アメリカに眠る宝の山?リチウム採掘で一発逆転を狙うカリフォルニア州最貧地区

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2024/05/03

スマートフォンや電気自動車(EV)の電源として欠かせないリチウムイオン電池。ここ最近は世界的なEVシフトの波もあり、需要がこの3年で5倍に増えています。しかし世界のリチウム採掘量の約4分の1を中国が独占し、その加工と精製の65%を中国が占めているのが現状です。

そんな中、このリチウム採掘を急務として巨大プロジェクトを進めているのが米国カリフォルニア州。実はカリフォルニアの中でも最貧地区とされるエリアに大量のリチウムが地下に眠っているとされ、次なる「ゴールドラッシュ」が起きるかもしれないと言われています。そこで今回は「砂漠になかに見捨てられた」と言われるこの地に何が起きているのか、その実態に迫ります。

「地獄のキッチン」と呼ばれる街おこしプロジェクト

およそ1年前、2023年3月20日にカリフォルニア州知事のギャビン・ニューサム氏が同州ソルトン湖近くで操業を開始したばかりの地熱・リチウム掘削工場を視察し、記者会見を開きました。

米国カリフォルニア州ソルトン湖 image by:角谷剛

リチウムは電気自動車(EV)のバッテリーに欠かせない資源です。カリフォルニア州では2035年までに州内で販売されるすべての乗用車をゼロ・エミッション(二酸化炭素を排出しない)にすることを決定していて、そのためのエネルギー源を確保するために、リチウム掘削はまさに急務なのです。

記者会見でニューサム知事は会見で次のように述べました。

「これは最も偉大な経済変革の一つです。エネルギー生産方法を変え、クリーンエネルギーを生み出し、そして医療費を削減するための大きな経済的チャンスの一つなのです」

プロジェクトの名称は「Hell’s Kitchen」(地獄のキッチン)。年間41万5千台分のEVバッテリーを生産するに足るリチウム採掘を目指しています。州の未来を担うであろう一大事業にしては縁起の悪い命名だと思いますが、この辺りを訪れたことがある人ならあるいは頷けるかもしれません。

砂漠のなかに見捨てられた土地

南カリフォルニアと言えばビーチやパームツリーのイメージが強いかと思いますが、実は面積の約47%は砂漠地帯に属します。ロサンゼルスやサンディエゴといった大都市は海沿いに集中していて、そこから少し内陸に向けて車を走らせると、すぐにモハーヴェ砂漠やコロラド砂漠といった地域に入っていきます。

ソルトン湖東岸を走る州道111号線 image by:角谷剛

砂漠と言っても、そのほとんどは砂地ではありません。岩石がむき出しになり、背の低い灌木がところどころに生えているだけ。カラカラに乾燥して、見渡す限りに人の姿はない不毛の大地。ロマンチックな要素はまったくありません。神に見捨てられたような土地、そんな風景を想像してもらえるでしょうか。

私には少し変わっているかもしれない趣味がありまして、そうした砂漠の中をドライブすることがけっして嫌いではありません。カリフォルニア州内の砂漠と呼ばれる地域はほとんどすべて通ったことがあると思います。


そのなかでも、とりわけ荒涼という表現が相応しいと感じた土地がコロラド砂漠にあるソルトン湖周辺です。

琵琶湖の約1.5倍の面積を持つこの湖の英語名は「Salton Sea」。その名の通り、まるで海のような大きさを感じさせる内陸湖です。ロサンゼルスから約3時間のドライブで到着することができます。

湖岸に沿って走る州道111号線は片道1車線。交通量は極端に少なく、時折通り過ぎる車両のほとんどは大型トラックではないでしょうか。

ここまで広く平坦な大地は、カリフォルニアでもなかなか見ることはありません。車を停めたくなるような場所は極めて少なく、ただひたすら遠くの地平線に向かって車を走らせます。

以前の記事で紹介した『サルベーション・マウンテン』へロサンゼルスから向かうと、この道を通ることになります。

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1950年代にリゾートとして栄えたボンベイ・ビーチの入り口 image by:角谷剛

ソルトン湖は20世紀初頭に灌漑用水が盆地に流入することで出来た塩水湖です。出ていく水路がないために、水質が悪化し、塩分濃度が上昇し続けています。今では生息する魚類はほとんどありません。その魚を餌とする鳥類の多くも姿を消しました。「カリフォルニア州の歴史で最大の環境災害」と言われることもあります。

1920~50年代には観光地として開発されましたが、そのほとんどが失敗に終わり、現在はその廃墟が残っているだけです。いくら広大な水面と雄大な景色があっても、釣りにも遊泳に適さないのですから、無理もありません。

私が2023年11月に訪れたときも、湖岸のピクニック場にはまったく人影がなく、公衆トイレさえ閉鎖されていました。

インペリアル・バレーがリチウム・バレーへと変貌する?

ボンベイ・ビーチ周辺 image by:角谷剛

ソルトン湖はインペリアル郡とリバーサイド郡にまたがり、周辺はインペリアル・バレーと呼ばれています。

インペリアル郡はカリフォルニア州の内で最も貧しい地域です。東京都の約5倍の面積を持ちながら、人口は約18万人(2020年国勢調査)。観光開発に失敗した後、農業以外にこれといった産業は育たず、現在は約25%の子どもが貧困レベル以下で生活していると言われています。

そのカリフォルニア州最貧地区にあるいは宝の山が埋まっているかもしれないという期待が高まっています。

カリフォルニア大学デービス校の研究者らが2023年に発表したレポート(*1)によると、ソルトン湖のリチウム埋蔵量は3億7500万個のバッテリーに相当する可能性があるとのことです。

*1. Characterizing the Geothermal Lithium Resource at the Salton Sea

リチウム採掘はまだ始まったばかりですが、工場の稼働が始まったことで、地域の雇用や税収が大幅に増加する可能性は大です。人とカネが集まるようになれば、町は発展します。

有名なリゾート地であるパーム・スプリングスはソルトン湖から100キロくらいしか離れていません。車で行けば1時間ほどです。それくらいならアメリカでは近距離と考えられますし、気象条件もほぼ同じです。ソルトン湖やサルベーション・マウンテンの近くにリゾートが誕生してもおかしくはないのです。

パーム・スプリングスにあるマリリン・モンロー像 image by:角谷剛

ご存知の通り、カリフォルニア州は19世紀にゴールドラッシュで急発展を遂げました。21世紀には別の地下資源によって貧困地域が急浮上するかもしれません。そうなる前の姿を見ておくのも悪くはないアイデアでは。

  • image by:角谷剛
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角谷剛(かくたに・ごう) アメリカ・カリフォルニア在住。IT関連の会社員生活を25年送った後、趣味のスポーツがこうじてコーチ業に転身。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持つほか、現在はカリフォルニア州アーバイン市TVT高校でクロスカントリー部監督を務める。また、カリフォルニア州コンコルディア大学にて、コーチング及びスポーツ経営学の修士を取得している。著書に『大谷翔平を語らないで語る2018年のメジャーリーグ Kindle版』、『大人の部活―クロスフィットにはまる日々』(デザインエッグ社)がある。

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