ノスタルジックな温泉街ならココ…日本有数の湯治場「肘折温泉」の魅力

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日本には古くから“湯治”という文化があります。この病気や怪我の治療を目的とした温泉療法では、一週間を一巡りに数え、少なくとも三巡りは必要とされ、長期で温泉地に逗留したものでした。

温泉療養といっても一日中湯につかっているわけではないので、人々は炊事場で自炊し、居合わせた者同士おかずを交換し合い、語らいや笑いを共有し、滞在中に生まれるさまざまなコミュニケーションも含めて楽しんでいたようです。

現在でも日本各地には長期滞在できる湯治場が点在しますが、さすがに数週間単位で滞在する人は稀。多くは数日の滞在。一週間滞在できたら御の字といったところではないでしょうか。

秋田の玉川温泉や、大分別府の鉄輪温泉など、湯治場で有名な温泉地はいくつもあり、煌びやかな温泉旅館にはない独特の鄙びた風情が魅力です。山形県の山間にある「肘折温泉」もまた、味わい深い温泉情緒が魅力の温泉地で、そのまま昔話しに出てきそうな湯治場の姿が今も残ります。

今回は、現代湯治を提案する「肘折温泉」の魅力についてお話ししたいと思います。

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肘折温泉があるのは、霊峰月山の麓。周囲の山々に挟まれた谷地に流れる銅山川沿いにたたずむ静かな温泉郷です。冬には積雪が3mを超える全国屈指の豪雪地帯としても有名。温泉地としての歴史は古く、開湯は1200年以上も昔にさかのぼります。

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月山の登山口でもあることから、江戸時代には山岳信仰の霊湯としても大いに栄えたそう。現在は小さな集落に20軒ほどの宿屋が並び、長期で訪れる湯治客用に炊事場が設けられている旅館も少なくありません。

「肘折」という名前の由来には諸説あり、肘を折った老僧がこの地のお湯に浸かったところたちまち傷が癒えたという説が現在において一般的なようです。

源泉は、全国でも有数のナトリウム塩化物炭酸水素塩泉をメインに、もうひとつ源泉温度8度の冷鉱泉、炭酸泉も湧き出でます。湯にふんだんに含まれるナトリウムが身体を芯から温め、肌の不要な角質や毛穴の汚れをとる効果のある炭酸水素塩が肌を整えます。


じっくりとつかることで、傷や骨折などの怪我、リュウマチ、神経痛、胃腸病、皮膚病等幅広い効能が得られる湯として知られています。化粧水成分であるメタケイ酸も多く含まれるので、湯上がりはお肌がしっとり!

この古くから人々を癒し続ける素晴らしい効能の湯が、どこの宿でも源泉掛け流しで提供されています。

肘折温泉の魅力その①鄙びた温泉風情

右手に建つのは明治元年創業の「丸屋旅館」。レトロな風情が人気の宿です image by:小林繭

肘折温泉の魅力は、まずその鄙びた温泉街の風景の美しさにあります。まわりを山々に囲まれるため、本当にここだけ時間がとまったような空気が漂い、レトロムード漂う温泉街を闊歩すればそれだけで非日常へトリップ。

昭和12年に建てられたという旧郵便局は町のランドマーク的存在 image by:小林繭

街の中心にある「旧肘折温郵便局舎」は、レトロ建築好きにはたまらない可愛らしさですし、道の両側に掲げられた昭和な看板からも目が離せません。小さな集落ですが、どこかすごく遠くて懐かしい場所へ迷いこんでしまったような楽しさが味わえます。

  • 旧肘折温郵便局舎
  • 山形県大蔵村南山671-2
  • 0233-34-6106(肘折温泉観光案内所)
  • 営業時間:9:00~17:00

肘折温泉の魅力その②共同浴場の充実

肘折温泉を訪ねたら、まずは共同浴場「上の湯」へ image by:小林繭

温泉好きにとって共同浴場がある温泉地はそれだけで魅了倍増ですが、肘折温泉の共同浴場は一言でいってとっても上質!

まずなんといってもそのレトロな外観が目を惹く「上の湯(かみのゆ)」。温泉街の中心に位置する肘折温泉のシンボルともいえる共同浴場で、宿泊客は無料で入ることができます(各宿泊施設でチケットがもらえます)。

湯はいくつかの源泉を混合したもの。飲泉も可能です image by:小林繭

広々とした内湯には掛け流しの湯があふれ、湯船にはお地蔵様が鎮座。つかればつかるほど肌触りのやわらかさがじぃんと沁みいる湯に、肘折温泉の実力がにじみでています。

  • 上の湯(かみのゆ)
  • 山形県最上郡大蔵村南山
  • 0233-34-6106(大蔵村観光協会)
  • 入浴料:大人400円/小人300円
  • 営業時間:8:00~17:00
  • 湯の里 肘折温泉ホームページ
湯治場風情を今に残す日帰り温泉施設「肘折いでゆ館」image by:photoAC

ユニークなのが、近代的な温泉施設「肘折いでゆ館」。こちらには温泉療養相談所が設置され、温泉ドクターから入浴法や体調などについてアドバイスを受けることができるんです。

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もちろん温泉も充実の内容で、掛け湯や寝湯を備えた木造りと、石造りの二つの展望浴場を楽しめます。

  • 肘折いでゆ館
  • 山形県大蔵村肘折温泉
  • 0233-34-6106
  • 入浴料:大人(中学生以上)500円/小学生300円/幼児無料
  • 休館日:5月~10月火曜/11月~4月月曜・火曜 ※祝祭日の場合は営業
  • 入浴時間:5月~10月9:30~17:30/11月~4月10:00~17:00 ※入館受付は終了30分前まで
  • ホームページ
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そして、もうひとつ炭酸泉の飲泉ができる「カルデラ温泉館」では、肘折温泉郷のひとつ「黄金温泉」の源泉が楽しめます。肘折ではその昔、この炭酸泉を使ってサイダーを作っていたそう。

  • カルデラ温泉館
  • 山形県大蔵村黄金温泉
  • 0233-76-2622
  • 入浴料:大人(中学生以上)550円/小学生300円/幼児無料
  • 休館日:5月~10月水曜/11月~4月水曜・木曜
  • 入浴時間:5月~10月10:00~17:00/11月~4月10:00~16:00 ※入館受付は終了30分前まで
  • ホームページ

肘折温泉の魅力その③朝市や土産物屋の風景

肘折温泉の朝は朝市から始まります image by:小林繭

肘折温泉名物といえば朝市です。この温泉街の朝は早く、毎朝5時ごろから旬の野菜や山菜、山の珍味が並ぶ市が開かれ(4月〜11月)、浴衣姿の宿泊客たちで賑わいます。

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自炊しながら泊まっている人たちはここで食材を調達。珍しい山菜や乾物、お母さんたちの手作り味噌や漬物なども並ぶので、食事付きの宿に泊まっている人はお土産選びが楽しめます。

土地の美味しいものをよく知るお母さんたちとのやりとりも楽しく、早朝とは思えない賑やかさ。朝市がひけると温泉街はいつもの静けさを取り戻します。

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温泉街には数軒の土産物屋があり、飲み物やお菓子、カップ麺などのちょっとした買い物の心配はありません。湯治客が多いからでしょうか、お酒類の充実度が高い印象でした。

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特に「上の湯」の横にある「カネヤマ商店」には豊富な地酒がそろいます。店の片隅には角打ちコーナーもあり、連泊で滞在したら連日湯上がりに吸い込まれてしまいそうなお店です。

お土産コーナーには肘折の伝統工芸であるこけしが並びます image by:小林繭

土産物屋でちょっとした買い物をする際にもお店の人との他愛のない会話があり、肘折の人々の湯治客へ対する気さくな距離感が心地よく感じられるのではないでしょうか。

  • 肘折温泉朝市
  • 山形県大蔵村肘折温泉
  • 0233-76-2211(肘折温泉観光案内所)
  • 開催期間:4月〜11月 ※開催期間中休みなし
  • 開催時間:早朝~7:30
  • 湯の里 肘折温泉ホームページ
  • カネヤマ商店
  • 山形県最上郡大蔵村大字南山506-3
  • 0233-76-2123
  • 定休日:なし
  • 営業時間:6:00~18:30
  • ホームページ

肘折温泉の魅力その④魅惑の湯治場プライス

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連泊を前提とした湯治宿は宿泊代が安く設定されていることも大きな魅力です。肘折温泉の宿を見てみると、相対的な印象で1泊2食付き2名で8,000円前後〜、食事を軽い内容にした湯治プランにすると6,600円ほど、素泊まりで5,000円前後〜と、かなり値段設定がおさえられています。

安い宿はトイレが共同だったりするので、それが気になる人はもうちょっとランクを上げてトイレ付きの客室がある宿へ。その場合でも一万円台後半〜という設定なので、とにかくリーズナブル

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また、1名利用の場合も2名利用時の料金プラス1,000円とか2,000円とかなので、まったく割高感がなく良心的。これは、一人旅にとってはものすごい嬉しいポイントです!

というのも、きらびやかな温泉地だと1名利用は倍近い価格となることも珍しくないので。このお値段で、あの素晴らしいクオリティの湯が楽しめるとは、なんとも素晴らしいことです。

一度は入ってみたい、有名な「洞窟乃湯(あなゆ)」image by:やまがたの広報写真ライブラリー

また、金魚を眺めながら温泉に浸かれる「金魚湯」がある「西本屋旅館」や、職人が手彫りした洞窟の奥に湧く貸切風呂「洞窟乃湯」が有名な「松屋」など、個性豊かな温泉空間が楽しめる宿もあり、なかなかユニークな温泉滞在が過ごせると思います。

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懐かしい風景と文句なしに上等な源泉掛け流しの湯を、訪れる旅人に惜しみなく与えてくれる「肘折温泉」。帰り際バスに乗り込むと、宿の人々が通りに次々に姿を現し、バスが見えなくなるまでずっと笑顔で手を振り続けてくれたことがとても印象的でした。

秘湯のいで湯で出会ったのは、旅人を迎えてくれる人々の素朴さやじんわりあたたかな人情でもあり、それこそが湯治場文化が育んだ「肘折温泉」らしい姿なのだと思います。

あのぬく湯を目指して大雪に閉ざされた真冬の肘折温泉へと足を運ぶ旅人の気持ちがよくわかるというもの。皆さんも、ぜひぬく湯を求めて山間の小さな湯治場へ出かけてみては?

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「肘折温泉」へのアクセスは、JR新庄駅から大蔵村営バスで1時間弱。絵に描いたような秘湯ですが、アクセスは良好。今年も7月14日には「肘折温泉開湯祭」が開催され、温泉街を地蔵みこし行列が練り歩きました。秘湯のお祭りも一度見てみたいものです。

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