、津軽三味線の代表曲「じょんから節」。
この「じょんから節」は、津軽三味線の中でも一番有名な曲。「ありとあらゆる技がこの曲には入っていて、100人いれば、100人の個性がでる曲と言ってました。これができれば立派に一人前なんだそうです」。
いつも弾きなれたアコースティックギターとは弾き方もかなり違うようで、これにはプロのギタリストも四苦八苦。
「もっとバチを『バチンッ』と打ち付けるように!」と工藤先生。そんなにやったら壊れるのではないかと思うほど、バチを三味線本体に、これでもかというほど叩き付けるのがポイントだそうです。
津軽三味線は、バチを叩きつけるように弾く打楽器的奏法が特徴で、テンポが速く音数が多い楽曲演奏します。
「今回実際に、津軽三味線に触れてみて、いつも弾いているギターと同じ弦楽器でしたが、限りなく”打楽器“に近い印象を受けました」と話す渋谷さんですが、三味線が打楽器とは意外ですよね!
また、同じ弦楽器であっても、普段弾いているアコースティックギターの奏法とは、かなり違いがあるようです。
「津軽三味線は容易にチューニングもできることから、他の楽器とのセッション(協奏)など、様々な場面で活躍できる万能楽器です。それはギターでも同じことなのですが、ギターと違う点は、津軽三味線はソロとして完成されたソロ楽器でもあると思いました。(注記:このソロとは、歌の入っていないインストゥルメンタル楽曲を演奏する場合のこと)。一本のギターで主旋律・伴奏を同時に弾く、「ソロギター」という演奏スタイルはギターでもありますが、津軽三味線のようなソロとして聞かせられる楽器の完成度まではないと思っています。ソロ楽器としての完成度の理由は、生音が大きいこと。これがギターとの違いですね」
渋谷さん曰く、値段が高い高級なギターで、良く音が出るものであったとしても、アンプに通さなければ音量は稼げぜず、三味線と比較しても、もともとの楽器の音圧が違うそうです。
「同じ弦楽器でありながら、ソロとして聞かせられることができるという点は、この先もギターに決して勝てることができない津軽三味線ならではの大きな魅力のひとつだと思いました」。
また、ギターとの共通もある津軽三味線ですが、マスターするのはやはり至難の技。
「確かに基本的なことは一緒。入りは比較的、簡単でした。その楽器ならではの奏法も上達すれば上手に弾けるようになると思います。しかし、ギタリストと言っても、ギターでさえ日々、修業中の僕には、答えにくい質問かもです(汗)。マスターとまでなると、やはり、どの楽器もウナギ職人と同じで、串打ち3年、板(割き)5年、火鉢(焼き)一生、なのではないでしょうか」。
長い年月をかけてこそ、極められるのは、三味線、ギターに限らず、すべてのことに通じますね。
津軽三味線はロックンロール?生ライブ鑑賞
三味線を学んだあとには、最終目的地である弘前に向かい、津軽三味線の生ライブを聴けるという居酒屋、津軽三味線ライヴ「あいや」へ。こちらの店主の渋谷和生(シブタニ カズオ)さんは、津軽三味線の全国大会で3度も優勝した、日本一の津軽三味線奏者だそうです。
津軽三味線は、繊細で優しい音を奏でる一般的な三味線や沖縄三味線とは違って、真逆。店主の渋谷さんによると、最初は東京などで見られる普通の三味線が登場し、それが琉球に渡って優しく繊細な音に改良され、最後にとにかく強く大きい音が出るよう改良されたのが、津軽三味線だったそうです。
また、津軽三味線は綺麗な音ほど弦が切れやすいのも特徴。弦が切れるくらい強く、右手に持つバチが折れるほど強く弾くのが、津軽三味線のスタイル。
また、店主の渋谷さんによると、津軽三味線の始まりは160年前で、宿と食べ物を恵んでもらう「ものもらい」の芸としてが発祥だったとか。しかしその後、東京に津軽三味線を伝えにいった人がいて、昭和40年には現在のような高級な楽器、伝統的な演奏という見方へと変わっていきました。
生の津軽三味線のライブを間近で見た感想を聞くと、「とにかく生音が大きい!力任せに弦を叩き上げる!学校の教室程度ならもちろんマイクなど音響機材も一切いらず、あそこまでバシバシやられると、脳髄にダイレクトに響く感じ、鼓膜を通り越し三半規管にダイレクトに訴えかけてきます。
スカっと爽快でとても気持ちが良いんですよ!ここで初めて気づいたのですが、きっと、ドMなのかもしれません、ぼく(笑)」といった答えが。
さらに生演奏を見て、新たな気づきもあったようです。「不思議に思ったのが、津軽三味線の楽曲はなぜかロックンロールテイストなんですよ。もうロックなんです!ノリノリでお尻を付き出して左右にぷりぷり踊りたくなる感じでした。本当なんですよ!(笑)。 僕だけなのかな?ただあれは紛れもなくロックンロールでしたね」。
日本の伝統的な楽器が奏でる津軽三味線がロックとは、これまた意外な発見!
また、”津軽三味線とお酒との相性”もバッチリ。「津軽三味線の演奏は日本酒でも洋酒でもいけますね〜。チビチビ飲みながら、お通しのホウレン草のごま和えを丁寧にツマミながら、またぜひ、ゆっくり聞かせて頂きたいですね。まさに、桃源郷に来たかのような忘れられない、とても贅沢で幸せなひとときでした!」。
すっかり津軽三味線の旅を満喫された渋谷さんですが、旅の最後に作った曲を青森県護国神社で披露しています。
和服とギターの音色と神社。風情がとてもあっていいですね!
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