名作『グーニーズ』の聖地も。レイモンド・カーヴァーを育てたオレゴン州の田舎町

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2023/01/18

ブルーワーカーの貧しい現実をリアルに描いた作家

コロンビア川に沿って走る線路。image by:角谷剛

ポートランドからコロンビア川に沿ってアストリアへ向かう道の途中に、クラッツカニーというさらに小さな町があります。

人口は2,000人にも満たず、面積は約3平方kmという数字から、その規模が想像できるでしょうか。川の水運を利用した製材業が主な産業だということです。

私はバスでアストリアに向かう途中でこの町に通りかかりました。寂れたメインストリートには人通りも少なく、まるで浜田省吾の名曲『Money』を連想させるような町でした。

現代アメリカ文学を代表する短編小説家であり、詩人でもあったレイモンド・カーヴァーはこのクラッツカニーで生まれました。

「レイモンド・カーヴァー」image by:Unknown sourceUnknown source, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

父親は製材所につとめるブルーワーカーで、もともとはアーカンソーの出身でした。

ジョン・スタインベック著『怒りの葡萄』(原題:The Grapes of Wrath)のように、不況の1930年代に職を求めてアメリカの南部地方から西海岸へ移住してきた人々のひとりです。

クラッツカニーのメインストリートにはレイモンド・カーヴァーの壁画がある。image by:角谷剛

カーヴァー自身は一家のなかで初めて高校を卒業しましたが、卒業後は父親と同じく製材所につとめるブルーワーカーになりました。19歳のときに当時16歳の女性と結婚し、その後も職と住居を転々としながら、21歳になる頃には2人の子どもの父親に。

生活は貧しく、妻との関係は悪化し、そしてアルコール依存症に苦しみ、カーヴァーの若き日々は苦難の連続でした。この頃の過酷な生活体験が、その後のカーヴァー文学の根幹をなしていることは間違いありません。

カーヴァー本人はミニマリズムと呼ばれることを好んでいなかったそうですが、切り詰めたような簡潔な文章で、主に労働者階級と見られる一般的なアメリカ人の日常生活を好んで題材にしました。


ジャック・ロンドンのような波乱万丈なドラマも、アーネスト・ヘミングウェイのような大掛かりな舞台設定も、スコット・フィッツジェラルドのような華麗な大富豪も、そしてジョン・スタインベックのような強烈な社会的メッセージも、カーヴァーの作品では見ることはありません。

地味で淡々としている、という印象を受ける人も多いでしょう。それが私にはオレゴン州の田舎町が持つ雰囲気と似通っているように感じられます。

カーヴァーは最初の妻と別居することになった翌年にアルコール依存症治療施設に入り、自ら酒を断つことで第2の人生を始めることに成功します。

そして39歳のときに詩人テス・ギャラガーと出会ったことが、カーヴァーの作家としても私生活の上でも大きな契機になりました。

ギャラガーはカーヴァーの良き理解者となり、2人はそれから11年間を一緒に過ごしながら、数多くの詩集や短編集を出版しました。その活動期間が1977年から1988年。つまり主に80年代。『グーニーズ』を始め、上に挙げたいくつかの映画とほぼ同時代です。

「アストリア」の街並み。image by:Sveta Imnadze/Shutterstock.com

1988年に50歳だったカーヴァーは肺がんで亡くなりました。ギャラガーと正式に結婚が成立したのはその死のわずか約1カ月半前のことでした。この人の死もまた80年代の終わりを象徴するひとつの出来事のようにも感じます。

村上春樹氏がカーヴァーの全作品を日本語訳してくれていますので、翻訳版を探すことは難しくないはずです。興味のある人は一読してみてはいかがでしょうか。

カーヴァー自身がアルコール依存症施設に入所していた頃の経験がもとになった『ぼくが電話をかけている場所』(原題:Where I’m Calling From)が私一番のおすすめです。

  • image by:角谷剛
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角谷剛(かくたに・ごう) アメリカ・カリフォルニア在住。IT関連の会社員生活を25年送った後、趣味のスポーツがこうじてコーチ業に転身。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持つほか、現在はカリフォルニア州アーバイン市TVT高校でクロスカントリー部監督を務める。また、カリフォルニア州コンコルディア大学にて、コーチング及びスポーツ経営学の修士を取得している。著書に『大谷翔平を語らないで語る2018年のメジャーリーグ Kindle版』、『大人の部活―クロスフィットにはまる日々』(デザインエッグ社)がある。

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