都会に暮らしていると気づきませんが、この時期は水田が美しいですよね。田んぼに水が入って間もなく、田植え直後のため稲も生育していません。夕暮れ時は水面が鏡のように空を映すため、とても幻想的な農村風景を楽しめます。
水田が傾斜地に作られていて棚田になっている場所だと、景観に変化が生まれて余計に面白いです。そこで今回は全国の美しい棚田の絶景の中から、文化庁によって名勝に指定された、石川県にある能登半島の「白米(しろよね)千枚田」を紹介します。
古い棚田には、不思議な味わいがある
棚田とはそもそも、20m歩くと1m以上高くなる傾斜地に作られた階段状の水田だと言います。今では農作業のしにくさから、数を減らしています。広く方形に整備された田んぼの方が一気に作業ができるため、効率よく米を栽培できるのですね。
戦前の農地の様子を知っている世代の方に聞くと、昔は棚田だけでなく、平地であっても面積の小さい、曲がりくねった田んぼばかりで、作業は大変だったと言います。
棚田はさらに高低差まであるため、効率性とはほど遠い存在。同じ手間と時間をかけても、広大な方形の水田で収穫できるお米の量の半分程度にしかならないという記述を、参考図書の中にいくつも見かけます。
しかし、その非効率で「古い」水田の形は、なぜか見る人に不思議な味わいを与えてくれます。直線でなく曲線で作られた棚田は、地形を生かしているせいもあって、自然に近い造形美を楽しませてくれるからかもしれませんね。
太陽が水平線に近づくころ、棚田に張った水が夕暮れの空を映し込む
TRiP EDiTRORでは同じ能登半島東岸の名所、見附島を「長崎の世界遺産だけじゃない!石川の能登にある「軍艦島」とは?」で紹介しました。冒頭の白米千枚田は、同じ能登半島でも西側の海に面しています。
国道249号線沿いの道の駅(千枚田ポケットパーク)近くから眺めると、棚田越しに日本海が眺められます。夕暮れどきには水平線近くの太陽が海面を照らし、棚田に張った水があかね色の空を映し込むため、思わず見とれてしまう絶景が出現します。
中島峰広監修『全国棚田ガイド』(家の光協会)によると、白米千枚田は標高約1~60mの傾斜地に、合計で1,004枚の田んぼが並んでいるのだとか。日本で最も早く保全活動が始まったという同地は、今も約98%が耕作されています。
中島峰広著『棚田保全の歩み』(古今書院)では、1辺約100mの正方形の中に515枚の棚田が密集していると書かれています。言い換えれば、小さな田んぼが多く、最も小さいと「地面に投げ置いた、みのの下に隠れてしまうくらい」なのだとか。その独特の条件が、日本屈指の棚田の景観を作っているのですね。
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