1600羽のフクロウが待つ、和歌山の名所「行列のできるパワスポ郵便局」

このようにポッポちゃんが寂しがらないようにとご近所の方がフクロウ雑貨を持ちより、爆発的に数に増えるにしたがい、次第に、他の郵便局にはない噂が広がり始めた。

「お客さんから『そちらから応募したら沖縄旅行が当たったんです』って電話がかかってきたり、『非売品のものが手に入りました』とお手紙いただいたり。そういうご報告を毎日のようにいただくんです。『大学に受かりました』ってお母さんとお礼を言いに来られたり、『アーティストのプレミアムチケットが当たりました!』って。しかも親子で最前列ですって」(由紀子さん)

「そういう噂が広がっているんですよね。だから時には和歌山県より他府県からのお客さんのほうが多い日もあるし、入学願書受付のシーズンは行列ができたりするんです」(久美子さん)

「そうやってわざわざ遠いところから来てくださったり、なかには思い詰めて泣いてる方もいはるから、はいさようならというわけにはいかんもんで、お話をうかがうこともあります。そして聞いてみたら身につまされてね、私らもたまらずもらい泣きしてもうたり」(由紀子さん)

アットホームな雰囲気と、ふくよかな由紀子さんの包容力でこの空間のムードはいっそう和らぎ、なかには2時間も長居してゆくお客さんもいるのだとか。

フクロウのように福々しいフォルムの女性局長、石橋由紀子さん
娘の久美子さんが彫った消しゴムハンコ

入学、就職などがうまくいくようという願いを込めて、希望者にはフクロウハンコを押したポストカードをプレゼントしている。ポストカードの画像はお客さんだったカメラマンが撮影したもの。

考えてもみてほしい。大学に合格した、懸賞に当たった、お目当てのアーティストのスーパープレミアムチケットを手にすることができた、そんなおめでたいことがあったとして、あなたはそれを郵便局に報告したことがあるだろうか? 局員とお客さんとのそんな得がたい素敵な関係が築けたのは、日本の昔話のような、助けたポッポちゃんの恩返しなのではないかと、ふと思わずにはいられない。

「そういえば……」と久美子さん。

「お母さんがね、ときどきフクロウに見えるんです。体型がまるっこくて、触ったらふわっふわやし、手を伸ばした時に、フクロウが羽を広げているように見えるんですよ」

「それ、二の腕の肉やんか!」(由紀子さん)

石橋さん一家がかもしだす雰囲気があたたかく、なんとも居心地がいい。和歌山の新たなパワースポットと呼ばれることもある郵便局だが、ここで過ごしたひとときは、むしろ肩の力を抜かせてくれる、森林浴のような時間だった。

皆が口を揃えて「お母さん、だんだんフクロウに似てきた」と言うそうだ

取材を終えて外に出ると、夕陽に染まったいわし雲が。

いつもなら取材を終えると疲れが出るのだが、こちらの郵便局にはリラクゼーション効果があるようで、じんわりもふもふとしたあたたかさを胸におぼえていた。嗚呼、このままフクロウのようにこの夕焼けの空を飛んで、どこか知らない森へ行きたいなあ。

そんなふうに、さきほどの楽しい時間を振り返りつつ僕は、

パンダの電車に乗って一路、京都へと帰るのだった(フクロウ関係ないがな)。

下井阪簡易郵便局
和歌山県紀の川市下井阪492-10
TEL 0736-77-0303
営業時間 月~金 9:00~16:00
休日 土・日・祝

  • image by:吉村智樹
  • ※初出MAG2 NEWS(2015年11月30日)
  • ※掲載時の情報です。内容は変更になる可能性があります。
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