住民が減り続ける漁師町でなぜ大人気に?アメリカ人が開業した富山「Bridge Bar」
富山県の西側、富山湾(日本海)に面した漁港周辺に、漁師町の新湊(しんみなと)があります。岐阜県北部の飛騨高地を源流に持つ庄川が、富山湾に流れ下る河口付近の海岸沿いに発達した港町で、シロエビやベニズワイガニの水揚げで県内では知られる存在。ただ、お世辞にも全国的な知名度は、高いとはいえません。
いまのところ国内外から人が押し寄せるほどの一大観光地ではありませんし、1950年をピークに地域に暮らす人の数も減り続けています。町を歩いても、日によっては住人より海鳥の方が出会う回数は多いくらい。
そんな漁港の町に移住し、町家を改修して2018年の暮れにバーを開いたハワイ育ちのアメリカ人翻訳家がいます。大手企業のマーケティング部やコンサルティング会社に所属するクレバーな戦略家なら「クレイジー」だと、意思決定を回避する出店計画かもしれません。
しかしいまでは、地元の情報通が「富山で最高におしゃれなバーができた」と話題にするとき、決まって名前を挙げる飲食店になりました。聞けば満席で入れない夜もあるといいます。
そこで今回は、ハワイ育ちのアメリカ人翻訳家であるスティーブン・ナイトさんが新湊にオープンした『Bridge Bar』を紹介します。
徒歩10分圏内の地元民が熱心に通うシックなアメリカ人オーナーのバー
海岸線に沿って東西に広がる新湊の中心部には、内川という運河が流れています。その水辺の景観を「富山のベニス(ベネチア)」と呼ぶ人も居ますが、どちらかというとシェイクスピア作品の舞台になるようなロマンティックな雰囲気ではなく、演歌とスナックが似合う日本らしい漁師町。
Bridge Barに向かうために、県内第2の都市である高岡から万葉線という路面電車にも乗ると、最寄り駅の手前で乗ってきたご高齢の女性から長ネギをプレゼントされました。
そのような人情味あふれる昔ながらの漁師町に、やや異色のアメリカ人翻訳家が移住し、町家を全面的に改修してシックなバーを開いたのですね。条件だけ並べると、勝算は厳しく思えるかもしれません。
しかし、オーナーの期待通り、いまでは徒歩10分圏内の地元の人が客層の7割を占めるくらい、ローカルな常連の心を確かにつかんでいます。さらに、遠く県外、国外からも人を呼び寄せる集客力を持ち始めるまで、評価は右肩上がりを続けているのです。