毎年4月27日は、オランダでは国民の祝日「キングスデー」。ウィリアム・アレクサンダー国王の誕生日です。
王様の誕生日なんてさぞ厳粛な式典が催されるかと思いきや、なんとこの日は国中がオレンジ色に染まり、大盛り上がりの一日なのです。
そんな日本とは全く違うカルチャーショック満載のオランダ流「王様の誕生日」をご紹介します。
国中がオレンジ色に彩られる一日
この日は国中のあらゆるところにオレンジ色の飾りつけがあふれ、人々もオレンジ色の服や帽子などのアイテムを身にまといます。
実はオレンジ色は、非公式ではありますがオランダ王国のイメージカラーなんです。これは王家の名前に由来します。
現在の王家の一族はオラニエ=ナッサウ家という名前なのですが、「オラニエ」というのがまさにオランダ語でオレンジ色を意味する言葉。
なので王様の誕生日はもちろんのこと、スポーツのオランダ代表を応援するときなどもオレンジ色が使われます。
キングスデーの時期には飾りや服だけではなく、食べ物もオレンジ色に変身。
オランダ流ミルフィーユの「トンプース」というケーキがあるのですが、こちらは普段はかわいいピンク色のアイシングがかけられています。
これもキングスデーにはオレンジ色の特別バージョンが販売されるんですよ。ケーキ屋さんはこの限定版オレンジ色のトンプースを買い求める人たちでにぎわいます。
オランダ王室とキングスデーの歴史
ここでオランダ王室について簡単に説明しましょう。現在のウィリアム・アレクサンダー国王は7代目です。
長子が受け継ぐ世襲制で、次の君主は現在19歳の長女・アマリア王女が就くことになっています。ウィリアム・アレクサンダー国王は、王様の仕事の他にもなんと飛行機の副操縦士としても働いているんですよ!
飛行機が大好きで、王室に生まれなかったら国際線の大型旅客機のパイロットになりたかったとか。私は一度だけお目にかかったことがあるのですが、大きな体ににこやかな笑顔が印象的な王様でした。
さて、現国王は7代目ということですが、キングスデーは最初からあったわけではありませんでした。
始まったのは、たった10歳で4代目君主となったウィルヘルミナ女王がまだ5歳のころ。地方の新聞社が国の結束を高めるために、幼い王女さまの誕生日のお祝いを行ったことが始まりでした。
当時は子どもたちが昔ながらの遊びを楽しむような日だったそうです。5代目ユリアナ女王の時代に国民の祝日となり、国民からの贈り物を宮殿で受け取る日になりました。
そして6代目ベアトリクス女王の時代に「宮殿で待つのではなく自ら出向きたい」という女王の意向で、毎年女王が全国各地へ行くようになり、国中でお祝いする形になったそうです。
現在、王室のメンバーは毎年地方都市を訪れ、お祝いを受けたりパレードを行います。
パレードといっても、道を歩きながら沿道の国民と交流を持つスタイルでとても和やかな雰囲気。この様子はテレビ中継もされます。
日本とは違うお祭りのスタイル
「お祭り」というと、日本では神社でお神輿が出たり、参道に屋台が出たりというイメージがありますよね。
オランダのキングスデーは、王様の誕生日を祝うのはもちろんなのですが、それにかこつけて(?)、とにかく自分たちが楽しむ!というもの。
なかでも特徴的なのが、フリーマーケットと野外フェスです。
フリーマーケットは、誰でもお店を出していい日ということで、大人から子どもまで好きなお店屋さんをします。
大抵は古着やおもちゃなどを売ることが多いのですが、子どもたちは得意な楽器を演奏したり、手作りのカップケーキを売ったり、くじ引きを作ったりとかわいらしいお店がたくさん。
なかには「あなたを3分間褒めます」とか「ぼくの犬を触らせてあげます」なんていうお店もあって、子どもたちのアイデアにびっくり。フリーマーケットが開催されるエリアを歩き回ってお店を見るだけでも楽しいですよ。
そして王様が出席する王室公式のコンサートの他、野外フェスが全国各地で開催されます。
そうしたイベントの他にも、フリーマーケットの会場だったり、飲食店が連なる路地だったりにDJブースが出されて、そこらじゅうで音楽が鳴り響きます。
そんなふうにみんなでワイワイ楽しむのが、オランダ流「王様の誕生日」の祝い方。
ちなみにコロナ禍で2020年と2021年はキングスデーのお祝いは中止になりましたが、代わりに「家の日」として、王様一家がオンラインフリーマーケットを開催したり、ビデオ通話で全国からのお祝いを受けたり、コンサートのライブ配信があったりしました。2022年から以前の形に戻っています。
旅行にも良い季節!オランダ流・王様の誕生日を楽しもう
私がオランダに来て最初に体験したキングスデーは、「王様の誕生日なのにこんな街中パーティーみたいな感じでいいの?なんでフリーマーケットなの?」と、本当に驚きでいっぱいでした。
でも国中みんなで楽しむ!という一日がとても素敵で、いまでは毎年心待ちにしているイベントのひとつです。
またこの4月末という時期は、長くて暗いオランダの冬が終わり、みな開放的な気持ちになることもあって、とにかく楽しもうという雰囲気でいっぱいなのです。
実は6代目のベアトリクス女王の誕生日は1月31日なのですが、彼女は母である5代目女王の誕生日である4月30日をそのまま祝日として受け継ぎました。
「屋外でイベントを行うには、1月31日はまだ寒くていい季節ではないから」というのが理由だったそうです。よく「オランダ人は合理的だ」といわれますが、まさにそれを体現するエピソードだなと思いました。
というわけで、4月末は3代にわたって君主の誕生を祝う日として続いており、人々の気持ちも夏へ向けて自然と高まり、大にぎわいの一日になっています。
そんなオランダ流「王様の誕生日」、この日だけの特別なイベントです。チューリップなど花もにぎやかな季節。ぜひみなさんもこの時期のオランダを体験してみてはいかがでしょうか。
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