「変人」は褒め言葉?誰でも参加できるユニークな「京大変人講座」

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2019/08/30

効率化では「アホ」は生まれない。

――なるほど。「アホ」をたくさん育てる場所が京都大学だったんですね。

酒井:しかし、最近は国や産業界の意向もあり、大学の研究費や研究環境などのリソースを、すぐ役に立ちそうな研究へと集中して配分しています。確かに「選択と集中」は効率的な考え方かもしれません。

短期間での成果は期待できます。しかしそれも長くは続きません。将来的にイノベーションに繋がるかもしれない研究も大事なんです。だからこそ、今何の役に立つわからない研究に没頭する「アホ」をたくさん生み出す必要があるんです。

もちろん、マジメな人がいないと社会は成り立ちません。でも全員がマジメだとイノベーションは生まれない。これを私は「変人ナマコ理論」と名付けています。

好きな人にはたまらない「ナマコ」

――「ナマコ」と言うと、あの海にいる「ナマコ」ですか?

酒井:そうです。あの「ナマコ」。ある村に10人の農家がいたとします。自分たちは、10人分のお米を作っていましたがイノベーションを起こし、作業を効率的に進めることに成功しました。5人いれば10人分のお米を作れるようになったんです。10人いれば20人分のお米を作れるようになりますよね。

――そうですよね。

酒井:でも、それでは市場は飽和してしまう。それを避けるには、余った5人は海にでも行って、ナマコを採ってくればいいんです。もしかしたらナマコが食べられることを発見するまでに、何人か死んだかもしれません。でもナマコが「食べられる」ことを発見した人は、新しいイノベーションを起こしたことになるわけです。

――確かに!


酒井:ナマコを採ってきて高い金で売れば経済は自然と回ります。世の中が発展するためには、ナマコを採ってくるような「変人」も必要なんです。ナマコが食べられるようになるまで死人が出たように、新しいことに挑戦するにはリスクが求められます。

「変人」とは、「ナマコが食べられるかもしれない」という好奇心をモチベーションに、「死ぬかもしれない」というギリギリの所を進んでいくようなものだと思います。

もちろん、全員ナマコ漁師になっちゃうと今度はお米を作る人がいなくなります。それでは困りますよね。だからお米を作る人も大切な存在です。どちらも必要なんです。

京都という「別解」が求められているのではないか。

――「京都変人講座」では、ナビゲーターとしてタレントの越前屋俵太さんが務められています。1990年代、コアなファンに人気を集めたTV番組『モーレツ科学教室』では、「ポンチくん」として「とんち博士」こと平智之さんと一緒に、京都の街で体を張って科学の面白さを伝えてきました。

酒井:越前屋俵太さんとは、「不便益」の川上浩司先生(「京都変人講座」では、第5回の講義を担当)を通じて知り合いました。ある懇親会で「京都変人講座」の企画を伝えたところ、話に乗ってくださって。

『モーレツ!科学教室』も好きでよく見ていたのですが、芸人が単に演技をしているのではなく、伝えるポイントなどをしっかり理解して表現されていると感じていました。

第1回の放送は、京大の中に入れないものだから正門前にホワイトボードを持ってきて授業をされてましたね。私たち大学にいる者からすれば、どんだけわかりやすくお話しをしても、聞く人からすればどうしても水戸黄門の印籠のように捉えられてしまうきらいがあります。

そこで越前屋俵太さんには、私たちの話をかみ砕いていただき、ツッコむところはきちんとツッコんでいただく役割を果たしてもらっています。

――私自身も子供の頃、『モーレツ!科学教室』の大ファンでした。私自身は「科学」というものがどうしても苦手で克服はできなかったのですが、あの番組を通じて「既成概念をぶち破る姿勢」や「面白がる態度」というものの片鱗に触れたような気がします。

と同時に、あんな面白いことを京都の街でするということにも驚きました。先生にとって、京都という街はどのような位置づけをされていますか?

酒井:京都の人々は、ちょうど良い距離感で京都大学とお付き合いしているなぁという印象ですね。私たちをエイリアンのように捉えるわけではなく、かといってグイグイ大学に踏み込んで関わろうというわけでもない。その姿勢は、東京や他の街にはないような気がします。

――なるほど。

酒井:「コンプライアンス」や「効率化」一辺倒で、みんな同じ方向を向かなければいけない。そんな状況に、みんなどこかで息苦しさを感じているように思います。

先日、テレビで1日100食限定の料理を提供している『佰食屋(ひゃくしょくや)』を紹介する番組を目にしました。素晴らしいアイデアであると同時に、「人は人、私は私」という京都らしさも感じました。

京都には、何百年と続く老舗もたくさんありますが、決して規模を大きくしようとしていません。みんながみんな同じ価値観を持っていては、商売は成り立たない。これって、「ナマコ理論」ですよね。色々なやり方がある。

もちろん規模を大きくすることを求める企業があってもいいし、「100食分提供すれば今日の営業は終了」というお店があってもいい。京都の街は、他の街にはないような「別解」を今後も生み出すのではないかと感じています。

——–

イノベーションを生むために欠かせない「変人」「アホ」(失礼!)が、いったいどんなことを考えているのかを知るきっかけになる「京大変人講座」。

興味を持たれた方は、公式HPをチェックして次回の開催を心待ちにしてください。もちろん、これまでの講座の内容は、今出版されている『京大変人講座』(三笠書房)でチェックすることも可能。

より理論的に「変人」「アホ」に迫りたい方には、酒井敏先生の本『京大的アホがなぜ必要か』(集英社新書)がおすすめです!

<参考文献>

『京大変人講座 常識を飛び越えると、何かが見えてくる』(三笠書房)
酒井敏/小木曽哲/山内裕/那須耕介/川上浩司/神川龍馬

『京大的アホがなぜ必要か』(集英社)
酒井敏

  • source:KYOTO SIDE
  • ※掲載時の情報です。内容は変更になる可能性があります。
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