がん患者にも、髪型の自由を。美を追求する「資生堂美容室」の挑戦
厚生労働省によると、死因の総数第一位にもなっている、がん(悪性新生物)。さらにそのうちの4人に1人は婦人科系ガンともいわれており、治療過程で副作用の強い抗がん剤治療をすることで、頭髪や眉、まつ毛などが脱毛してしまう人が多くいます。
その際に用いられるのが、医療用ウイッグ。患者のQOL(Quality of Life)向上にも繋がる大切なアイテムですが、いままで既存のものが多く、個人に寄り添うことが難しい状況でした。
そこで資生堂美容室が、2年の歳月をかけ自社で医療用ウィッグを開発。専任スタッフも育成し、2020年6月20日から提供をスタートしたのです。
きっかけは、お客様の声だった
資生堂グループの資生堂美容室が、なぜいま、オリジナルの医療用ウイッグの発売を開始したのでしょうか?発売に至るきっかけを同社社長の都築美幸(つづき・みゆき)さんに伺ってみました。
「サロンのなかで実際に担当しているお客様が、がんを宣告されたという経験をした美容師は数多くいると思います。弊社では、35年ほど前からさまざまなボランティアの場面で、活動に多くのスタイリストが主にヘアケアを通して携わってきました」
活動のひとつとして参加した、がん患者が笑顔で生活できることを目指したイベントである「ラベンダーリング」。同イベントに資生堂美容室の多くのスタイリストがボランティア参加し、がんサバイバーの方々へヘアメイクを提案したりするなど、病気が原因で髪を無くされた方と携わるケースを数多く体験したそう。
「そうしたなかで、資生堂美容室としてビューティーの領域のなかでお役に立てないかなと、2年ほど前から考え始めました。そして、医療用ウイッグの開発をすることになったのです」
さらに商品開発とあわせ専門の知識と技術を取得した美容師が必要だということから、同社ではケアアドバイザーという制度・育成も、2019年10月から動き始めます。
このケアアドバイザーとは、資生堂美容室内から選出した美容師がオリジナルの教育カリキュラムを習得し、さらに審査に合格した場合に認定される社内資格のこと。
ウィッグの理論や知識を学び、サイズの測り方や、装着のためのフィッティングのやり方、クリップの止め方などをマスター。ウイッグのメンテナンスの仕方のアドバイスや、似合わせの技術なども学び、ペーパーテストをして実技テストをしたうえで、ようやくケアアドバイザーとして現場に立つことができるのです。
ケアアドバイザーの資格受講は自己申告制でしたが、社内で募集をかけたところ、予想を超える応募者が集まったといいます。
「私たちの医療用ウィッグをお客さまに安心してご利用いただくために、ケアアドバイザーはさまざまな技術・応対の研修を受けます。そのなかのひとつとして、半世紀にわたり外見ケアに取り組み、資生堂内で詳しい知識を持つ『資生堂ライフクオリティービューティーセンター』に、講師として協力を仰ぎました」
ケガや病気による肌の悩みを持つ方へ、メイクによるカバー方法を伝える専門部門「資生堂ライフクオリティービューティーセンター」。そして髪の専門部門の「資生堂美容室」。
誰しもに美しさを提供する資生堂としてトータルビューティーにこだわり、グループ内で協力した結果、医療用ウィッグ発売にようやく至ったのです。
たどり着くまでに2年。情熱とこだわりが詰まった開発ストーリー