埋まらない1ミリの距離。私はこれから、元恋人と「最後のデート」へ行く
ー私、この人とどんな距離で話していたんだろう…。
12月の寒さに震えるカップルが目の前で肩を寄せ合っている。これまでは文字通り“1ミリの隙間もいらない”関係だった私たちが、恋人という関係を失った途端、触れ合うことがタブーとなる。あと一歩踏み入ると、そこは恋人の場所になってしまう。
長い行列に並んでいるとき、アトラクションから降りるとき、ジュラシックパークで水浸しになったとき、ポップコーンのバスケットに手を伸ばす瞬間がかぶったとき、買った飲みものを何気なく交換したとき、パレードのために消灯した園内で目の前にフロートがやってくるのを待っているとき。
そこで浮かんでくるのは、確かに恋人だった私たちの、生々しくも楽しかった時間。そして隙間のない“ゼロ距離”の感触だ。この1カ月間、孤独に苛まれ“誰か”をほっしていた自分に対しての酷い皮肉だと、自分を恨んだ。
彼を好きじゃなくなった理由も山ほどあるはずなのに、いま、なにひとつ出てこない。
閉園時間が迫り、ふたり並んでゲートへ向かって歩いていた。遠くに大きな地球儀が見える。一歩一歩、でも確実に次がない“本当の終わり”が近づいてきている。
もういいや。すべて忘れて、またあのときに戻ろう。衝動的に1ミリの隙間を、恋人と友人との境界を飛び越えてしまいたくなった私は、その場でふと立ち止まった。
並んで歩いていたはずの私が隣にいないことに気付き、彼が振り返ろうとしたタイミングで、あの大きな背中に飛びつこう。そうすれば優しい彼のことだから、この1カ月の空白はなかったことにしてくれるだろう。何ごともなかったかのように、また1カ月前…11月の続きから再開できるだろう。
だって、男の人の恋愛は“別名保存”なんでしょう?
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