1870(明治3)年、京丹後市で料理旅館として創業した「和久傳」。現在では、京都市内に料亭「和久傳」と、料亭のおもたせを販売する「紫野和久傳」を、京都のほか東京や名古屋などにも出店しています。
その和久傳が創業の地である京丹後市に「和久傳ノ森」をオープンしたのは2017年のこと。
森の中には、画家・安野光雅さんの作品を展示する「森の中の家 安野光雅館」や、京丹後の豊かな食材が味わえる「工房レストランwakuden MORI(モーリ)」、定番人気の「れんこん菓子 西湖(せいこ)」をはじめ惣菜などを製造する「久美浜工房」があり、京丹後の自然を感じながら一日中のんびり過ごせる人気のスポットとなっています。
※記事中の価格は税込表記です。
56種類、3万本の樹々に囲まれた、癒しの森
和久傳ノ森があるのは京都府北部、丹後半島の付け根にある京丹後市久美浜町。京都縦貫道の京丹後大宮ICから久美浜湾に向かって車で約25分のところにあります。
門の向こうには青々と樹が生い茂り、外からは中がどんな風になっているのかわからないところにも期待感が高まります。
門をくぐり小径を進んでいくと、目の前に広々とした芝生の空間が現れました。今はこんなにも緑に囲まれている「和久傳ノ森」ですが、元々ここは工業団地の一角で、何もない更地だったのだったのだとか。
そこに植物生態学者の宮脇昭さんの指導で、2007年より久美浜の風土に合う56種類、3万本の樹々を植樹。十数年の月日をかけて立派に成長。オープンから6年たった現在は桑畑もでき、ますます緑が豊かになっています。
コンクリートの回廊の先に現れる 森の中の家 安野光雅館
まず訪れたのが、右手に見える「森の中の家 安野光雅館」です。安野光雅さんといえば、世界的に有名な画家であり絵本作家。著書に『繪本平家物語』『天動説の絵本』『旅の絵本』 など多数あります。安野光雅さんの美術館があるのは、和久傳ノ森と、生まれ故郷の島根県津和野町だけなのだとか。
美術館へは芝生から直接入ることもできますが、この折れ曲がった回廊を通って行くのがおすすめ。設計は、こちらも世界的な建築家・安藤忠雄さん。京都府内では京都市北区にある「京都府立陶板名画の庭」、大山崎町にある「アサヒグループ大山崎山荘美術館(一部)」などの設計を手掛けていることでも有名です。
回廊の壁には所々にスリットが入れられ、森の景色が見えるのも素敵。ゆえに安野光雅ファンだけでなく、安藤忠雄ファンも多く訪れるそうで、オープンから6年目を迎えた2023年6月には入館者11万人を超えました。
木と緑を感じる、森の中の美術館
ところで安藤忠雄建築といえば、コンクリートやガラスなど近代的な素材を使用し、幾何学的な構造なのが特徴。なのに外壁はコンクリートではなく黒い杉板張りなのが興味深いところです。
そう思って玄関を入ると安野光雅さんと安藤忠雄さん、大女将の桑村綾さんとの打ち合わせ風景がパネルで展示してありました。
こちらを拝見すると随分、意見をぶつけあった様子がわかります。ことに設計に際しては安野光雅さんの意見もたくさん入っているそうで、まさに美を知る巨匠たちがコラボレートした美術館なんですね。
そもそも、どうして名料亭である和久傳が安野光雅さんの美術館を開くことになったのでしょうか。桑村綾さんは元々、安野光雅さんが描く世界が好きでコレクションをしていたのだとか。
安野光雅さんの素晴らしい絵を見てほしい、小さな子供たちに本物を見てほしいという想いと、和久傳の発祥の地である「京丹後にご恩返しをしたい」という想いから美術館を建てることにしたのだそうです。
館内は木を基調とし、所々に細い窓が設けられ、絵画を楽しみながら通りすがりに緑が眺められるのが素敵です。
また、壁に作られた細かなスリットは、絵を吊るすワイヤーを見えにくくする効果もあるのだとか。確かに余計なものが目に入らず、絵に集中できます。
作品は3カ月ごとに展示替えされるので、いつ訪れても新鮮な発見ができそうです。
ツルンとした食感がたまらない、あの銘菓が作られている久美浜工房へ
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