日本人が移民大国「カナダ」で体験したカルチャーショック
図書館の小さな分館にも移住者向けの語学教室がある
日本に暮らす日本人が「図書館」という言葉を聞いたとき、どのような機能を思い浮かべますか?基本的には本を貸し出してくれる場所という以外、まり思いつかないのではないでしょうか。
しかし、移民大国のカナダの場合、図書館では移住者向けに語学レッスンが無料で行われています。語学の教材も極めて充実しており、英語やフランス語以外、例えば中国語など異なる言語を母国語に持つ移住者でも、いち早くカナダの公式言語を学べるようにと、図書館で無料のレッスンまで開催されているのです。
もちろん日本でも、各地の国際交流センターや国際交流プラザ、図書館本館のような施設にて、ボランティアによる日本語教室が外国人市民に向けて無料開催されています。
しかし、その手の施設は各町を代表するような大きな場所がほとんどのはず。カナダの場合は国民の数に対して移住者が多いため、各地の分館などでも普通に無料の語学教室が開催されているのだとか。
また、カナダの場合、図書館が移民や難民に対する一種の相談窓口のような役割を果たしていて、例えば日々のゴミ出しのルールまで、多言語で情報提供をしてくれると複数のカナダ人が教えてくれました。
もちろん日本にも、例えば東京都新宿の「しんじゅく多文化共生プラザ」のように、外国人と日本人の交流の拠点となる場所があります。
日本政府は今後全国に100カ所ほど、同様の施設である「多文化共生総合相談ワンストップセンター(仮)」の設置を地方公共団体に促していくと発表しています。20億円の予算も割り当てられ、多言語対応の一元的な相談窓口を開設していくと計画しているのです。
しかし、現状で同様のサービスを持つ自治体は、さいたま市や浜松市など外国人の在住者が多い地域に限られています。一方で、移民受け入れの「先進国」であるカナダの場合は、その手の窓口が図書館の中にあり、語学教室を含めて移民や難民のスムーズな定住を強力にバックアップしています。
今回は筆者が実際にカナダに訪れて驚いた、移民大国の常識をご紹介しました。カナダを旅している際には、ギリシアなどのヨーロッパ各国、アメリカ、中南米、中東、アジア各国からの移住者と話をする機会が容易に得られ、移民大国であることを肌で感じました。
ただし一部の統計にもあるように、移民大国・多文化主義といいながら、イギリス系、フランス系の人たちからの黒人、アジア人に対する差別的な部分もゼロではないと耳にします。
筆者が旅行中、「カナダ社会ルールに従うのであれば大いにウェルカムではあるが、学校など公共の場所で自分の宗教のルールを曲げないような人は困る」といった、フランス系カナダ人男性からの本音も聞かせてもらいました。
しかし、少なくとも表向きは人種、出身国、民族的な出自、肌の色、宗教、性別、身体的、および精神的障がいに対する差別的な発言が社会的に認められない風潮がしっかりとあり、多文化主義を貫こうと挑戦する美しい姿勢も見られます。
ファーストネーションズ(インディアン)には、税金などで優遇を行うなど、移住者だけではなく、もともとカナダに暮らしていた人たちへの配慮も抜かりなく行っています。
ナイアガラの滝やメープル街道、カナディアンロッキーなどの観光地を周遊する際には、カナダの移民やファーストネーションズに対する姿勢にも注目してみると、より旅の味わいが深まるかもしれません。
- 参考
- 住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数のポイント – 総務省
- 【在留外国人統計(旧登録外国人統計)統計表】 – 法務省
- 外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策 – 内閣府
- An aging population – Statistics Canada
- CONSTITUTION ACT, 1982 – Government of Canada Gouvernement du Canada
- Immigration, Refugees and Citizenship Canada Departmental Plan 2018–2019 – Government of Canada Gouvernement du Canada
- Opening the Library Doors in Welcome – Librarianship.ca
- ヴァレリー・ノールズ著、細川道久訳『カナダ移民史』(明石書店)
- 新保満著『カナダ社会の展開と構造』(未来社)
- 松井茂記著『カナダの憲法 多文化主義の国のかたち』(岩波書店)
- 西川馨著『カナダの図書館』(日本図書館協会)
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