埋まらない1ミリの距離。私はこれから、元恋人と「最後のデート」へ行く
「恋人」が終わる、その瞬間
4年前の、11月。
「…それは、別れたいってこと?」
「ん…」
別れを切り出したのは私から。これまで二十数年間生きてきて、3カ月続けば長い方といういい加減な恋愛ばかりしてきた私が、ようやく本気で恋をした相手だった。
恋愛以外を“教科書通り”の優等生として生きてきた私は、何にも縛られない自由な生き方をしているように見えた彼を、出会ってすぐに好きになった。
彼は、私にないものをすべて持っている。勝手にそう思っていたのだ。
しかし1年、2年と付き合いを重ねていくうちに、だんだんとその魅力は薄れていってしまった。それはきっと、彼のせいではなく私の問題だ。
出会った当時、まだ私は大学生だった。しかし卒業し仕事をはじめ、そして否応なしに社会人として成長して、自分なりの生き方を見つけた。そして11月。彼と一緒にいても、これ以上の私の成長はないと思ってしまった。
「恋人に成長を求めるな」といわれるかもしれない。けれどフリーランスのライターとして順調に仕事を重ね、経験が糧になると身に染みて感じていた当時の私にとっては、成長こそが生きがいだったのだ。
「それは、別れる理由に相当しない」
彼はうっすらと涙を浮かべ、そういった。私もそうだと思った。けれど、意志は揺るがない。
「じゃあ最後に俺ともう一度デートしてほしい。当選してたユニバの貸切ナイト、行こ」
あぁ、この目が好きやったなあ、そう思った。涙の向こうに見える彼の目。誰に何をいわれようと、絶対に自分の意志を通そうとする“強さ”が宿る目。
「…うん、行こう」
そしてそこに映る自分を見つけて気づく。いつの間にか、私も同じ目をするようになったんやな、と。
そうして決まった最後のデートまでの1カ月間、強弱つけて迫りくる嵐のような“寂しさ”という感情に日々襲われていた。
これまで約2年半ずっと、私のそばには、私のことを好きな人がいた。寂しいときに寂しいといえる人。会いたいといえば会ってくれる人がいた。
けれどいまは、寂しいのに、会いたいのに、誰に会いたいのかもわからない。ただひたすら孤独感に耐える。
最後のデートなんていえば少しロマンチックで聞こえが良いかもしれないが、それは私にとって、心をえぐるものでしかなかった。