かつて宮崎駿監督が「トトロが喜んで住みそうな家」として愛したモダンな建物が、東京都杉並区を走るJR中央線の阿佐ヶ谷駅にほど近い住宅地にあったことをご存じでしょうか。
大正14(1925)年に建てられたその洋風住宅は、長く住まわれていた持ち主さんの引っ越しにより無人となり、取り壊しの危機に瀕しますが、地元の方の保存運動(6300もの署名が集まったといいます)により、建物も含めた敷地全体を公園として整備することが決定します。
しかし、2009年2月14日未明に不審火で焼失。誰もが公園化計画の頓挫を覚悟しますが、それを知った宮崎監督が焼け落ちる前の「トトロの家」の雰囲気を活かしたデザイン画を提供、かくして2010年7月に「Aさんの庭」という名の公園が誕生しました。
ちなみにこの「Aさんの庭」というネーミングも宮崎監督の発案なのだそうです。園内のパネルによれば、「Aさん」とは「公園を訪れるみなさん」のことを表し、さらに「阿佐ヶ谷」の「A」の意味合いも含まれているといいます。
そんな公園を編集部が訪れたのは、7月のとある日曜日。あいにくの梅雨空でしたが、雨にしっとりとぬれる手入れの行き届いた庭は、また格別なものがあります。
持ち主さんが何十年も手塩にかけて育ててきたバラをはじめ、ツツジや藤、金木犀など、100種を超える植物が出迎えてくれるこの公園、どの季節に訪れても楽しめそうです。
公園のメインともいえるこちらの建物は、利用者のトイレ兼防災倉庫となっていて、屋根に使われているのは焼けてしまった建物に葺かれていた瓦なのだそう。
オープン当初は濃いチョコレート色だったという外壁も5年の歳月を経ていい色落ち加減となり、元あった住宅の佇まいとまではいきませんが、白い窓枠と相まってどこか懐かしさを感じさせてくれます。
右側に見えるのは雨水を利用したトンボ池。宮崎監督はことのほかこの池を気に入り、座り込んでじっと水面を見つめていたといいます。
季節によって異なる閉門時間。今の時期なら午後7時まで、のんびり過ごすことができますね。この白い門も旧住宅に据えられていたデザインを引き継いでいると解説パネルにありました。
時間を忘れていつまでも居続けたくなってしまうほど素敵な「庭」。建物が焼失してしまったことが残念でなりません。いったいどのような住宅が佇んでいたのでしょうか。
実は…、その貴重な写真が残っていました。漫画家の大原由軌子さんが火事に遭う前にこちらを訪れた様子が、メルマガ『大原さんちの九州ダイナミック』で配信されていたのです。今回はその記事をご紹介します。