新型コロナウイルスは、ありとあらゆる立場の人と社会に大きな影響を与えました。私がそのなかでも本当に気の毒だなと思ったのは、パンデミックと進学のタイミングが重なってしまった大学1年生たちでした。
親の保護から離れて、新しい環境で、新しい友人を作る。世代を越えて、世界中の大学1年生たちが経験してきた、そんなかけがえのない貴重な時間と機会が奪われてしまったからです。
私の息子もそのうちのひとりでした。2020年6月に彼が高校を卒業したとき、私たちが住むカルフォルニア州はまさにロックダウンの真最中。もちろん高校の卒業式は行われませんでしたし、友人たちと最後に卒業祝いの大騒ぎをすることもできませんでした。
9月に大学は始まりましたが、授業はすべてオンライン。最初の1年間はキャンパスに足を踏み入れることさえまったくありませんでした。
※本記事は新型コロナウイルス感染拡大時のお出かけを推奨するものではありません。新型コロナウイルスの海外渡航・入国情報および各施設の公式情報を必ずご確認ください。
コロナ禍で制限された学生生活
アメリカの大学には、キャンパス内に学生寮の建物があることが通常です。遠方の学生だけではなく、自宅から通学が可能な地元の学生の多くも、大学入学と同時に寮生活を経験することが、一種の伝統のようになっています。
しかしながら、2020年は全米中で数多くの大学が学生寮そのものを閉鎖。2021年になってからは徐々に対人での授業を再開する動きが出始めましたが、それでも学生寮の人数は厳しく制限されていました。普段は3~4人が入居する部屋に1人しか入れなかったりしたようです。
どうしても留学生や遠方の学生が優先されたため、地元の大学に進学した私の息子は長いウェイティング・リストの下で待たされることになりました。
ようやく念願の入寮がかなったときには入学から1年半が経っていました。2年生の後期になって、初めて大学新入生らしい生活が始められることになったというわけです。
日本とは違う?アメリカの大学生たちの寮生活
入寮の日は、ほとんどの学生が親の車に荷物を満載して寮にやってきます。親は子どもがこれから暮らすことになる部屋を見て、ルームメイトと挨拶をして、そして名残惜しく立ち去っていきます。
これもまた伝統のひとつといってよいでしょう。1989年のアメリカ映画『いまを生きる』(原題:Dead Poets Society)の舞台は、全寮制の高校でしたが、やはりそんな入寮の日から物語が始まります。
私は近距離だったので比較的楽でしたが、友人のなかにはオハイオ州の大学に入学した子どもを学生寮に送り届けるために、カリフォルニア州から数日かけてドライブした人もいました。子どもはそのまま寮に残ればよいのですが、親はまた数日かけて家まで戻らないといけないので大変です。
私の息子が入居した部屋は3人用です。2段ベッドが壁の両側に並び、ひとりずつに机があり、その他には小さなクローゼットがついています。部屋の広さは日本でいえば8~10畳くらいでしょうか。
息が詰まるほど狭いというわけではありませんが、男3人が住むにはけっして広いとはいえません。赤ん坊のころからずっと個室を与えられてきた息子にとって(そしてルームメイトにとっても)、生まれて初めて経験する集団生活です。
息子が通う大学はごくごく庶民的な州立大学ですが、とびっきり学費が高いアイビーリーグのような私立大学でも、学生寮は2~4人部屋が普通のようです。
名門中の名門、ハーバード法科大学を舞台にした1986年の映画『ミスター・ソウルマン』(原題:Soul Man)でさえ、主人公が入居した学生寮は2人部屋でした。
日本では学生寮は個室が多くなっていると聞きますが、どうやらアメリカでは若いころに他人と生活を共にすることで得るものがあるという伝統的な考えが依然として主流のようです。
部屋は質素でも、施設はかなり豪華?
部屋にはプライバシーがなく、シャワーやトイレも共同。洗濯はコインランドリー。アメリカでも学生の寮生活は質素そのものかといえば、そうとはいえない部分もあります。
住居棟とは別の建物になっているバイキング形式のカフェテリアでは、好きな食事を1日3食、好きな時間に摂ることができます。とても「学食」と呼び難いほどきれいな建物と設備です。
なにしろアメリカですので、洗練された美味というものからは遠くかけ離れていても、生きていくのにはまずまず十分な食生活を送ることができます。
それだけではなく、寮の共用スペースにはビリヤード台まで置いた豪華なラウンジが各階にあることも。キャンパス内を少し歩けば、フィットネスジムもボウリング場まであるのです。
どの施設も贅沢すぎるとまではいえないかもしれませんが、少なくとも清潔です。学生用とはとても思えません。
ただし、キャンパス内のどの施設もすべて禁酒禁煙になっているそうです。アメリカでも以前は大学の上級生が新入生にお酒を強要する伝統があったようですが、急性アルコール中毒で亡くなる不幸な事故が相次いだため、そのようなルールができたのでしょう。
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