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住民が減り続ける漁師町でなぜ大人気に?アメリカ人が開業した富山「Bridge Bar」

坂本 正敬
坂本 正敬
2019/08/23

京都の西陣に通じる、職場と住居が一体化するバー

お店の前は運河沿いの遊歩道という絶景のロケーション image by:坂本正敬

同店のオーナーであるスティーブンさんは、どうして富山の新湊に移住し、出店を決意したのでしょうか。背景には、新湊でまちづくりを行う友人の存在がありました。

社会人になり、2000年に米国から本格的に移住した東京で、スティーブンさんはまちづくりの企業を経営する友人の明石博之さんと出会います。その友人が新湊へ移住してカフェを開業し成功を収めていると聞いて、富山に会いに出かけたところから始まったそう。

かねてスティーブンさんは住居と職場が近接した暮らしを理想としてきました。そのポリシーは、学生時代の留学で下宿した、古民家が路地に面して軒を連ねる京都の西陣での生活が、ひとつのきっかけになっているといいます。

祭りの曳山も通る道路に面した表玄関側。翻訳事務所と住居の入り口がある。町家の敷地は裏側の運河まで細長くつながっていて、店舗は運河の側にある image by:坂本正敬

ご自身が東京で翻訳家として活動しているころも、住んでいるアパートの隣の部屋を間借りして、事務所にしていたとか。その延長として1階でバーを開き、2階で暮らしながら翻訳仕事をする暮らし方に夢を抱くようになったといいます。

ひとつの町家に住居、事務所を兼ね備えたバーをオープン

店内のカウンター席とセンターテーブルの様子 image by:坂本正敬

友人の助けで、元かまぼこ屋の古民家が運河沿いに見つかると、スティーブンさんはオープンに先駆けて早々に移住を決意します。地元の人を相手に商売するとなれば、まずは自分が地域に飛び込まなければいけないと感じたからだとか。

ただ、バーの規模を考えると、1人では到底できません。「飲食店での勤務の経験があって、調理師免許と運転免許を持っていて、富山に一緒に住み込みで移住してくれる上に、ある程度英語を話せる人がどこかに居れば」と、スティーブンさんは、物件を見つけてくれた友人の明石さんと笑いながら夢見ていたといいます。

オーナーのスティーブンさん(左)とバー・マネージャーの藤井宏祈さん(右)image by:坂本正敬

確かに、普通ならそのような都合のいい人材は、容易に見つかりません。しかし、スティーブンさんは東京にある行きつけの床屋の目の前にあったイタリアンレストランで、現在同店のバーテンダーを務める藤井宏祈さんと出会います。

間違いなく、怪しい外国人だった」と藤井さんは、まだ19歳だった当時を振り返って笑います。しかし、3カ月の話し合いの末、藤井さんも富山への移住を決意し、Bridge Barのオープン準備に動き始めました。

メディアの取材も相次ぐ話題の人気店に

土地の傾斜を生かしたステップダウンフロアのソファ席 image by:坂本正敬

物件探しだけでなく、内外装業者、建築士、施工会社選びなど、事業全体のプロデュースと空間デザインの監修、インテリアコーディネートも、新湊で先行してカフェを経営する友人・明石さんが手伝ってくれたといいます。


紹介された建築士も、膨大な数の質問を通して、スティーブンさんの思いを引き出していったそう。施工会社もタイトなスケジュールの中、複雑な工事を短期間で予定通りに進めてくれました。

そうしたお店作りに関わってくれたメンバーは、1回きりの業者と取引先という関係では終わらず、いまでも大切な友人として交友が続いているとスティーブンさんは語ります。そのような人間関係は、バーをオープンするプロジェクトから転がり出てきた、思わぬ宝物の1つなのだとか。

運河を一望できる中2階のテーブル席 image by:坂本正敬

感謝の思いは、徒歩10分圏内から盛んに足を運んでくれる地元の常連たちにも向けられています。取材中に近所のご高齢の女性が来店すると、スティーブンさんは「新湊に来て出会った、第一町人です」と、筆者に紹介してくれました。目を細め、大きく表情を崩したその笑顔は、地元の人との信頼関係を雄弁に物語っているようでした。

2階のソファ席 image by:坂本正敬

メディアの取材依頼も、多いと聞きます。現に筆者が訪れた日も、テレビ番組のリサーチ会社からメールで15ページ分の質問攻めにあっていたのだとか。もはや富山の「最先端」を走るといっても過言ではないかもしれませんね。


新湊に誕生した13番目の「橋」

 

運河に架かる橋の1つ(東橋) image by:坂本正敬

新湊の中心を流れる運河には12の橋が架け渡されています。「Bridge Barを13番目の橋にしたい」と、スティーブンさんは地元ケーブルテレビのインタビューで、出店前に語っていました。13番目の「橋」が完成したいま、人と人との出会いが、バーを懸け橋に確実に生まれ始めています。

image by:坂本正敬

もちろん、同店は一見の旅行客も大歓迎。近隣には『水辺の民家ホテル カメモとウミネコ』や古民家ゲストハウス『内川の家 奈呉』もあり、時間を気にせずお酒を楽しむ環境もできています。

メジャーな観光地を通り過ぎて終わりという旅の形にどこか満足できない人は、次の北陸旅行でBridge Barを目指してみてはいかがでしょうか早朝には運河を船で通って漁師が海に「出勤」していく、そんな漁師町に誕生したバーです。地元の人との出会いをさかなに、大いにお酒を楽しめます。

ちなみに、アメリカンウイスキーだけで60種類を超えるボトルの品ぞろえの中では、珍しいバーボンが特に充実しているとの話。筋金入りの洋酒ファンにも、必見のバーですよ。

  • Bridge Bar
  • 富山県射水市八幡町1-12-5
  • 090-8098-4690
  • 定休日:月曜
  • 16:00〜23:00
  • 公式サイト
設計を担当した建築士から送られたシロクマのインテリア image by:坂本正敬

翻訳家/ライター。1979年東京生まれ、埼玉育ち、富山県在住。成城大学文芸学部芸術学科卒。国内外の紙媒体、WEB媒体に日本語と英語で執筆する。 主な訳書に『クールジャパン一般常識』(クールジャパン講師会)。

住民が減り続ける漁師町でなぜ大人気に?アメリカ人が開業した富山「Bridge Bar」
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