私が田舎暮らしを決めたワケ。若い移住者にその理由を聞いてみた
back to Basic–基本を知る
車に乗り、真っ白な轍をなぞって進むと現れたのが青いブルーシートで覆われた場所。シートをくぐって光とともに中に入ると、炭が付いて黒くなった衣服を着ている方がいました。口ヒゲを生やして、クシャッとした笑顔が素敵な男性、なべちゃんです。
「大学を卒業してから、いろいろなところをフラフラとして、ようやく10年前のあるきっかけでこの地に居着いた」というなべちゃん。
卒業後、ワーホリでオーストラリアに行った際、7日間ほどの山登りが印象的な体験だったそうで、それから山のことやアウトドアに関心を持つようになったそう。北アルプス中心の山には何日もかけて歩いたことがあるのだそう。
なべちゃん:「山のことで何かやりたいなぁ」と思っていたところでこの場所にきた。キッカケはさっこさんと同じく野外教育のプログラムだ。
なべちゃん:10年くらい前に大網にあるOBSの活動に参加したのがきっかけで。フラフラしていた人生の中で、やっと方向性が見えてきたというか、もうちょっとこうしたらいいんじゃないか、みたいなのを見つけて。自分の人生にとってのいいキッカケになった。
なべちゃん曰く、この場所で「腰を落ち着けた」のは、なんとなくのタイミングらしい。プログラムで出会った仲間と話をしたり、ここに住んでいるおばあちゃんやおじちゃんの話を聞いたり、また集落の全体の雰囲気を感じながら、空き家がちょうど出たり、そういうタイミングだったんだそう。
しっかり移り住んでからは3年経つなべちゃん。移り住んでから結婚もしたものの、式はあげませんでした。そんな話がきっかけで、集落の人に村総出で結婚式をさせてもらうことになったんだそう。
なべちゃん:今は「炭焼き」をやっているけれど、「くらして」としての活動では他に鹿の解体と鹿の皮でのモノづくりワークショップもやってる。いろんなことを感じながら、みんなで話していくっていう場がよかったっていうのもあるけど、命をいただくってこととかそういうことがよかったね。
なべちゃん:やっぱり今の人は、肉を食べてるけど、それがどこからどういうふうなことになって、今、こういう塊の状態になっているかってのは知らない人も多いからね。ワークショップでは、本当に命を獲るところからってのはなかなか難しいけど、獲った鹿が形あるときから自分たちで皮を剥いで肉にしていく。そして、それを食べる。
その中でいろいろ感じるものがみんなある。加えて、皮を使って、何か形にするものを一つつくる、っていう過程だね。ブックカバーだったり、コインケースだったり、みんなできる範囲でね。そうしてみんな自分の使うモノになるっていうのがすごくよかったと思うよ。自分の目の前にいたものの命をいただくってことをさ、しっかり感じながら。
なべちゃんの話を聞いていると、全然恐い話ではないんだけど、なんだかこわいような気持ちが内側からふつふつと出てきました。
なべちゃんは優しくゆっくりと話してくれているのだけど、重みというか真剣さというか、鬼気迫る感じが身体の内側に渦巻いてきます。「生きる」ってことについて本当に真剣に話しているからかなぁ、と考えながら、なべちゃんの話を聞き続けます。
なべちゃん:なんかね、「Back to Basic」っていう言い方をしているけど、「基本を知る」というかさ。今はやっぱり現実とかけ離れて生活をしていて、ちょっと見つめ直すところなんだろうと思う。きっとね。
そういう意味じゃ、木も一緒でね、木も一つの命ではあるからね、炭焼きって営みの中でそういうものを一つのカタチにしていけるっていうのはまた、すごいおもしろいことだなぁ、って思っている。夏は、田畑や畑をやってね。
まぁ、完全に自給自足ってことは今の時代ないけど、半分は、自分たちでつくれるもんはつくり、取れるもんは取りっていうところがね。そういう暮らしの部分を自分たちだけじゃなくて、興味のある方に場を開いて、感じてもらえたり、共有できる場をつくりたいねっていうのは「くらして」がやっている一つのカタチなのかなぁ。
この後、さっこさんも合流して、これからのことを聞いてみると、今は「馬」を飼いたいんだそう。馬と一緒に山で木を出す昔ながらのやりかたをやってみることや、畑を耕したり、糞を肥料にできたり、試したいと、2人は語ります。馬は雑草を食べたりしてくれて「循環」につながる、「馬は人と共にいた動物だから」という言葉がなんだか心に残っています。
3人で談笑を終えたところで、なべちゃんは山仕事に戻り、僕は、帰りのバスの時間もあって、さっこにバス停まで送ってもらい、東京に帰ってきました。
二人の話を聞いたり、小谷村の環境を短い時間でした。印象に残っているのは、食べることに困ることなく生きていける田んぼや畑が、今、刻々と失われつつある、というさっこさんの話、と、自然とともに暮らしているなべちゃんの姿です。
実際に尋ねてみて思ったのは、地方の暮らしの現場には、それまでわからなかったことや誤解していたことなど、インターフェース越しに記事を読んでるだけでは気づかない暮らしのリアルがたくさんある、ということでした。
いま、地方ではたくさんの外の人に開かれた機会を持っているところがありますが、少しでも興味持たれた方はぜひ、生を体験してもらえたなぁ、と思います。
「くらして」はこれからも小谷村の地に根ざしながら、村外の方に「暮らし」を体験してもらう機会を作り続けているそうです。ぜひ彼らの「暮らし」に少しでも触れてみて欲しいと思います。
それでは。
くらして:サイト Facebookページ
ライター:herume
1989年北海道釧路市生まれ。ヘルメットみたいな髪型ということから「ヘルメ」と呼ばれています。現在は、タイワビトという屋号でワークショップをやったり、コミュニケーションを観察したり、本を読んだりしながら「対話」の機会の創出、研究、情報発信をしております。 http://be-dialogue.tumblr.com
- 記事提供:マチノコト
- ※掲載時の情報です。内容は変更になる可能性があります。