なんて可愛い「切り絵」の世界。作家の佐川綾野さんにインタビュー

2017年12月から京都の他、東京・西荻窪にも拠点をおいて活動されている切り絵作家の佐川綾野さん。昨年12月に原宿ロケット(表参道)で開催されたワコールによる展覧会「Love♥Life♥Lingerie by WACOAL 〜共犯は赤いランジェリー〜」では来場者に配布するためのノベルティ(ランジェリーをかたどった切り絵)を制作され、展覧会に華を添えました。2つの活動拠点をもつ佐川さんに切り絵の制作や東京・西荻窪についてお話をうかがいました。

可愛い作品が大人気。切り絵作家・佐川綾野さんにインタビュー

『白鳥の王子 兄との別れ』

—佐川さんは中学生の頃から切り絵をはじめられたそうですが、そのきっかけとなった出来事ってありますか。また、切り絵に魅力を感じたのはどんなところでしょう?

中学の頃、地元の静岡の街を歩くと、お知らせのポスターに版画が使われていたり、公民館に寄付された版画の作品があったりして、最初は版画に憧れていました。

版画をやってみたいけど、道具や作り方がよくわからない。だから版画よりも身近なものでできそうな切り絵を作って遊んでいました。今思うとそれが私の切り絵の始まりですね。

『勇気のドレス』

—佐川さんが切り絵を制作されるプロセスを簡単におしえてください。

下絵を作り、白い紙に印刷して下絵図案にします。そして黒い紙と下絵を重ねて切ります。その後ろから和紙を貼りつけると完成です。

—なるほど。佐川さんの切り絵には和紙が使われていることも特徴の1つですね。色味にニュアンスが生まれ、素敵です。使用する和紙はどんなところにこだわっていますか?

今は、職人さんが染めた和紙を使っています。大学で版画を学んだのですが、版画を刷る和紙の事も同時に学びました。学生時代に、福井や韓国へ和紙が作られる工程を見学に行って、職人さんと触れる機会もありました。

また、師事した教授が和紙の研究者でもあったので、自ずと手漉き和紙へのリスペクトが身についたんだと思います。時には産地に行って、和紙屋さんを回って、気に入った和紙を見つけています。「典具帖紙」という薄い和紙や、見たことのない染め。そういったものを見つけたら、出来るだけ作品に取り入れています。


—佐川さんの作品を拝見していると、個人的には子ども時代を過ごした思い出に内包されている「懐かしさ」がよみがえってくるような気がします。作品のモチーフやテーマにはどんな思いをこめていらっしゃいますか?

作品は小さい頃読んだような、ファンタジーの要素を入れています。小さい頃はファンタジーに憧れているような子でしたが、大人になったら、今生きている現実世界の方がファンタジーの本に匹敵するぐらい、困難が多く、魅力的で、生きづらい。ファンタジーを感じながら、今観てくれている人たちが、自分を投影できる作品を作りたいと思っています。

本の中の世界や、物語をテーマに作品を作っているので、古い本や、本の挿絵をイメージした作品が多いです。だから、意図的にレトロな雰囲気を出しているものもあります。

ただ、昔からある和紙を使いながらも、イメージは洋風だったり、可愛いと思われるものだったりと、和紙のイメージを裏切るような作品を作りたいと思っています。

—2017年12月から京都のほか、東京も拠点の場とされています。なぜ、東京に拠点を持たれたのでしょう。また、西荻窪という場所を選ばれたのはどうしてですか?

東京からお仕事もいただくようになりましたし、もっと仕事の幅を広げたいとは、なんとなく思ってました。でも具体的に行動へは移せなくて。よく東京で切り絵教室をさせてもらっていたアトリエがあったんですが、そのアトリエの方から「同じアパートの2階が空いたよ!」って、突然連絡があったんです。

アトリエ「リクリ」

どうしてこのタイミング?!と驚きましたが、次の日に電話をかけて、アパートを申し込みました。その出来事がなかったら東京に来ていなかったと思います。

また、その場所が西荻だったことも決め手になったと思います。可愛い雑貨屋さんや可愛いお店も多く、何か物語が始まる場所の雰囲気がします。都会に行くというのは心細い感じがしますが、ここなら、物語のような日常を過ごせそうだと思いました。

京都は狭いので、街の人やご近所さんと自然と知り合いになってしまいます。知り合いにもすぐに会います。そんなところが、西荻窪と近いかもしれません。お店が多く興味を持って入るとお店の人と仲良くなる。すると、街に知っている人が多くなっていきます。これからの出会いも楽しみです。

©ondkei
©ondkei

—この街には個性的なお店が多いですよね。JR西荻窪駅北口方面だとアンティークショップや旅の本屋「のまど」、ノスタルジックな雰囲気に浸れる喫茶店「物豆奇」があるし、南口付近では松本清張が贔屓にしていた「こけし屋」が有名です。西荻は文化の香りが漂い、「個」を大切にしながらも居心地のよいお店が集まっていますよね。ところで東京に暮らしはじめて、京都との違いや働き方の変化についてはいかがですか?

東京で初めての仕事が、昨年12月に開催されたワコールさんのイベントとのコラボでした。そのイベントが華やかで、毎日表参道の会場でパーティーがあり、ピンクのマカロンとかレッドワインが出て来て。連日のパーティーに体は疲労して来て…と、衝撃的なパーティーデビューでした。京都にいた時に「関西と東京の違いは、パーティーがあるかないか」と聞いていたので、これかぁ~という洗礼を受けました。

SNSで作品を発信することも大切ですが、東京ではどんどん人に会いたいと思っています。顔を見て話すことで、自分のことや切り絵の世界を伝えることができるし、さまざまなご縁も生まれるように思います。切り絵の可能性をもっと広げたいので、イラストレーターのように使って頂くお仕事も増やしていきたいと思っていますね。

赤いランジェリーをかたどった切り絵

—ワコールのイベント会場では、国書刊行会の編集者の方から佐川さんが表紙の作品を手がけられた「シャーロック・ホームズの姉妹たち」シリーズを2冊ご紹介いただきました。そのうちの1冊『駆け出し探偵フランシス・ベアードの冒険』(レジナルド・ライト・カウフマン著)の表紙に登場するピストルを持つ女の子には花と毒をあわせ持つ魅力を感じました。本の表紙を依頼された時にはどんなことを大切にお仕事をされていますか?

本などの依頼は、編集さんや執筆者さんの意見を大事に作っています。私としては依頼を素直に入れているつもりなのですが、お渡しすると意外な感じだったりするのか、喜んでいただいて、逆に驚きました。

『駆け出し探偵フランシス・ベアードの冒険』

でも、普段からギャップがある女の子を描くのは好きなんです。女の子自体、中身と外見にギャップがあるものじゃないですか。誰からも見えない宝石を隠している、みたいな。だから「ピストルを持つ女の子に花と毒をあわせ持つ魅力を感じる」という感想を頂けて嬉しいです。

—西荻窪のアトリエでは切り絵教室も開かれています。生徒さんたちの反応や印象はいかがですか。また、どんな方がどんな目的をもって教室にいらっしゃいますか?

「切り絵教室を探していた!」という方が多くて驚きました。「ずっとやってみたかったけれど、やっと見つけた!」という声も聞きます。また、集中する時間が欲しい、癒される時間を過ごしたいという理由で来られる方も多いです。作った作品を友達に見せたり、玄関に飾ったり、すごく楽しまれて、こちらも嬉しくなります。

—切り絵図案集の出版や京都や大阪、東京での切り絵教室をされるほか、今年2月には京都高島屋のポップアップショップで切り絵を使用したアクセサリー展示・販売されるなど、多岐にわたる活動をされていますね。今後の予定をおしえてください。

気に入ったギャラリーを見つけて、今秋に展覧会を行いたいと考えています。東京の方にもっと作品を見てもらえる機会になればよいですね。またこの4月から、切り絵の作り方をYouTubeで公開していく予定です。切り絵の材料から出来上がるまでのプロセスを紹介したいと考えています。動画を通しても切り絵の世界観を伝えていきたいですね。

切り絵のアクセサリー

佐川綾野さん公式サイト

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