「ラスベガス」は大人のための遊園地です。世界屈指のカジノがあることで有名ですが、それ以外にもスポーツイベントやショーなどのエンターテイメント、最近ではグルメやショッピングを目的としてこの地を訪れる人も増えました。
ラスベガス・ストリップと呼ばれるメインストリートに立ち並ぶ巨大なホテル群は、それぞれがまるでテーマパークのような趣向をこらしています。
そこにはエジプトのピラミッドも、パリの凱旋門とエッフェル塔も、ニューヨークの摩天楼も、イタリアのコモ湖も、火山さえもが、バカバカしいほどの大きさで立ち並んでいます。
一歩足を踏み入れた途端、見るもの聞くものがすべて現実ではないような気分にさせてくれる、そんな街です。
※本記事は新型コロナウイルス感染拡大時のお出かけを推奨するものではありません。新型コロナウィルスの海外渡航・入国情報および各施設の公式情報を必ずご確認ください。
砂漠の中に作られた人工のパラダイス
ラスベガスは広大な「モハベ砂漠」のほぼ中央、カリフォルニア州との州境に近いネバダ州内に位置しています。
以前は日本からの直行便もありましたが、現在は日本からラスベガスに行くには、ロサンゼルスやサンフランシスコなどの西海岸のハブ空港から国内線に乗り換える方法が一般的です。
または、レンタカーを借りて自分で運転していくことも可能で、私はこちらをおすすめします。
ロサンゼルスからは東に向かって車で約5時間のドライブです。視界を遮るものが何もない砂漠の中の道を、地平線を眺めながら車を走らせるということは、なかなか日本では経験できないことだからです。
そんなドライブが何日も続けばさすがにうんざりするでしょうが、約5時間ぐらいなら我慢もできるでしょう。そろそろ景色にも飽きてきたなと思ったころには、ラスベガスの巨大なホテル群が前方に見えてきます。
しかし、すぐそこに見えたホテル群に辿り着くまでにはそこからかなりの時間がかかります。まるで遠くの山に向かっているようで、それくらいモハベ砂漠は広いのです。
ようやく着いたころには、早くもラスベガスというこの人工都市の奇妙さと大きさを実感することになります。
死ぬまで酒を飲むためにラスベガスにやってきた男を描いた物語
ジョン・オブライエンという小説家がいます。そのオブライエンのデビュー作であり、またもっとも有名な小説が『Leaving Las Vegas(リービング・ラスベガス)』(1990年刊行)です。
オブライエンの半自伝的小説だといわれるこの作品は、ロサンゼルスに住むアルコール依存症の中年男性が「死ぬまで酒を飲む」ことを目的にラスベガスにやってきて、そこで出会ったコールガールとの奇妙な関係について書かれたものです。この男性もラスベガスには自分の車を運転してやってきました。
1993年には『Leaving Las Vegas』とまったく同じタイトルの曲をシェリル・クロウが発表したものの、クロウは小説の影響を否定し、この曲は自分の半自伝的作品だと主張しました。
さらにその2年後の1995年には、ニコラス・ケイジ主演で同名の『リービング・ラスベガス』として映画化され、原作の小説も一気に有名になりました。
しかしオブライエン自身は映画化が決定してからわずか2週間後に拳銃自殺しており、その映画を原作者として見ることはありませんでした。
死後いくつかの未完成作品が出版されましたが、オブライエンはほぼこの1作だけを残して世を去りました。この作品をめぐるそうした出来事の一つひとつが、さらにミステリアスな話題を呼ぶことになりました。
コールガールと中年男性の恋物語といえば、ジュリア・ロバーツが主演した1990年の『Pretty Woman(プリティ・ウーマン)』を思い出す人もいるかもしれません。
この有名なロマンティック・コメディ映画が公開されたのは、奇しくも『リービング・ラスベガス』の原作小説が刊行されたのと同年です。
しかし、『リービング・ラスベガス』には『プリティ・ウーマン』のような甘いハッピーエンドの要素はみじんもありません。
セックスと暴力とアルコールに満ちたこの映画の最後は主人公の男性が死に、コールガールがそのことをセラピストに語る独白で幕を閉じます。
このダークで辛口な展開は、その当時のラスベガスに対して多くの人が抱いていたイメージと合致するものでした。
アメリカでもっとも罪深い都市
ラスベガスはよく「Sin City(罪深い都市)」と呼ばれます。テーマパーク化した現在でも、ラスベガスと聞けば、多くのアメリカ人はギャンブル、コールガール、マフィアといった言葉を連想するでしょう。
ラスベガスは観光都市ではありますが、アメリカ国内にある他の都市とはとは少し異なった、いわば大人向きの雰囲気があります。
もちろん家族連れが全然いないというわけではありませんが、それよりも大人の友人同士で羽目を外しにやってきたようなグループが目立ちます。それも男性だけ、あるいは女性だけのグループが多いことも特徴のひとつです。
2009年の映画『The Hangover(邦題:ハングオーバー!消えた花ムコと史上最悪の二日酔い)』を見れば、その雰囲気を感じることができます。
アメリカでは稀有なことですが、多くのカジノはいまでも禁煙ではありません。
ホテルの外に出ても、歩きながら煙草を吸う、信号を待ちながら缶ビールを飲む、そんな人たちが白い目で見られることもなく、自然に街に溶け込んでいるのは、いまのアメリカでは多分ラスベガスだけです。
ネバダ州では嗜好品としての大麻も合法化されていますので、最近ではラスベガスのあちこちでその匂いがするようにさえなりました。
こう書くと、ずいぶんと退廃的、あるいは非道徳的な街のような印象を受けるかもしれませんが、ラスベガスの奇妙な魅力とはそうしたことさえも一夜の夢のような非現実に感じさせてくれることです。
何しろ、かつて市当局が「What Happens in Vegas, Stays in Vegas(ベガスで起きたことはベガスに留まる)」という言葉を観光キャンペーンで使ったくらいです。
もちろん、私はラスベガスではどんなワルイことでもできるよと「旅の恥のかき捨て」を皆さんにおすすめしているわけではありません。
ただその雰囲気だけでも味わいたい人は、早朝のラスベガス・ストリップを歩いてみてはどうでしょう。その時間なら歩道には人もまだらで、まだ暑くもありません。のんびり散歩を楽しみながら、前夜の余韻を感じることができます。
- image by:角谷剛
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