itonowaの成功は歴史と糸が教えてくれた。33mの空き家に人が集うわけ
1つ目「地域の歴史を現在につなぐ」
なぜ「糸」というテーマに統一したのでしょうか? その理由は江戸時代にまで遡ります。
itonowaがある島原は、江戸時代より花街(かがい)と呼ばれ、遊宴で賑わい新撰組や勤王の志士などにも愛された、歴史的な文化交流のある地域でした。その一角に、繊維関係のお店がずらりと建ち並んでいた通りがありました。
その通りに位置する一軒の呉服屋を、村田さんのご家族が営んでいます。村田さんは広告会社で経験を積み、5年前に京都に戻ってきました。その当時から、呉服屋の隣は空き家となっていました。高齢化が進み、空き家が増えるこの島原に、かつての活気を取り戻したい! そんな想いで、隣の物件を活用して何か良いアプローチができればと考えはじめたそうです。
もともと、この物件は古くから毎年夏に「地蔵盆」の会場として、町の人々へ場所を開いていたという歴史がありました。地蔵盆とは近畿地方を中心に広まっていた習わし。毎年夏に、そこに住む人々の手によって各地域に祀られる地蔵の像を洗い清め、赤や白の提灯を飾ったり、供養のお菓子や手料理などを皆で振る舞い合ったりという、昔ならではの行事です。
地域が持つ「文化交流」という歴史を復活させ、通りが持つ「繊維」という糸の記憶を紡ぎ、建物が持つ「地域の人たちが集う場所」という役割を受け継ぐ。itonowaの在り方は、それら過去の延長線上に築かれている今であり未来となっています。
空き家を活用して何かをはじめたいという時に「でも何をしよう?」「コンセプトはどうする?」と迷うことがあるかもしれません。しかし、その地域や通りや物件が持つ歴史を辿ると、自ずと歩む先は見つかるのかもしれません。
2つ目「チームを組んで助成金を活用」
itonowa誕生に携わった主なメンバーは、代表・村田さん、京町家の再生をメインとする建築設計・施行の日暮手傳舎(ひぐらしてったいしゃ)さん、アートディレクター兼スタンドコーヒー担当・西山 拓磨(にしやま たくま)さんです。
村田さんが、建築士の吉田 玲奈(よしだ れな)さんに、隣の物件の活用方法を相談したことがきっかけとなり、駒が進みはじめました。ですが、ともに企画を考えていくなかで想い描くイメージは膨らむものの、資金調達をどうするかという壁にあたりました。
そのタイミングで、ちょうど京都市による空き家活用促進の助成金として、2014年度「空き家活用×まちづくり」モデル・プロジェクトの公募が開始されていたのです。京都市の過去類似の助成金と比較しても金額の大きなもので、京都市としても非常に力の入った公募でした。もちろん、それに比例して、厳しい判断基準と高い競争率が予想されるため、採択されるのは至難の業。
さらに驚くべきことに、その公募を知ったのは、なんと締め切りの1ヶ月前。助成金の存在を知った村田さんは、急ピッチで頭の中のイメージを企画書へと落とし込んでいきました。それと同時に、チームで動いた方が互いの強みを持ち寄れるためきっと面白いことができるはずと、アートディレクター・不動産・税務など各専門分野の仲間を集め、多才なメンバーを巻き込んでいきました。そして、約120名の来場者による投票参加型の公開プレゼン審査を経て、見事itonowaの採択が決まりました。
助成金は、管轄や趣旨によって内容や対象は異なりますが、全国的に年間約3000種もの助成金が公募されているといわれています。資金調達に苦戦することがもしあれば、公募中の助成金について一度調べてみてはいかがでしょうか。
また、その際に強力なメンバーを募って知恵を持ち寄ることは、企画の進行を加速させる有効な一つの手段かもしれません。ただし、助成金はあくまで追い風。採択されなくても実現するという想いを胸にした前提で活用を検討するのがいいでしょう。