日本中の名城を求めて。ツウなら知ってる「城旅」の味わい方
3.お城巡りでは7つのポイントに目を向ける
目の前の天守閣が再建された建物、模擬的に作られた建物だからといっても、がっかりする必要はありません。上述の記述とは少し矛盾するようですが、お城の魅力は天守閣だけではなく、天守閣以外の部分が築城当時の歴史をとどめている場合もあるからですね。
お城を眺める上で、最低限チェックしておきたい部分は、天守閣を含めて7つ。
- 天守閣(権威の象徴)
- 御殿(城主、奥方の生活の場であり、城主の執務の場所、役所的な存在)
- 櫓(やぐら)(見張り場所や武器庫)
- 門(お城の最初の防衛拠点)
- 塀(石垣の上にある壁。狭間(さま)と呼ばれる穴が開いている)
- 石垣(外敵の侵入を防ぐ障壁)
- 堀と橋
この7つは、お城の主要な構成物になります。「7つなんて多い……」と感じるかもしれません。その意味では、慣れないうちは「見どころは7つ」と意識して、目を向ける場所を事前に覚えておくだけで構いません。お城に着いたら、何だか分からないけど、7つの場所に目を向けてみる。それだけでも、お城の見方は深まるはずです。
その上で、7つの見どころを覚え、反射的に目を向けられるくらいまで慣れてきたら、次のステップに進みましょう。7つの見どころについて何を積極的に見ればいいのか、以下にまとめました。細かい知識は挙げるときりがありません。ビギナーがチェックしたいポイントは、それぞれ次の通りになります。
1.天守閣(⇒権威の象徴)のココをチェック!
チェックポイントその1:天守閣と他の建物とのつながり方は?
- 天守閣が独立している→独立式
- 天守閣が櫓(やぐら)と合体している→複合式
- 天守閣と櫓が離れていて渡櫓でつながっている→連結式や連立式
チェックポイントその2:天守閣そのものの形は?
- 建物の上に展望台が乗っかっている→望楼型
- 単純に各層が積み重なっている→層塔型
2.御殿(⇒城主、奥方の生活の場であり、城主の執務の場所、役所的な存在)のココをチェック!
チェックポイントその1:御殿の形は?
- 表(公邸)と奥(私邸)が分かれていると覚えておく。
チェックポイントその2:玄関と広間の飾りは?
- 政治の舞台である表の玄関と広間の飾りに注目(どれだけ権威を誇示しているか?)
3.櫓(やぐら)(⇒見張り場所や武器庫)のココをチェック!
チェックポイントその1:櫓は何層になっている?
- 櫓は何重か?(平櫓か重層櫓か)
チェックポイントその2:櫓の狭間(小窓)は何個ある?
- 櫓の狭間(さま、小窓)はどれだけあって、死角は存在するか?
4.門(⇒お城の最初の防衛拠点)のココをチェック!
チェックポイントその1:お城にある門の数は?
- 表門(大手門)と裏門(搦手門)があると覚えておく。攻め込む側の視点で見ると、どれくらい侵入しにくい仕組みになっているか?
チェックポイントその2:門の作りは?
- 櫓と門が合体していて射撃用の穴が開いている→櫓門
- 最初の門をくぐると進行方向が変わっているため直進できない→枡形虎口
5.塀(⇒石垣の上にある壁。狭間(さま)と呼ばれる穴が開いている)のココをチェック
チェックポイントその1:狭間の数は?
- 狭間(さま)と呼ばれる小窓はどれだけ設けられているか。
チェックポイントその2:塀は何でできている?
- 近世以降のお城は土塀が基本と覚えておく。
6.石垣(⇒外敵の侵入を防ぐ障壁)のココをチェック!
チェックポイントその1:石垣の種類は何?
石垣は3通りの「石の加工パターン」×2通りの「石の積み上げ方」の組み合わせで全てが説明できる。
- 積み上げた石のすき間は大きいか、小さいか、すき間は存在しないか→それぞれ野面積、打込接、切込接と呼ぶ。
- 石の積み上げ方は規則正しいか乱雑か→それぞれ布積、乱積と呼ぶ。
7.堀と橋のココをチェック!
チェックポイントその1:堀に水はある?
- 堀には水が入っている?(平城に多い水堀と山城に多い空堀がある)
チェックポイントその2:橋の材料は土、木、石?
- 橋は何で作られている?(木製の橋は籠城時に破壊してしまう)
チェックポイントその3:橋の形は?
- 橋は直線か折れ曲がっているか(折れ曲がっていると敵は直進できない→筋違橋、折長橋と呼ぶ)
細かく挙げれば、注意点はもっとあります。しかし、7つの見どころに目を向ける習慣ができてきたら、今度は7つのポイントについて、それぞれ今述べたチェックポイントを意識してみてください。
お城はそれこそ日本のあちこちにあります。経験を積んでいくと他の城との違いが分かってきます。お城の面白さに目覚めていくはず。そうなればいよいよ、お城ビギナーの卒業ですね。
4.天守閣までの歩きづらさ、進みづらさを体感する
お城の見学は急こう配が多かったりして、疲れますよね。筆者の母親は足腰が悪いため、その母親を全国のお城に連れて行くと、決まって道中で息を切らしてしまいます。毎回、少し申し訳ない気持ちにもなります。しかし、実はお城を訪れるとき、この「大変さ」を実感する瞬間も大切なのですね。
お城は攻めにくさを意識して作られています。バリアフリーなどとはもちろん無縁。バリアを意図的に作った究極の形がお城です。天守閣の眺望を楽しむまでに折れ曲がる通路を何度も歩かされます。歩幅が一定しない歩きにくい階段を上らされもします。その理由は、意図的に人が侵入しにくいように作られているから。
お城に足を踏み入れる際には、攻め手になったつもりで、歩き回ってみましょう。堀や橋の構造、門の形、石垣や塀の堅牢さ、櫓に設けられた射撃用の小窓(狭間)の多さを、実感しながら進んでください。いかに死角が少なく、いかに攻めにくいのか感じられるはず。
その苦労を体感した上だと、展望台などが設けられた天守閣に足を進めれば、なおさら眺めが美しく、爽快(そうかい)に感じるかもしれません。しかし、その眺めの良さにも意味があると覚えておきたいです。天守閣からの眺めが美しい理由は、そもそも天守閣から周囲の状況を把握できるように、意図して作られているからなのですね。
天守閣のあるお城に足を運び、天守閣の歴史を振り返りつつ、先ほど書いた7つのポイントを眺めてみる、その上でお城の歩きにくさを感じ、天守閣の眺めの良さを感じるという一連の流れを、幾つかのお城で繰り返してみてください。いつの間にかお城の魅力を語れるようになっているはずです。
外国人観光客にも大人気のお城です。偶然声をかけられる機会があったら、上述のような見どころを中心に魅力を教えてあげられる人になりたいですね。
- 参考
- 米澤貴紀『日本の名城解剖図鑑』(エクスナレッジ)
- 荻原さちこ『お城へ行こう!』(岩波書店)
- 『これだけは知っておきたい 国宝・重文の名城』(小学館)
- 注釈
- 注1:復元とは、失われた天守閣を当時と同じ場所に、同じ形で再建する行為。復興については、かつて天守閣があった場所に天守閣を再建するものの、設計などに過去と相違点があります。
- 注2:丸岡城は明治以降に倒壊するも部材をできる限り再利用して再建されました。
image by:Sean Pavone/Shutterstock.com(郡山城跡/奈良県)
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