宮崎「チキン南蛮カレー」をバズらせた男・ルウ王子のスパイシーな半生

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2023/12/09

まかないから誕生した「チキン南蛮カレー」

チキン南蛮カレーはすぐには受け容れられなかった image by:吉村智樹

「カレー倶楽部ルウ」で働き始めたルウ王子。そこでひらめいたのが、現在の看板メニュー「チキン南蛮カレー」です。

ルウ王子「弁当屋でチキン南蛮をつくると、どうしても端切れが出るんです。僕はよくチキン南蛮の切れっぱしをカレーに乗せて、まかないにしていました。

するとね、うまいんですよこれが。『チキン南蛮とカレーの組み合わせって案外イケるんだな』って気がついた。それで、せっかくなら『このまかないを店の正式メニューにしよう』と考えたんです」

チキン南蛮カレーを新メニューに加えることで、お弁当屋さん時代の自慢の味も引き継げる。そう考えたルウ王子は「チキン南蛮カレー」の販売を始めました。ところが…そう簡単にはうまくはいかなかったのです。

ルウ王子ぜんぜん売れなかったんです。チキン南蛮をカレーに添える文化が過去になかったから、拒否反応が強かったんですね

チキン南蛮の発祥の地である宮崎。だからこそ、地元の誇りであるチキン南蛮をアレンジする行為に抵抗感があったようです。そのうえ、売れないだけではなく、騒動にまで発展しました。

ルウ王子「始めたころは『こんなものは邪道だ』『存在しなかった食べ物をご当地グルメだなんて嘘をつくな』と誹謗中傷がすごかったです。SNSで捨て垢から攻撃されるなど、いやがらせが6年くらい続いたかな」

悲劇のチキン南蛮カレーを救った「宮崎ブーム」

東国原知事(当時)が巻き起こした宮崎ブームの波に乗り、チキン南蛮カレーのウワサが全国を駆け巡った image by:吉村智樹

チキン南蛮カレーが苦境にあえいでいたある日、ルウ王子にチャンスが巡ってきます。きっかけは2007(平成19)年から巻き起こった「宮崎ブーム」でした。

元・たけし軍団の「そのまんま東」さん、現在は政治評論家の東国原英夫さんが宮崎県知事に就任。東国原さんは報道番組やワイドショーに出演してはたびたび宮崎の魅力をPRし、その効果はてきめんでした。


宮崎県産の食材や郷土料理にスポットライトが当たったのです。ルウ王子のチキン南蛮カレーも、少しずつマスコミが採りあげるようになりました。

さらに人気大爆発の決定打となったのが2009(平成21)年「宮崎“てげうめ”グルメフェア」。アマゾンジャパンが東国原知事(当時)と手を組み、インターネット上の物産展を開催したのです。

テレビはそのニュースを全国に報じ、大いに話題となりました。レトルトパックしたチキン南蛮カレーも、この“てげうめ”グルメフェアで販売する商品の一つに選ばれ、これが起爆剤になったのです。

ルウ王子「県から『出店しませんか』って誘われ、うちも参加していました。そしてテレビでの報道の際、たまたま東国原さんの手元にうちのカレーがあったんでしょうね。チキン南蛮カレーを手に持って『てげぇうめー!』とおっしゃった。そのシーンが全国に放映されましてね。通販を希望する注文の電話が鳴りやまなくなってしまったんです」

「ルウ王子」になってブログのアクセス数が爆上がり

おでこには「るう」の文字。たまたま100円ショップで買った黄色いマスクのおかげで正式(?)な「ルウ王子」が誕生した image by:吉村智樹

黄色いマスクをして正式に(?)「ルウ王子」になったのも、ほぼ同時期の2008(平成20)年。きっかけはブログでした。

ルウ王子「チキン南蛮カレーを宣伝したかったのですが、広告の予算なんてありません。コネもない。それで『何か発信する方法ないかな』と、ブログを始めたんです。でも1日のアクセス数は、たったの7。自分が見ているだけでした(苦笑)。

それで、もうやけくそになりましてね。100均で黄色いマスクが売っていたので、かぶって登場したんです。キレンジャーはカレーが好きだから、そんなふうに見えるかなと思って」

ブログを始めたものの、1ケタという絶望的なアクセス数。なすすべもなくかぶったのが、黄色いマスクでした。ところが……。

ルウ王子「なぜかその日のアクセス数が150にまで伸びたんです。『もしかして、マスクって注目度が上がるのかな』と、それ以降もかぶるようになりました」

この投稿をきっかけに「黄色いマスクをかぶったカレー屋さんがいる」とネット上でジワジワと噂が広がりました。

機運に乗じて更新回数を増やすなど工夫を重ね、ブログは遂に1日1万アクセスを突破。カレーランキング1位にまで昇ったのだそうです。Twitter(現・X)でも宮崎県内のフォロワーランキングでは当時の東国原知事に続く2位にまでなったいうから驚異。マスクの効果は絶大でした。

そうして、ちゃんとした(?)マスクを特注し、遂にオフィシャル(?)の「ルウ王子」が誕生したのです。


チキン南蛮カレーは遂に行政公認のご当地グルメに

テイクアウト商品を買ってホテルで食べる観光客も多いのだそうだ image by:吉村智樹

ルウ王子が店長になって15年。かつては批判があったチキン南蛮カレーは、いまや都城市の商工観光部もWebサイトに掲載する“行政公認のご当地グルメ”となりました。

とはいえこの15年は「決して平たんな道ではなかった」とルウ王子はしみじみ言います。

ルウ王子「口蹄疫、鳥インフルエンザ、新燃岳(しんもえだけ)の噴火、新型コロナウイルスと、宮崎に逆風が吹くたびにうちもピンチに見舞われました。売り上げが半分にまで落ち、『もはやこれまで』と泣いた日もありましたよ。

そのつど窮地を脱出できたのは、ブログやSNSで早い段階から発信してたのと、テイクアウトやレトルトパック、冷凍セットに力を入れていたからでしょうね」

「カレーの全国発送はコチラでござルウ!!」。2023年、遂にテイクアウト&発送専門店をオープン image by:吉村智樹

「売上の3割がお持ち帰りと発送」というカレー倶楽部ルウは今年(2023)、遂にテイクアウト専用の店を隣に開きました。

ルウ王子「コロナのころ、『宮崎に帰省できない娘や息子、孫にチキン南蛮カレーを贈ってあげたい』という方が増えたんです。チキン南蛮カレーが『故郷を思い出す味』になったのだなんて、感慨深いですよ。

それで、お客様に感謝の気持ちを込め、閉店した弁当屋を改装し、テイクアウトや地方発送の店を開いたんです。とはいえ潤沢な改装費はないですから、僕も仲間たちと一緒に工事のお手伝いをして節約しました(苦笑)」

新しい店はかつて、ルウ王子が役者の夢が絶たれ、失意で帰ってきたお弁当屋さんの跡地でした役者になる夢はかなわなかったけれど、全国にカレーを届ける舞台を生みだせたのです。

チキン南蛮カレーで宮崎に貢献したい

「急須も特製」という、ほうじ茶を注いで食べるカレーも話題に image by:カレー倶楽部ルウ

テイクアウト専門店のオープンだけではなく、「四川旨辛麻婆カレー」や「特製ほうじ茶カレー」「カレー屋のチーズケーキ」「キャンプのカレー」など新製品を続々と発表し、攻めの姿勢を崩さないルウ王子。

「チキン南蛮カレーを宮崎の文化にしたい」と語るルウ王子 image by:吉村智樹

そんな彼には夢があります。

ルウ王子「自分の店だけではなく、チキン南蛮カレーを宮崎名物にしたいですね。うちが発祥だなんて言い張るよりも、博多の明太子や佐世保バーガーのように津々浦々、いろんなお店にさまざまなチキン南蛮カレーがあるほうが楽しい。

他府県からの観光客に『宮崎へ行ってチキン南蛮カレーの食べ歩きをしようね』って楽しんでもらった方が地域に貢献できるし、新しい文化になルウと思うんです」

そういって笑顔を見せた(マスクなので口元まではわかりませんが)ルウ王子。宮崎を旅する際は、ぜひ新たな“南蛮文化”を体験してみまルウ。

  • カレー倶楽部ルウ 都城本店
  • 宮崎県都城市姫城町2-29
  • 0986-26-1010
  • 西都城駅
  • 定休日:不定休
  • 平日 11:00~15:00、17:00~20:00(L.O.19:30)/日曜・祝日 11:00~20:00(L.O.19:30)
  • ホームページ
  • image by:吉村智樹
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京都在住の放送作家兼フリーライター。街歩きと路上観察をライフワークとし、街で撮ったヘンな看板などを集めた関西版VOW三部作(宝島社)を上梓。新刊は『恐怖電視台』(竹書房)『ジワジワ来る関西』(扶桑社)。テレビは『LIFE夢のカタチ』(朝日放送)『京都浪漫』(KB京都/BS11)『おとなの秘密基地』(テレビ愛知)に参加。まぐまぐにて「まぬけもの中毒」というメールマガジンをほぼ日刊で発行している(購読無料)。

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