ワーケーションができるキャンプ場を拠点に。アップサイクルなものづくり「gunung」
新型コロナウイルスの感染拡大により、私たちの暮らし方や働き方は大きく変化しました。おうち時間が増えたことで、いままでの生活を見直した人も多いのではないでしょうか。
これからの未来を考えた時、外せないテーマのひとつに環境問題があります。人間の活動が影響する自然破壊は、現在も進行中です。
だからこそ身近に取り入れていきたいのが、SDGs(持続可能な開発目標)の理念に沿って生み出されたアイテムたち。リサイクル以上に次元や価値を高めた「アップサイクル」なものづくりに、いま注目が集まっています。
神奈川県小田原市を拠点に活動する「gunung(グノン)」の山本敦(やまもと・あつし)さんは、自転車の廃材を利用したユニークなアイテムを制作しています。
今回は山本さんに、アップサイクルなものづくりをはじめたきっかけや作品への想いのほか、小田原にあるキャンプ場を制作拠点のひとつにした経緯について伺いました。
※本記事は新型コロナウイルス感染拡大時のお出かけを推奨するものではありません。新型コロナウイルスの国内・各都道府県情報および各施設の公式情報を必ずご確認ください。
生活の延長にあるものづくりがエコにつながる
自転車のチューブを使ったこれらのベルトは、山本さんが十数年つくりつづけている定番商品です。
クールなデザインが魅力的ですが、素材に柔軟性や耐久性があるので機能面でも優れています。両端のトリミングは約30色の中から自由にカスタマイズできるので、世代や性別を超えて人気があるのだそう。
こちらの「R tubeリップホルダー」(880円)は、ロードバイクのチューブを活用。「素材の特性を活かすことを大切にしている」と山本さんが話す通り、チューブの形状を利用したデザインが特徴的です。
チューブやタイヤのほか、車輪の部材であるスポークと呼ばれる針金、車輪の中心に付いているディスクブレーキなど、手に入った自転車の廃材を見てからつくるものを考えるため基本的には一点もののオリジナル。このほかにバッグ、キーリングなど約20アイテムを展開しています。
きっかけは、あるお店との出合い
元々テキスタイルデザインの仕事をしていた山本さんが制作をはじめたのは、当時住んでいた千葉県市川市にある「DEPOT(ディーポ)」というサイクルショップとの出合いがきっかけとのこと。
DEPOTはメッセンジャーのカルチャーを取り入れた先駆け的なお店で、中学生のころからスポーツバイクが趣味だった山本さんは意気投合。仕事の後に仲間と集まり、模擬レースなどをするようになったのだそう。
自転車が好きな仲間との交流に刺激を受けた山本さんは、スポーツバイクをより身近に感じるようになりました。そんな時にふと、お店に捨てられていた山積みの廃材が目に入り、「これで何かをつくろう」と思い立ちます。
当時勤めていた会社ではシーズンごとに新商品が消費され、心をこめてつくっていた山本さんは仕方がないと理解しながらも、単なる商材として扱われることに違和感があったそう。
そうして工場で大量生産するのではなく、自分の手を使ったものづくりをしたいという想いが、徐々にふくらんでいったんだとか。
山本さんが制作をはじめた2003(平成15)年ごろは、ストリートカルチャーのひとつとしてピストバイクやクロスバイクなどの自転車が脚光を浴びた時代。
gunungのアイテムはその追い風を受けて評判となり、山本さんは2006(平成18)年に会社を辞めて独立を選んだのです。
心躍る感覚を大切にした「ものづくり」
個性的でデザイン性の高いgunungのアイテムは、リサイクルの上をいく「アップサイクル」な取り組みとしても関心を寄せられています。
SDGsが社会に浸透する以前から制作を続けている山本さんが自転車の廃部品を素材に選んだ理由は、自転車が好きで自分の生活の一部になっているから。そもそも環境問題を社会に訴えたり、解決したりするのが目的ではありませんでした。
とはいえ、「『廃品がこんなふうに変わるんだ』と自分の作品をおもしろがってもらうことで、『不要なものを何かに活かせないか』と考えるきっかけになったらうれしい」と、山本さんは語ります。
gunungでは、値札とギフトボックスにダンボールを再利用しています。無駄をなくしたいという想いはもちろん、廃品からつくられたアイテムとのトータル感も考えたそうです。
「実用的なアイテムをつくることが第一」と話す山本さんが大事にしているのは、自分の心が躍る感覚。「この廃品でこれをつくったらおもしろいだろうな」と気持ちが上がる瞬間を指標にして、ものづくりを行っているそうです。
夫婦で共に、工夫することが楽しい
そもそもgunungは、洋服やテーブルウェアなどの布製品をつくっている山本さんの妻・順子(じゅんこ)さんが、2001(平成13)年にはじめたブランド。
夫婦それぞれの作品を同じブランド名で展開したいと思っていたため、制作しはじめたころの山本さんは、順子さんのブランドタグを借りて何気なく自分の作品に付けたのだそう。
「布ものと自転車のもので全然ちがうから、戸惑う人もいて」と順子さん。「gunungは自転車のイメージが定着したので、私は『gunung-life(グノン ライフ)』という名前で活動することにしました」と言います。
山本さんは現在、順子さんが洋服をつくる時に出る端切れを使って、バッグやストールなどの布小物もつくっています。
自転車の廃材を見て「おもしろいものをつくれないか」と考えるように、端切れを捨てるのではなく、何かに生まれ変わらせたいという想いからスタートさせたそうです。
ちなみに、山本さんが生まれ育った神奈川県小田原市と南足柄市に拠点を移したのは、2008(平成20)年のこと。
2019(令和元)年には南足柄のアトリエが火事で全焼してしまいましたが、2020(令和2)年6月に小田原でアトリエショップ「toko gunung(トコ グノン)」をオープン。
ふだんは順子さんの作業場として使われており、金曜と土曜のみgunungのアイテムを購入できます。