古い建物や古い街並みには、新しいものには変えられない奥深い魅力が息づいていると思っています。
それは、温泉宿もしかり。昔から続く老舗の宿には、新しい宿にはとって代わることのできない魅力があります。
歴史を感じる佇まいや匠の技が凝縮された装飾は眺めているだけでもうっとりしますが、実際に泊まってこそ空間としてのその素晴らしさを実感できるというもの。
そこで今回は、一生に一度は訪れたい、みなさんにもぜひ訪れてほしい老舗の温泉旅館リストのなかから、渋温泉にある「歴史の宿金具屋」をご紹介しましょう。
※本記事は新型コロナウイルス感染拡大時のお出かけを推奨するものではありません。新型コロナウィルスの国内・各都道府県情報および各施設の公式情報を必ずご確認ください。
あの映画の世界へリトルトリップ。贅沢すぎる「泊まれる登録有形文化財」
「歴史の宿金具屋」があるのは、長野県北部の渋温泉。奈良時代、行基によって開かれたと伝わる歴史の古い温泉で、いまも石畳の道に古い木造建築の宿が並ぶノスタルジックな魅力にあふれた温泉地です。
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そんな渋温泉のなかでもひときわ目を惹く存在が「歴史の宿金具屋」です。目抜き通りのちょうど真ん中に位置し、その独創的かつ趣のある佇まいには思わず道行く温泉客の足も止まります。
創業240年というこの宿は、ジブリ映画『千と千尋の神隠し』のモデルのひとつでは?とファンの間で話題になり日本中の注目を集めましたが、その景観を眺めると、なるほどとうなずきます。
随所に映画のなかに登場する風景とどこか記憶が重なり、ファンであれば瞬時に数々のシーンが頭のなかを思いめぐることと思います。
そもそも温泉宿なのに、「金具屋」という屋号もなんだか独創的ですよね。
聞けば、1754(宝暦4)年に起きた裏山の土砂崩れの復興中に敷地のなかから温泉が湧いたことがきっかけで、鍛冶屋から宿屋に鞍替えをすることになったので、鍛冶屋にちなんで「金具屋」としたのだとか。
簡素な湯治宿としてスタートしたものの、1927(昭和2)年に長野電鉄の湯田中駅が完成すると、この先の時代はきっと観光業が発展すると見込んだ6第目館主が「金具屋」を“最高級の観光旅館”にすることを決意。
全国のさまざまな建築物を視察して歩き、独自の構想を持って大規模な増築工事にいどみました。
その際に建てられたのが、外から眺めるとちょうど真ん中に位置する建物、国の登録有形文化財にも認定される木造4階建ての「斉月楼」です。
当時、木造4階建というのは非常にめずらしく、まわりの人々はあっと驚かされたそう。その後、建築法が変わったことから現存する大変稀有な木造4階建の建物となっています。
建築構造のみならず「斉月楼」の特徴は、客室はもちろん廊下や階段など館内の内装に細かな技巧や遊びの数々がつくされていることです。
実は、こちらの建築に携わったのは地元の宮大工さんたち。そのため、伝統的な匠の技がいたるところに散りばめられているんです。