夢枕獏の小説や岡野玲子の漫画、そして野村萬斎が映画で演じたことでも知られる陰陽師の安倍晴明。そして最近ではフィギュアスケートの羽生結弦選手が競技に使用している楽曲が『SEIMEI』(映画『陰陽師』のサウンドトラック)という背景もあり、安部晴明の人気が再沸騰しています。よって、安部晴明を祀る京都の晴明神社も参拝者が増えているそう。
安部晴明で人気の「晴明神社」
今日は境内に入って右側にある、約1000年前に安倍晴明が念力で湧出させたという井戸「晴明井」の前に見られる北斗七星についてふれてみましょう。
この北斗七星、実は道教や陰陽道の呪術を伝えるもの。
中国では8世紀後半に密教と道教信仰が融合し、道教の司命神(しめいしん)とされていた北極星・北斗七星、冥界神の泰山府君などの信仰を取り入れた道密混淆経典が作られ、9世紀に日本に伝えられました。
陰陽師の安倍清明もこの経典から「禹歩(うほ)」という歩く呪術を習得したのでしょう。「禹」とは中国の聖王の名前。ウサギではありませんよ〜。治水事業で山河を歩きすぎ、足を痛めた禹王の足をひきずるような歩き方をまねて歩くことで、土地の邪気を払い、場を浄化する呪術として用いられています(今でも)。
その歩き方は、
第一歩 左足を一歩前に出し、右足を左足より一歩前に出す。そして左足を右足にそろえる。
第二歩 右足を一歩前に出し、左足を右足より一歩前に出す。そして右足を左足にそろえる。
第三歩は第一歩と同じ。
これを繰り返し、9歩進むというもの。これを道教では「三歩九跡法(さんぽきゅうせきほう)」といいます。
なぜ九跡を踏むかというと、北斗七星の数を踏むため。実は北斗七星は7つ星で構成されていると思いきや、道教や陰陽道では、弼星と輔星という2つの星を加えて9つの星で成り立っていると考えられています。
禹歩を行う際、唱える言葉(呪文)もありますが、ここでは省略。星を神格化するなど、晴明が生きた時代は天体(星)と呪術が密接に関係していたように思われます。禹歩の技法については『からだのなかのタオ 道教の身体技法』(石田秀実著)に詳しく書かれています。
この呪術ステップを羽生結弦選手が演技に取り入れているわけではありません。が、平昌五輪で楽曲『SEIMEI』を用いたフリープログラムで見せた、あの神がかった演技は呪術めいている! と感じたのは私だけでしょーか。
境内には魔を祓うといわれる社紋の五芒星をはじめ、生命力の強さを感じさせる御神木の楠や邪気を祓うといわれる桃、晴明が式神を隠した一条戻橋(本物は晴明神社の南方面に架かっている)など、マジカルなムードを醸すものが点在しています。
ところで、漫画や小説、映画、最近ではフィギュアスケートで注目を集めている安部晴明ですが、江戸時代にも葛飾北斎の漫画に登場したり、浄瑠璃や歌舞伎など晴明伝説をテーマにした芸能が民衆に人気だったそう。
というわけで、晴明を扱う芸能はロングセラー。あのー、晴明さん。未来永劫に発展する…という術を使われていませんよね?
晴明神社
京都市上京区晴明町806(堀川通一条上ル)
最寄駅:
JR京都駅より市バス9番「一条戻橋・晴明神社前」下車より徒歩約2分
地下鉄・今出川駅より徒歩約12分
参拝時間 9:00〜18:00(無休)
公式サイト
- image by:御田けいこ
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