どこを向いても美女看板。目のやり場に困る中国のランジェリータウン

さて、艶めかしい町の陳店を過ぎても田園風景はあまり見られず、住宅街が続く。陳店から5キロほど東へ行った司馬浦(スーマープー)鎮の一画に、世界遺産登録に推薦したいくらいの趣ある町並みがあった。広東省を歩いてきてときどき見かける壁と屋根の形に特徴のある古びた家屋群で、築年数はどれぐらいだろうか、少なくとも半世紀、もしくは1世紀ほど前に建てられたんじゃないだろうか。
漆喰で塗り固められた壁の一部は美しい彩色が施されているが、大部分はカビか煤のせいか黒く汚れ、屋根も素焼きの瓦にヒビが入っていたり、とにかくなにもかもが古ぼけていて、きっと雨漏りするわ内装も相当ガタが来てるわと勝手に想像している。住民の姿もほとんど見かけない。

大部分の壁は黒く汚れていたけれど・・・
この建物の壁は彩色されていて、比較的美しいまま残っていた

それでもひっそり営業している薬局の壁にはただ大きく一字、

と書かれていたり、狭い庭先に洗濯物が干してあって、その物干し竿を支える2本の支柱の土台が紹興酒の瓶(かめ)だったり、まるまると肥えた数頭のブタを飼育する狭い豚小屋があったり、金物屋さんの軒先からはノズルの形がそれぞれ異なるブリキ製の大ぶりの漏斗がぶら下がっていたりと、人の気配はなくても生活感がにじみ出ていて、なんだか半世紀から1世紀前にタイムスリップしたような不思議な心持ちになった。

壁に「痔」と大書した薬局
風情ある前庭にあった物干し竿の支柱の土台は紹興酒の瓶
いきなり狭い豚小屋!
ブリキの漏斗は給油用

富山県南砺市の世界遺産「合掌造り集落」や南イタリアのムーミン谷みたいな伝統家屋群の世界遺産「アルベロベッロのトゥルッリ」は遺跡ではなく、厳重家屋であることが高く評価されたのと同様、この司馬浦鎮の住宅街も人々が生活しているので、その点は評価されるだろう。
ちょっと奥のほうまで迷い込んでみたい衝動に駆られたけれど、勝手に歩きまわるのは少し怖い気もする。香港にあった巨大なスラム街「九龍城砦にも通じる雰囲気があったからだった。

無人のシンメトリーの路地裏が万華鏡のようにどこまでも続いていた

でももし案内してくれる住人と知り合えたなら、ぜひあの古ぼけた住宅街を縦横無尽に歩きまわってみたい。
ただひとつだけものすごく残念だったのは、個人的に世界遺産に推奨したい司馬浦鎮の住宅街横の川が、目を覆いたくなるほど汚れた悪臭ふんぷんたるゴミ川だったことだ。
写真を見れば一目瞭然、よくもまあここまで放置しておけるもんだなあと感心する。水面に浮いたゴミの量は半端なく、ひょっとしたらこの上を歩いて渡れるんじゃないかと錯覚するほど。この川沿いの住人たちはどんな気分なんだろう。

絶句するほどの汚川
歩いて渡れそうなほど分厚く積もったゴミ

だれが責任を負うのかしらんけど、これを見てしまったら世界遺産への推奨は木っ端微塵に吹き飛ぶのは当然だ。ああ、本当に残念な光景だった。
そしてスタートからほぼ5時間歩き、午後5時20分、汕頭市潮陽区和平鎮に到着。

和平鎮の中心部

少し街なかをうろつこうとしたとたん、宿をとっている普寧行きのバスがやってきたので飛び乗った。
乗車賃は13元(170円)。普寧バスターミナルに着いたのは1時間半後の6時50分。
洗濯とからだ洗いを済ませたり腰に漢方薬臭い台湾製の湿布薬を貼ったりしていたため、晩めしとビールにありついたときには9時をまわっていた。

今宵は食堂でビールと、野菜と臓物たっぷり麻辣麺!
今号登場の占隴鎮、陳店鎮、司馬浦鎮とゴールの和平鎮はそれぞれ、ここ!

ということで、2010年4月27日は広東省掲陽市普寧市占隴鎮から汕頭市潮陽区和平鎮まで28キロを歩いた。
ベトナム国境から中国と香港を歩いた距離は1810キロになり、1991年7月31日にスタートした徒歩旅行出発点のポルトガルのロカ岬からの累計歩行距離は25118キロとなった。

  • image by:あるきすと平田
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