きっかけは「よそ者」の好奇心。媒体のないウェブメディア誕生の裏話

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2016/02/01

東北から全国ニュースを創り、発信する

きっかけは「 よそ者 」の好奇心。媒体のないウェブ メディア 誕生の裏話

「THE EAST TIMES」で取り扱う内容は主に3つのジャンルに分けられます。

1つ目が全国ニュースの解説や深堀り。インターネットでは取り上げられる情報量が、紙に比べて裁量があります。また決まった時間にしか情報発信できない紙とは違い、ネットでは24時間いつでもニュースを打ち出せるため、より早く情報を読者の手元に届けることができます。速報性と情報量という面でネット記事が持つ柔軟性を生かし、独自の目線でニュースを解説します。

2つ目が東日本大震災の話題を取り上げること。震災関連の記事を書く際は、必ず動画を入れるようにしているそうです。テキストだけの記事に比べ、読者の視覚・聴覚に強く訴えかけることができ、説得力が増すとのこと。現地で撮影した写真を集めた特集を組むこともあり、ビジュアルコンテンツをうまく活用しているそうです。

「現地に住んでいれば、復興がどのような状況で進んでいるかを肌で感じることができますが、一歩被災地の外に出ると『もう復興したよね』と思っている人も少なくありません。確実に、人々の記憶は風化しているんです。被災者というひとつの枠でとらえるのではなく、震災ひとつとっても、一人ひとり違った思いや記憶をもっている。それを目に見える形で残していくことはできないか、と考えました」と安藤さんは話します。

3つ目が東北を中心とした全国各地の地域ネタ。特に反響が大きかった仙台市天文台で販売されているお菓子「アースキャンディー」の話題をはじめ、地元の面白い話題を取り上げ、発信しています。

中野さんは「全国ニュースよりも、地域ニュースの方がおもしろいってことが多々あるんですよね。独自の視点が盛り込まれているから、違う地域に住んでいる人がニュースを見ると新鮮味がある。ニュースを見て新鮮さを感じた人が、実際にその土地に出向くきっかけになるかもしれません。しかし、普段こうしたネタは新聞の地域面にしか載らない。そうなると情報を知ることができるのは、読者である地元の人々だけ。外部の人は知る機会すらないんですよね」と話します。

「THE EAST TIMES」は、地域ネタでも全国ニュースとして伝えるということに重きをおいているそうです。こうした取り組みのきっかけは、2人の純粋な好奇心からでした。

「地域の様々なスポットに行き、意識的に周りを見渡してみると、普段生活しているときに見過ごしてしまっていそうな、おもしろいものにあふれている。私たちは純粋に『こんな面白いものが東北にはあるんだよ』と伝えたいんです」と安藤さん。

中野さんも「インターネットが広く普及した今、8割から9割の情報が検索によって手に入れることができる、と言われています。しかし、裏を返せば1割から2割の情報はインターネットで見つからないということです。それは記者が現地に足を運び、直接インタビューすることで得られる生の声。インターネットを使って裏をとれなかった情報こそが、現代における報道の価値だと思います。現場に行って読者の目となり耳となり、自らの言葉で広く発信していくことが求められているんですね」。


取材をせずに、既出の情報を無断でコピーアンドペーストしたような記事が多数生み出されているインターネットメディアがはびこる中、「THE EAST TIMES」は現場主義を貫いています。インターネットの拡散力を生かしつつも、新聞と同等のクオリティを保つため、データチェックには1記事平均5時間かけるそうです。

地域からの情報発信に新しい風を送り込もうとしている二人は、どのような経緯をたどり、今の活動を始めるようになったのでしょうか。

「THE EAST TIMES」編集長の安藤歩美さん

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千葉県で生まれ育ち、大学・大学院時代は東京で過ごした安藤さん。東北には縁もゆかりもなかったと言います。当時は国際協力に関心があり、卒業後も外交官になろうと考えていたそう。

しかし、大学院在学中に東日本大震災に伴うボランティア活動のため、宮城県女川町へ足を運んだことがきっかけで安藤さんの価値観が大きく変化します。

「ボランティアを通じて地元に住んでいる一人の男性と話す機会がありました。その方は奥さんと娘さんを震災で亡くされていました。辛い状況に置かれているにも関わらず、『それでも負けてられないよな』と涙をこらえながら力を込めて話をする姿は今でも忘れられません。生きることに真摯に向き合う様子を見て、人間をじっくりと見つめ、描いていきたいと思うようになりました」。

大学院卒業後は某全国紙に就職し、2年間新聞記者として仙台で震災報道を中心とした取材・記事執筆を行っていました。仙台を拠点に被災地を駆け回るうちに安藤さんにとって「東北」はかけがえのない存在になっていきました。若くして独立を決意した背景には何があったのでしょうか。

「東北で深く掘り下げて取材していきたいテーマを見つけたんです。でも会社勤めをしながら追求するのではいずれ限界が来るだろうと感じました」。

記者として地元の人と関わっていくことで感じたものも理由としてあるそうです。

「記者の仕事を通じて東北にはいいものがたくさんあるのに、地元の人はそれに気づいていないと感じました。関東で生まれ育った『よそ者』の私だからこその視点を大切にして東北の魅力を発信していきたいとの思いで『THE EAST TIMES』を立ち上げました」。

「THE EAST TIMES」代表の中野宏一さん

きっかけは「 よそ者 」の好奇心。媒体のないウェブ メディア 誕生の裏話

中野さんは秋田県湯沢市で生まれ、小学校からは埼玉県所沢市に住んでいました。東京の大学・大学院に通い、法律や政治を勉強していました。

大学の専攻とは別に、メディアと政治の関係にも関心を持っていた中野さんは新聞社に就職。3年間校閲の仕事をした後、ソーシャルメディア分析を行うITベンチャーに転職します。

2013年の参院選でネット選挙が解禁された際には、Twitterから世論を分析するツール開発に携わりました。

仕事に没頭していたものの、働きすぎでドクターストップがかかり仕事を辞めざるを得なくなります。退職後は、フリーランスとしてPRコンサルタントの仕事を請け負っていました。そんな中、大学の後輩にあたる安藤さんに誘われ、2人でTHE EAST TIMESを立ち上げます。それまであまり関わってこなかった地域メディアに携わるようになったのはなぜでしょうか。

「物心ついたころから、東北のいいところが外部に伝わっていないということにもどかしさを感じていました。同時に、外の人から『東北ってダサいよね』と言われるたび悔しかったんです。フリーになったタイミングで安藤から話が来たので、『これは』と思い関わるようになりました。同時に、今までの経験を活かして地域のブランド化という側面からもお手伝いしたいなと考えました」。

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