巷では「男の恋は別名保存、女の恋は上書き保存」なんていわれている。もしそれが本当だったなら、どれほど楽だっただろう。
私にだって、女にだって、忘れられない恋の終わりがある。
すでに恋が終わったふたりの、最後のデート
4年前の、12月。
「久しぶり…っていうほどでもないね」
「おう、久しぶり…ってほどでもないな」
「まあ、ついこの前まで、毎日みたいに会ってたから」
たっぷり数秒間、ふたりの間に沈黙が流れた。そんな私たちの気まずさなどお構いなしに、あたりには軽やかな音楽が流れている。訪れる人々を歓迎するような、聞くだけでテンションをあげてくれるような、そんなプロローグミュージックだ。
待ち合わせはユニバーサルシティ駅。17時を少し過ぎたばかりだったが、もうあたりは真っ暗だった。
「行こっか。もうチケット入れるで」
彼はそういうとさっと歩き出す。人混みに紛れないよう、私は彼の背中を小走りで追った。見慣れていた、私よりもずっと大きな背中を。
「ユニバ来るの久しぶりやから、テンション上がるわぁ」
私は不自然なほどはしゃいで見せる。彼がそっと差し出した手には気付かないフリをして。