減塩に糖質カット。山梨発「いちやまマート」のブレない信念
生き残りをかけて~地方スーパーの戦略
人口が減る中、地方のスーパーはどうやって生き残っていけばいいのか。その答えを出すべく三科が開いている勉強会がある。「美味安心」情報交換会。全国から「美味安心」の取引先スーパーが集まり、それぞれの成功した取り組みを情報交換する。こうした会を年に3回開き、生き残り策を共有しているのだ。
例えばこの日、ある人は年末商戦で役立つアイデアを発表した。年越しそばで大量に用意しなければいけないかき揚げを、なんとボウルごと揚げてしまう。これで油の中で具が広がらず、効率アップ。実際、このスーパーでは販売個数が3割増しになったと言う。
参加者のひとり、「東武」(北海道)の太田雅之専務は「すぐモデリングするのが大前提。私たちもそういう形で実践させていただいています」と言う。太田さんのスーパーは、北海道・中標津にある。いちやま流をどんな風に実践しているのか。
「東武サウスヒルズ」の売り場には、地元で揚がったサケや有機栽培のジャガイモなどが並ぶ。そして「美味安心」も。このスーパーでは200アイテムを揃えている。
「私どもでも、体に悪いものは基本、販売しないということをひとつのコンセプトにしています」(太田専務)
この店ではタール系色素を含む食品をできる限り販売中止にしている。
さらに「いちやま流」はこんなところにも。事務所のデスクの横には大量のカラーペン。簡単レシピのポップを作っていた。
「お客様は細かい説明文は読まないんです。完結して短く分かりやすくお伝えする。お客様に寄り添った、『料理が苦手な人でも美味しく作れます』とか」(滝本寛子店長)
いい商品でも、その良さが伝わらなければ買ってもらえない。これもいちやまの影響だ。
スーパーの情報交換は、いちやまマートのためでもある。三科は、参考になりそうな取り組みを行う店があれば自ら出かけて行く。
視察に訪れた中標津の「東武サウスヒルズ」で三科が注目したのは「七分づき米」のお弁当。「七分づき米」とは、玄米を七分ついて精米したお米。白米より栄養価が高く、しかも食べやすい。しかし水につける時間が長く必要になるなど、作るのに手間がかかる。それでもこの店は「客に健康が提供できる」と、「七分づき米弁当」の導入を決めたのだ。こうした地方の新たな試みは、三科にとって生きた情報源となる。
次に見つけたのは、子供が作った学校新聞。そこには子供が書いた美味安心の記事が載っていた。このスーパーは、地域の小学生を招き、食品の見学会を定期的に開催。安心な食とは何かを、地道に伝え続けている。
「本気になって地域のお客様の健康を考えた活動をされている。ものを売るのではなく、考え方、心を売るのが一番大事だと思います」(三科)
スタジオで地方スーパーの現状について問われた三科は、次のように答えている。
「いいスーパーと悪いスーパーがはっきりしてきた時代です。どっちの方向に行こうか、自分で決められないところが多い。そういう中で『地域のお客様に健康で奉仕したい』『今はいいけど将来は不安がある』というスーパーには、我々はお手伝いできる」
地方のスーパーができることを考え、いい取り組みは共有する。それこそが生き残る術だと三科は考えている。
~村上龍の編集後記~
本来「ローカル」には「田舎」というニュアンスは含まれない。
「その地域特有の」というポジティブな意味合いを持つ言葉であり、まさに「いちやまマート」にふさわしい。
三科さんは、誇りと自信を持ってローカルを自称する戦略家だ。
「美味安心ブランド」は全国に浸透しつつあり、無添加の価値を啓蒙するが、目線は庶民に合わせてある。
不味いものはオーガニックでも売らない。ナショナルブランドも売っているし、ディスカウントストアの攻勢も受けて立つ。
柔軟で、しかもぶれがない。わたしは「風林火山」という軍旗の文字を思い出した。
<出演者略歴>
三科雅嗣(みしな・まさし)1952年、山梨県生まれ。1975年、慶應義塾大学商学部卒業後、加商(商社)入社。1978年、いちやまマート入社。1991年、社長就任。2008年、PBの「美味安心」販売開始。
source:テレビ東京「カンブリア宮殿」
※本記事はMAG2 NEWSに掲載された記事です(2016年12月8日)